このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2008年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
低分子干渉RNA(左上 PDB:2f8s)、ダイサー(右上 PDB:2ffl)、アルゴノート(下 PDB:1u04)

2本鎖RNAの存在はトラブルの兆候であることが多い。なぜなら、我々の細胞が持つRNAは、ほとんどが1本鎖の状態で存在しているからである(特にmRNAに関しては。但し例外的に、tRNAとリボソームはヘアピン状構造を取って短い2本鎖領域を形成している。)一方、多くのウイルスは長く伸びた2本鎖RNAを形成した上でゲノムを複製している。よって、細胞内に2本鎖RNAが見つかると、それは感染の兆候であることが多いため、往々にして細胞死を伴う活発な反応を開始する。ところで動植物の細胞は、ウイルスを直接攻撃するより対象を限定した防衛手段も持っている。この攻撃はRNA干渉(RNA interference、RNAi)と呼ばれている。

干渉の流れ

RNA干渉は、ウイルスの複製などによってできた長い2本鎖RNAがきっかけとなって始まる。ダイサータンパク質(dicer、左図の右上にある青い分子、PDBエントリー 2ffl )が、このRNA分子を小さい特徴的な断片へと切断する。その結果形成される、長さ約21塩基対のRNA断片は「低分子干渉RNA(small interfering RNA、siRNA)」と呼ばれ、約2塩基対分片方の鎖が突き出し、その反対側の端にはリン酸が残った特徴的な構造をしている(左図の左上にある赤い分子、PDBエントリー 2f8s )。この特徴はダイサーによって簡単に認識される。ダイサータンパク質の中にある4つのマグネシウムイオン(図中の赤紫色の球)の並びに注目して欲しい。それらは2つのずれた切れ目をRNA2本鎖の中に作り、ひっかかりを形成していると考えられている。

アルゴノート

ダイサーによって作られた低分子干渉RNA分子は、アルゴノート(argonaute)タンパク質によって拾い上げられ、周囲に漂っている他のウイルスRNAを破壊するのに使われる。左図の下に青色で示しているアルゴノートタンパク質はPDBエントリー 1u04 のもので、低分子干渉RNAから一方の鎖をひきはがし、それに適合するmRNAを探す。それが見つかったら、RNAを切断し、破壊する。このようにして細胞は、ダイサーによって見つけられた元の2本鎖断片と同じようなmRNAを除去する(豆知識:アルゴノートタンパク質は、アオイガイ(Argonaut、貝殻を持つタコの仲間)が持つらせん形の貝殻に似た形をした植物の変異体から発見された。)

低分子RNAの海

RNA干渉が発見されてから数年のうちに、当初考えられていたよりもずっと広い範囲でこの反応過程が発見されるようになり、RNA小片は多くの機能的役割を持っていることが明らかになった。siRNAと似たものとして、マイクロRNA(microRNA)と呼ばれる分子があるが、これは細胞核において通常のRNAから作られるものである。マイクロRNAもダイサーによって処理され、RNAを対合しRNAの利用を阻害することにより通常のmRNA利用を調整する働きをしている。またDNAゲノム中で相補的な配列が見つけ、メチル化やヒストン結合の水準を変化させることにより染色体の性質を調整する役割も担っている。

科学におけるRNA干渉

動植物細胞は、特定のRNA鎖を破壊するこの機構をあらかじめ持っており、科学者たちはこれを最大限利用してきた。現在は、人工的に干渉RNAを合成して細胞内に注入し、任意のmRNAを破壊することができる。これが遺伝子の機能を決定するための速くて簡単な方法である。ほとんどのmRNAを破壊するよう調整した干渉RNAを使い、タンパク質の合成速度を低下させると、どこがおかしくなったのかを見ることができるのである。医学研究者は、例えばガン遺伝子を破壊するといった闘病のために低分子RNAを利用することも試みている。

ウイルスの反撃

siRNA(左、赤)と抑制タンパク質(右、青)、PDB:1r9f

ウイルスは巧妙で、攻撃されてそのままじっとしていることはまずない。ウイルスはRNA干渉に対して反撃する方法を持っている。ここに示したタンパク質はトマトブッシースタントウイルス(Tomato bushy stunt virus、TBSV)によって作られた抑制タンパク質(PDBエントリー 1r9f )である。siRNAに結合し、ウイルスのmRNAを破壊するその働きを阻害する。左図に青で示した抑制タンパク質が、どのようにしてものさしのように働き、橙と赤で示した低分子干渉RNA(siRNA)の両端をを積み上げているのかに注目して欲しい。このようにして、抑制タンパク質はsiRNAとぴったりの長さを持つRNA小片だけを見つけ出して阻害するのである。

構造を見る

PAZドメイン(青)とsiRNA(赤)、PDB:1si3

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

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ダイサーによって作り出されたsiRNA分子は簡単に認識できる。それは、長さがそろっていて、通常みられない出っ張りが両端にあるからである。上図に青でしめした構造は、PDBエントリー 1si3 から得られたアルゴノートの「PAZ」ドメインで、多くのタンパク質がsiRNAの末端(上図の橙色で示した領域)を認識するのに用いているものである。ぶら下がっている塩基がどのようにして小さな窪みに結合しているか、そして外に出ている短い方の鎖の末端がどのようにタンパク質の小さな出っ張りによって覆われているか、に注目して欲しい。

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PDB ID Title Authors Publication Year Journal Name Volume No First Page Pubmed ID
1jfz Crystallographic and modeling studies of RNase III suggest a mechanism for double-stranded RNA cleavage. Blaszczyk, J., Tropea, J.E., Bubunenko, M., Routzahn, K.M., Waugh, D.S., Court, D.L., Ji, X. 2001 Structure 9 1225 11738048
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1rc7
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1si2 Structural basis for overhang-specific small interfering RNA recognition by the PAZ domain. Ma, J.B., Ye, K., Patel, D.J. 2004 Nature 429 318 15152257
1si3
1vyn Structure and nucleic-acid binding of the Drosophila Argonaute 2 PAZ domain. Lingel, A., Simon, B., Izaurralde, E., Sattler, M. 2003 Nature 426 465 14615801
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1yyo
1yyw
1yz9
1z25 Purified Argonaute2 and an siRNA form recombinant human RISC. Rivas, F.V., Tolia, N.H., Song, J.J., Aragon, J.P., Liu, J., Hannon, G.J., Joshua-Tor, L. 2005 Nat.Struct. Mol.Biol. 12 340 15800637
1z26
1zbh Structural basis for 3'-end specific recognition of histone mRNA stem-loop by 3'-exonuclease, a human nuclease that also targets siRNA Cheng, Y., Patel, D.J. n/a To be Published n/a n/a n/a
1zbu
2b9z The structure of the flock house virus B2 protein, a viral suppressor of RNA interference, shows a novel mode of double-stranded RNA recognition. Lingel, A., Simon, B., Izaurralde, E., Sattler, M. 2005 Embo Rep. 6 1149 16270100
2bgg Structural insights into mRNA recognition from a PIWI domain-siRNA guide complex. Parker, J.S., Roe, S.M., Barford, D. 2005 Nature 434 663 15800628
2ez6 Structural Insight into the Mechanism of Double-Stranded RNA Processing by Ribonuclease III. Gan, J., Tropea, J.E., Austin, B.P., Court, D.L., Waugh, D.S., Ji, X. 2006 Cell (Cambridge,Mass.) 124 355 16439209
2f8s A Potential Protein-RNA Recognition Event along the RISC-Loading Pathway from the Structure of A. aeolicus Argonaute with Externally Bound siRNA. Yuan, Y.R., Pei, Y., Chen, H.Y., Tuschl, T., Patel, D.J. 2006 Structure 14 1557 17027504
2f8t
2ffl Structural Basis of Double-Stranded RNA Processing by Dicer MacRae, I.J., Zhou, K., Li, F., Repic, A., Brooks, A.N., Cande, W.Z., Adams, P.D., Doudna, J.A. 2006 Science 311 195 16410517
2g92 Structure and Gene Silencing Activity of siRNAs with a Ribo-difluorotoluyl Nucleotide Xia, J., Noronha, A., Toudjarska, I., Li, F., Akinc, A., Braich, R., Frank-Kamenetsky, M., Rajeev, K.G., Egli, M., Manoharan, M. 2006 Acs Chem.Biol. n/a n/a 17163665
2nue A stepwise model for double-stranded RNA processing by ribonuclease III. Gan, J., Shaw, G., Tropea, J.E., Waugh, D.S., Court, D.L., Ji, X. 2007 Mol.Microbiol. 67 143 18047582
2nuf
2nug

低分子干渉RNAについてさらに知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

  • L. Peters and G. Meister 2007 Argonaute proteins: mediators of RNA silencing. Molecular Cell 26 611-623
  • L. Aagaard and J. L. Rossi 2007 RNAi therapeutics: principles, prospects and challenges. Advanced Drug Delivery Reviews 59 75-86
  • D. J. Patel, J. B. Ma, Y. R. Yan, K. Ye, Y. Pei, V. Kuryavyi, L. Malinina, G. Meister and T. Tuschl 2006 Structure biology of RNA silencing and its functional implications. Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology 71 81-93



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2008-02-01 (last edited: 6 months ago)2016-09-09
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