このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2013年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
神経シナプス小胞から得られたSNAREタンパク質複合体(PDB:1sfc、1br0) 青は小胞側に結合したSNAREの一種シナプトブレビン(synaptobrevin)、赤のシンタキシン(syntaxin)と緑のSNAP-25は融合先側に結合したSNARE

細胞内外でタンパク質などの分子を輸送する時、小さな膜に囲まれた 小胞 (vesicle)が貨物トラックのように用いられる。この小胞が目的地に到着すると、膜と融合して中の荷物を引き渡す。例えば、消化酵素は細胞内にある小胞を使ってゴルジ体( Golgi apparatus)から最終目的地であるリソソーム(lysosome)へと運搬される。また分子を細胞の中から外に運搬する時にも小胞が用いられる。例えば、神経伝達物質(neurotransmitter)は神経シナプス(synapse)の細胞膜と小胞が融合して放出される。2013年のノーベル賞はこの小胞融合に関する過程について中心的な分子機構を明らかにした3名の研究者に対して贈られた。

小胞を捕らえる

小胞の融合は SNAREタンパク質 (snare Protein)に依存している。この短いタンパク質は小胞を融合先となる膜につなぎ止め、両者の脂質二重層が融合するのを助けている。SNAREタンパク質は膜を貫く部分や共有結合で付加された脂質鎖で、小胞と融合先それぞれの表面に結合している。この2つがくっついて強固なαらせんの束ができ、両方の膜が近くに引き寄せられる。ここに示すのは神経シナプス小胞(nerve synaptic vesicle)から得られた複合体の構造(PDBエントリー 1sfc1br0 )である。小胞にはSNAREタンパク質の シナプトブレビン (synaptobrevin、青で示す部分)というSNAREタンパク質が、細胞膜には シンタキシン (syntaxin、赤で示す部分)と SNAP-25 (緑で示す部分)という2つのSNAREタンパク質が含まれている。

膜の融合

実験によって2つか3つのSNARE複合体があれば小胞と膜を融合させるのに充分な力が得られることが明らかになった。またこの融合には、SNAREタンパク質に付き添って融合が起こる時間と場所の制御を助ける別のタンパク質がいくつか必要なことも分かってきた。しかし現在科学的に分かっているのはそこまでである。どのようにして小胞膜の脂質が融合先となる膜に挿入されるのかについてはまだ細胞生物学における大いなる謎の一つになっている。

タンパク質の名づけ方についての案内

細胞生物学における他のテーマでもよくみられるように、小胞融合に関わるタンパク質でもどのように発見されたかに基づいて名前が付けられている。このタンパク質は最初、システインを攻撃する化学薬品である N-エチルマレイミド (N-ethylmaleimide)で一旦不活性化しておき、膜融合機能が回復するまで再び活性のあるタンパク質を加えることにより発見された。またこの発見が NSF (N-ethylmaleimide-sensitive factor、N-エチルマレイミド感受性因子)の発見につながった。そしてNSFとの相互作用から他のタンパク質も見つかり、SNARE(soluble NSF-attachment protein receptor、可溶性NSF付加タンパク質受容体)のように複雑な名前がつけられていった。その結果、SNAPのように異なる活性を持つ別々のタンパク質であるにも関わらず、頭文字を取ると同じ名前になってしまうややこしい事態も生じている。例えばSNAPの場合、SNAP-25(synaptosomal-associated protein 25、シナプトソーム関連タンパク質25)とα-SNAP(alpha soluble NSF-attachment protein、α可溶性NSF付加タンパク質)がある。以上のような事情があるので、文献をみるところからこれら分子の探索を始める時は注意して欲しい。名前には用心が必要なこともあるのだ。

SNAREの分解

NSF(N-エチルマレイミド感受性因子 PDB:1nsf )

SNAREタンパク質は仕事が終わると、次に必要となるときに備え分解しておく必要がある。この重要な仕事を行うのがNSF(ここに示すのはPDBエントリー 1nsf )である。NSFは AAA+タンパク質 の一つで、ATPのエネルギーを使いタンパク質の折りたたみをほどく力を供給する。他のAAA+タンパク質と同じく、6つのサブユニットでできた環状の構造を持ち、それぞれのサブユニットにATP結合部位と加水分解部位がある。

構造をみる

SNARE複合体(青:シナプトブレビン、赤:シンタキシン、緑:SNAP-25)とコンプレキシン(黄)(PDB:1kil)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。
上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

SNAREタンパク質がこの仕事を行う時、多くのタンパク質の力を借りている。ここに示す コンプレキシン (complexin、黄色で示す部分、PDBエントリー 1kil )はその仕組みを構成するタンパク質の一つで、シナプス小胞が必要に応じ素早くその中身を放出できるようにしている。これはSNARE複合体を安定化させることで小胞を膜の近くにとどめ、命令があればすぐ融合に取りかかれるよう準備を整えていると考えられている。上図下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、この構造について詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. SNAREタンパク質の一つシンタキシンは、使われていない時には別のタンパク質「Munc18-1」によって折りたたまれ不活性な複合体になっています。この複合体の構造をPDBエントリー 3c98 でみることができます。また、最近NMRで解かれたPDBエントリー 2m8r の構造で、小さなミセルが結合した遊離状態のシンタキシンをみることもできます。
  2. RCSBの「 SCOP分類検索 」ではSNARE複合体に似た、らせんをより合わせた構造(coiled-coil)を持つ他のタンパク質の構造をみることができます。

参考文献

  1. J. Rizo and T. S. Sudhof 2012 The membrane fusion enigma: SNAREs, Sec1/Munc18 proteins, and their accomplices--guilty as charged? Annual Review of Cell and Developmental Biology 28 279-308
  2. 1br0 I. Fernandez, J. Ubach, I. Dulubova, X. Zhang, T. C. Sudhof & J. Rizo 1998 Three-dimensional structure of an evolutionarily conserved N-terminal domain of syntaxin 1A. Cell 94 841-849 10.1016/S0092-8674(00)81742-0
  3. 1sfc R. B. Sutton, D. Fasshauer, R. Jahn & A. T. Brunger 1998 Crystal structure of a SNARE complex involved in synaptic exocytosis at 2.4 A resolution. Nature 395 347-353 10.1038/26412
  4. 1nsf R. C. Yu, P. I. Hanson, R. Jahn & A. T. Brunger 1998 Structure of the ATP-dependent oligomerization domain of N-ethylmaleimide sensitive factor complexed with ATP. Nature Structural Biology 5 803-811 10.1038/1843
  5. 1kil X. Chen, D R. Tomchick, E. Kovrigin, D. Arac, M. Machius, T. C. Sudhof & J. Rizo 2002 Three-dimensional structure of the complexin/SNARE complex. Neuron 33 397-409 10.1016/S0896-6273(02)00583-4

代表的な構造

1sfc : SNARE複合体
SNAREタンパク質はαらせんの束を作って小胞と膜が融合する力を供給する。この構造にはシナプスSNARE複合体にあるαらせんの束が含まれる。
1nsf : NSF
NSFはATPを使い、小胞融合に関する一連の過程においてSNARE複合体を解体する力を供給する。



「今月の分子」一覧に戻る
2013-11-01 (last edited: 10 months ago)2016-09-09
PDBj@FacebookPDBj@TwitterwwPDBwwPDB FoundationEM DataBank

Copyright © 2013-2017 日本蛋白質構造データバンク