このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2003年9月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
エストロゲン受容体(上:ホルモン結合部位 紫の分子は卵胞ホルモン(PDB:1a52) 下:DNA結合ドメイン 淡茶色はDNAの主鎖、ピンクはDNAの塩基、緑は亜鉛イオン(PDB:1hcq))

我々の体は一生のうちに2度大きな急成長をする。最初の急成長は恐らく覚えていないだろう。それは1つの細胞から完全な1個体になる最初の数ヶ月に起こった出来事なのだから。一方、2つ目の急成長については多くの記憶があることだろう(あるいは今その記憶を作っている最中かもしれない)。思春期の間、性ホルモンが2度目の急成長と発達を起こすよう然るべき組織に指示を行う。女性の場合、エストロゲンホルモンがこの変化の調整に主として関わっている。エストロゲンは卵巣で作られ、血流に乗って数秒のうちに体全体に届けられ、子供から大人への成長を指示する。

源への直行

エストロゲンは小さくて炭素に富んだ分子で、コレステロールから作られる。この分子は、インシュリンや成長ホルモンのようにより分子量の大きなホルモンとはかなり違っていて、細胞表面の受容体によって感知される。エストロゲンは身体中の細胞に直接入り込む。そのため細胞は、核の中にある受容体をDNAが活動する場のすぐそばで利用することができる。エストロゲンが核に入ると、エストロゲン受容体に結合して組になり2量体を形成する。この2量体はDNAにある何十個もの特定部位に結合する。この結合部位は、活性化する必要のある遺伝子と隣接した場所に戦略的に配置されている。そして、このDNAに結合した受容体はDNA読み取り機構を活性化し、メッセンジャー(伝令)RNAの生産(転写)を開始させる。

大きなファミリー

研究者たちがヒトのゲノムを調べた時、エストロゲン受容体に似たタンパク質を150種以上も発見した。これは核受容体の大きなファミリーで、小さなホルモンや信号伝達の分子(ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、ビタミンD、レチノイン酸など)の濃度を検知する。これらの分子は全て、エストロゲンのように、細胞内に直接入り込んで核に行く道筋を見つける小さな分子である。これらの受容体はそれぞれに特有な信号伝達分子に結合し、その受容体自身をコードする50〜100の遺伝子を活性化または抑制を行う。なお、遺伝的観点で見た核受容体についての更なる説明を、欧州バイオインフォマティクス研究所の「 今月のタンパク質 」で見ることができる。

エストロゲンの認識

エストロゲン受容体やその他の核受容体は、1本の長い鎖につながる数個の部分で構成されている。そのうち2つの部分の構造をPDBで利用することができる。一方の端は、上図下に示すホルモンに結合する部分(PDBエントリー 1a52 )である。この構造には紫色で示したエストラジオール(卵胞ホルモン)が結合している。これに特有のDNA配列を認識するDNA結合ドメインがつながる(上図上、PDBエントリー 1hcq )。最終的に、DNA結合ドメインの末端に大きなトランス活性化ドメインが付加される(ここには示していない)。受容体がDNAに結合すると、この構造がRNAポリメラーゼを活性化する。

エストロゲンとがん

左上:エストラジオール(卵胞ホルモン) 右上:エストロゲン受容体のホルモン結合部にエストラジオールが結合したもの(PDB:1qku、卵胞ホルモンは外面からは見えていない) 左下:タモキシフェン(乳がんなどの治療薬) 右下(エストロゲン受容体のホルモン結合部にタモキシフェンが結合したもの(PDB:3ert、信号伝達環が開いて不活性型になっている)

エストロゲンは細胞が適切な時に成長できるようにしている。これは思春期の間だけでなく、大人になっても必要なものである。例えば、エストロゲンは骨の成長に重要で、エストロゲン濃度が下がると骨粗鬆症を引き起こす。しかしがんの場合、エストロゲンは異常な成長を促し病気を悪化させてしまう。そこでタモキシフェン(tamoxifen)という治療薬が、エストロゲンの作用を阻害してがんを治療するのに用いられている。タモキシフェンは低分子の薬剤で形はエストロゲンに似ており、エストロゲン受容体に強く結合する。これが結合すると、受容体の表面にある信号伝達環(緑色部分)の形が変化する。上図上の分子は、エストラジオール(estradiol)が結合したもの(PDBエントリー 1qku 、エストラジオールは環の下に結合しているためこの図では見えていない)である。このようにまとまった構造をとった環は、通常の成長を刺激する活性化信号の一部を形成する。一方上図下の分子は、治療薬のタモキシフェン(tamoxifen)が結合したもの(PDBエントリー 3ert )である。治療薬はホルモンよりも大きな分子なので、活性化環の構造を不活性型に変え、成長信号を阻害する。

構造をみる

DNA二重らせん(左の分子、黄色は主鎖、赤は塩基)とエストロゲン受容体のDNA結合ドメイン(右の分子、原子種ごとに色分けしている部分はDNA配列を認識するαらせん、黄色はジンクフィンガー構造を安定化させているシステインアミノ酸残基、緑は亜鉛イオン) PDB:1hcq

PDBエントリー 1hcq ではエストロゲン受容体のDNA結合部分を見ることができる。受容体は2つの「ジンクフィンガー」(zinc finger、亜鉛の指)を使ってDNAに結合する。亜鉛イオンの周りには小さなドメインが作られている。4分子のシステインアミノ酸(黄色)が亜鉛イオン(緑)の周りを取り囲んで丈夫な芯を形成し、ドメインが強固な構造となるようにしている。受容体はDNAの大きな溝にαらせんを配置している(上図はらせんを見下ろして見ている)。このらせんの一方の側にある数個のアミノ酸が手を伸ばして塩基の端をつかみ、DNAが適切な配列であることを確かめている。

2003年9月時点でPDBに登録されていた全てのエストロゲン受容体一覧をこちらのリストに掲載しています。

2003年9月 のキーワード検索による関連PDBエントリー一覧
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PDB ID Title Authors Publication Year Journal Name Volume No First Page Pubmed ID
1a52 Crystallographic comparison of the estrogen and progesterone receptor's ligand binding domains. D.M.Tanenbaum, Y.Wang, S.P.Williams, P.B.Sigler 1998 Proc Natl Acad Sci U S A 95 5998 9600906
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1err
1g50 Overexpression, Purification, and Crystal Structure of Native Er Alpha Lbd S.Eiler, M.Gangloff, S.Duclaud, D.Moras, M.Ruff 2001 Protein Expression Purif. 22 165 11437591
1gwq Interaction of Tif2 Nr-Box Peptides with the Coactivator Binding Site of Er Alpha A.Warnmark, E.Treuter, J.-A.Gustafsson, R.E.Hubbard, A.M.Brzozowski, A.C.W.Pike 2002 J.Biol.Chem. 277 21862 11937504
1gwr
1hcp DNA recognition by the estrogen-receptor - from solution to the crystal. J.W.R.Schwabe, L.Chapman, J.T.Finch, D.Rhodes, D.Neuhaus 1993 Structure 1 187 16100953
1hcq The crystal structure of the estrogen receptor DNA-binding domain bound to DNA: how receptors discriminate between their response elements. J.W.Schwabe, L.Chapman, J.T.Finch, D.Rhodes 1993 Cell 75 567 8221895
1hj1 Structural Insights Into the Mode of Action of a Pure Antiestrogen A.C.Pike, A.M.Brzozowski, J.Walton, R.E.Hubbard, A.G.Thorsell, Y.L.Li, J.A.Gustafsson, M.Carlquist 2001 Structure Fold.Des. 9 145 11250199
1kv6 Structural and Functional Evidence for Ligand-Independent Transcriptional Activation by the Estrogen-Related Receptor 3 H.Greschik, J.-M.Wurtz, S.Sanglier, W.Bourguet, A.Van Dorsselaer, D.Moras, J.-P.Renaud 2002 Mol. Cell 9 303 11864604
1l2i Structural Characterization of a Subtype-Selective Ligand Reveals a Novel Mode of Estrogen Receptor Antagonism A.K.Shiau, D.Barstad, J.T.Radek, M.J.Meyers, K.W.Nettles, B.S.Katzenellenbogen, J.A.Katzenellenbogen, D.A.Agard, G.L.Greene 2002 Nat.Struct.Biol. 9 359 11953755
1l2j
1lo1 Monomeric Complex of Human Orphan Estrogen Related Receptor-2 with DNA: A Pseudo-Dimer Interface Mediates Extended Half-Site Recognition M.D.Gearhart, S.M.A.Holmbeck, R.M.Evans, H.J.Dyson, P.E.Wright 2003 J.Mol.Biol. 327 819 12654265
1nde A New Series of Estrogen Receptor Modulators that Display Selectivity for Estrogen Receptor Beta B.R.Henke, T.G.Consler, N.Go, R.L.Hale, D.R.Hohman, S.A.Jones, A.T.Lu, L.B.Moore, J.T.Moore, L.A.Orband-Miller, R.G.Robinett, J.Shearin, P.K.Spearing, E.L.Stewart, P.S.Turnbull, S.L.Weaver, S.P.Williams, G.B.Wisely, M.H.Lambert 2002 J.Med.Chem. 45 5492 12459017
1qkm Structure of the Ligand-Binding Domain of Oestrogen Receptor Beta in the Presence of a Partial Agonist and a Full Antagonist A.C.W.Pike, A.M.Brzozowski, R.E.Hubbard, T.Bonn, A.-G.Thorsell, O.Engstrom, J.Ljunggren, J.-A.Gustaffson, M.Carlquist 1999 Embo J. 18 101 10469641
1qkn
1qkt The Crystal Structure of an Estrogen Nuclear Receptor Mutant Suggest a Molecular Mechanism for the Agonism Antagonism Switch M.Ruff, M.Gangloff, S.Eiler, S.Duclaud, J.M.Wurtz, M.Dino 2001 J.Biol.Chem. 276 15059 11278577
1qku
1uom Estrogen Receptor Modulators: Identification and Structure-Activity Relationships of Potent Eralpha-Selective Tetrahydroisoquinoline Ligands J.Renaud, S.F.Bischoff, T.Buhl, P.Floersheim, B.Fournier, C.Halleux, J.Kallen, H.Keller, J.-M.Schlaeppi, W.Stark 2003 J.Med.Chem. 46 2945 12825935
3erd The structural basis of estrogen receptor/coactivator recognition and the antagonism of this interaction by tamoxifen. A.K.Shiau, D.Barstad, P.M.Loria, L.Cheng, P.J.Kushner, D.A.Agard, G.L.Greene 1998 Cell 95 927 9875847
3ert

エストロゲン受容体についてさらに知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

  • Evans, R. 1988 The steroid and thyroid hormone receptor superfamily. Science 240 889-895
  • Beato, M., Herrlich, P. and Schutz,G. 1995 Steroid hormone receptors: many actors in search of a plot. Cell 83 851-857
  • MacGregor, J.I. and Jordan, V.C. 1998 Basic guide to the mechanisms of antiestrogen action. Pharmacological Reviews 50 151-196



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2003-09-01 (last edited: 7 months ago)2016-09-09
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