このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2005年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)

タンパク質のアルファベット

フェニルアラニン水酸化酵素(PDB:2pah, 1phz)

体にある皮膚(skin)、筋肉(muscle)、毛髪(hair)、骨(bone)およびその他の器官は主としてアミノ酸(amino acid)と呼ばれる20種類の建築材でできている。アミノ酸はタンパク質という言語におけるアルファベットと言えるもので、ある特定の順序で組み合わさると、様々な特定の機能を持つ意味のある構造(タンパク質)を作り上げる。それぞれのアミノ酸は固有の形、大きさ、電荷などの性質を持っている。そして多くのアミノ酸は糖(sugar)や脂肪(fat)の分解産物から体内で合成されたり、特定の酵素の作用によって他のアミノ酸から変換されて作られたりする。ところが、 必須アミノ酸 (essential amino acid)と呼ばれるいくつかのアミノ酸については、体内で合成することも他のアミノ酸から変換することもできず、摂取した食べ物から得る必要がある。 フェニルアラニン (phenylalanine)はそのような必須アミノ酸の一つである。これは別のアミノ酸であるチロシン(tyrosine)と密接な関係があり、 ヒドロキシル基 (hydroxyl group、OH)を追加するだけでチロシンになる。肝臓(liver)細胞には フェニルアラニン水酸化酵素 (phenylalanine Hydroxylase)と呼ばれる酵素があり、フェニルアラニンにヒドロキシル基を付加してチロシンに変換することができる。だからこの酵素が機能して適当なフェニルアラニンの供給がある限り、チロシンは体内で合成されチロシンを含んだ食物を摂取する必要はない。

フェニルアラニン水酸化酵素

4分子のフェニルアラニン水酸化酵素が相互作用して4量体を形成し、この酵素の機能単位となる。この4量体中の各分子は、 制御ドメイン (regulatory domain)、酵素活性残基のある 触媒ドメイン (catalytic domain)、そして4つの鎖を集めて4量体にする 4量体化ドメイン (tetramerization domain)の3ドメインでできている。各触媒ドメインの中心には鉄イオン(iron ion)があり、これが酵素活性において重要な役割を果たす。ここには完全な酵素4量体のモデル構造を示した。この図は2つのPDBファイルからできており、酵素の触媒ドメインと4量体化ドメインはPDBエントリー 2pah から、触媒ドメインへ柔軟に付加された制御ドメインはPDBエントリー 1phz から得られたものである。

フェニルケトン尿症

驚くべきことに、通常私たちは食物からフェニルアラニンをとりすぎていて、このことが問題となることがある。普通なら、フェニルアラニン水酸化酵素によって過剰なフェニルアラニンの75%はチロシンに変換され除去されている。しかし1934年、ノルウェーの医師アスビョルン・フォーリング(Asbjorn Folling)が2人の精神的障害を持つ若い患者の尿に高濃度のフェニルアラニンが含まれていることを示した。これが最初に フェニルケトン尿症 (phenylketonuria)と診断された事例であった。その後数年の内に、フェニルアラニン水酸化酵素の欠損あるいは機能不全がこの深刻な遺伝的疾患を引き起こしていることが示された。ところがこの情報が利用されるようになったのは1950年代初頭になってからであった。フェニルケトン尿症を患う子供はフェニルアラニン アミノ酸が少ない食事を摂る治療が行われ、早いうちにこの処置を行えばこの病気による症状の多くは回復しうることが示された。現在、多くの場所で一般的に新生児に対するフェニルケトン尿症の検査が行われ、もしこの病気があると診断されればフェニルアラニンを抑えた食事制限が行われる。この子供が成長しても、アスパルテーム(Aspartame)甘味料を避けることが引き続き推奨される。なぜならアスパルテームにはフェニルアラニンが含まれるからである。まれに、酵素に欠かせない補因子(cofactor)である テトラヒドロビオプテリン (tetrahydrobiopterin)の欠損や再生成できないことによってもフェニルケトン尿症が引き起こされることがある。この場合にはテトラヒドロビオプテリンを補給する治療が行われる。

良い香りの協調

左:フェニルアラニン水酸化酵素(PDB:1pah) 右:チロシン水酸化酵素(PDB:2toh)

フェニルアラニン水酸化酵素の作用によって合成されたチロシンは様々な神経伝達物質(neurotransmitter)の合成に必要で、これは神経系に作用するだけでなく、呼吸や心拍数のような重要機能の制御も行っている。これらの神経伝達物質を合成する際、チロシンはチロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase)によって更にヒドロキシル化(hydroxylated)される。おもしろいことに、フェニルアラニン水酸化酵素(PDBエントリー 1pah 、上図左)と チロシン水酸化酵素 (PDBエントリー 2toh 、上図右)は構造的にも機能的にも互いによく似ている。そして トリプトファン水酸化酵素 (tryptophan hydroxylase、PDBエントリー 1mlw )についても同じことが言える。この最後の酵素は関連する別のアミノ酸であるトリプトファンに作用する。これら3つの酵素はいずれも鉄イオンを利用し、4量体として機能し、似たドメイン構造を持っている。フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンはいずれも芳香環(aromatic ring)構造を持っているので、これらの水酸化酵素はまとめて芳香族アミノ酸水酸化酵素(aromatic amino acid hydroxylase)と呼ばれている。

遺伝的視点から見たフェニルアラニン水酸化酵素に関する追加情報が欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のタンパク質 」(Protein of the Month)に掲載されています。

構造をみる

フェニルアラニン水酸化酵素の触媒ドメイン(PDB:1j8u)

フェニルアラニンをヒドロキシル化するには遊離酸素(free oxygen)と反応を補佐する分子(補因子)であるテトラヒドロビオプテリンが必要である。酵素反応の正確な機構は分かっていないが、補因子が酵素中にある保存残基と相互作用すること、そして鉄イオンの主な機能はこの補因子を安定化させることであることは明らかである。ここではテトラヒドロビオプテリン補因子(緑色部分)と鉄イオン(黄色の球)を伴ったフェニルアラニン水酸化酵素の触媒ドメインの主鎖構造(PDBエントリー 1j8u )を示す。反応の過程で、補因子は2つの水素原子を失い、ジヒドロビオプテリン(dihydrobiopterin、PDBエントリー 1dmw にはこの分子が見られる)を形成する。更に別の酵素がジヒドロビオプテリンに作用して元の型の補因子が復元され、次のヒドロキシル化サイクルで再利用される。

フェニルアラニン水酸化酵素の変異体はフェニルアラニンからチロシンへの変換を阻害することができる。この酵素に関して数百種の変異体が報告されている。その変異体の多くは酵素活性を失わせ、フェニルケトン尿症を誘発する。上図ではいくつかの変異部分を赤で示した。このような変異は酵素と補因子、あるいは酵素と鉄イオンとの相互作用を妨げ、酵素活性を低下させたり、止めてしまったりする。また別の深刻な変異(ここには示していない)が酵素の構造を安定化させているアミノ酸に見られる。このようなアミノ酸は酵素4量体の表面、あるいは制御ドメインと相互作用する領域に存在する。

2005/01/01 にPDBでFASTA検索を行って決定したフェニルアラニン水酸化酵素に関係するエントリーの一覧をこちらのリストに掲載しています。

2005/01/01 FASTA検索による関連PDBエントリー一覧
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PDB ID Title Authors Publication Year Journal Name Volume No First Page Pubmed ID
2pah Structure of Tetrameric Human Phenylalanine Hydroxylase and its Implications for Phenylketonuria F.Fusetti, H.Erlandsen, T.Flatmark, R.C.Stevens 1998 J. Biol. Chem. 273 16962 9642259
1kw0 Crystal Structure of the Ternary Complex of the Catalytic Domain of Human Phenylalanine Hydroxylase with Tetrahydrobiopterin and 3-(2-Thienyl)-L-Alanine, and its Implications for the Mechanism of Catalysis and Substrate Activation O.A.Andersen, T.Flatmark, E.Hough 2002 J. Mol. Biol. 320 1095 12126628
1mmk 2.0 A Resolution Crystal Crystal Structures of the Catalytic Domain of Human Phenylalanine Hydroxylase Complexed with Tetrahydrobiopterin Plus 3-(2-Thienyl)-L-Alanine and Tetrahydrobiopterin Plus L-2-Aminohexanoic Acid O.A.Andersen, T.Flatmark, E.Hough n/a To be Published n/a n/a n/a
1mmt
1j8t High Resolution Crystal Structures of the Catalytic Domain of Human Phenylalanine Hydroxylase in its Catalytically Active Fe(II) Form and Binary Complex with Tetrahydrobiopterin O.A.Andersen, T.Flatmark, E.Hough 2001 J. Mol. Biol. 314 266 11718561
1j8u
1lrm n/a n/a n/a Unpublished n/a n/a n/a
1dmw Crystal Structure and Site-Specific Mutagenesis of Pterin-Bound Human Phenylalanine Hydroxylase H.Erlandsen, E.Bjorgo, T.Flatmark, R.C.Stevens 2000 Biochemistry 39 2208 10694386
6pah Crystallographic analysis of the human phenylalanine hydroxylase catalytic domain with bound catechol inhibitors at 2.0 A resolution. H.Erlandsen, T.Flatmark, R.C.Stevens, E.Hough 1998 Biochemistry 37 15638 9843368
3pah
4pah
5pah
1pah Crystal structure of the catalytic domain of human phenylalanine hydroxylase reveals the structural basis for phenylketonuria. H.Erlandsen, F.Fusetti, A.Martinez, E.Hough, T.Flatmark, R.C.Stevens 1997 Nat. Struct. Biol. 4 995 9406548
1tdw Correction of Kinetic and Stability Defects by Tetrahydrobiopterin in Phenylketonuria Patients with Certain Phenylalanine Hydroxylase Mutations H.Erlandsen, A.L.Pey, A.Gamez, B.Perez, L.R.Desviat, C.Aguado, R.Koch, S.Surendran, S.Tyring, R.Matalon, C.R.Scriver, M.Ugarte, A.Martinez, R.C.Stevens 2004 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 16903 n/a
1tg2
1phz Structural basis of autoregulation of phenylalanine hydroxylase. B.Kobe, I.G.Jennings, C.M.House, B.J.Michell, K.E.Goodwill, B.D.Santarsiero, R.C.Stevens, R.G.Cotton, B.E.Kemp 1999 Nat. Struct. Biol. 6 442 10331871
2phm
1toh Crystal structure of tyrosine hydroxylase at 2.3 A and its implications for inherited neurodegenerative diseases. K.E.Goodwill, C.Sabatier, C.Marks, R.Raag, P.F.Fitzpatrick, R.C.Stevens 1997 Nat. Struct. Biol. 4 578 9228951
2toh Crystal Structure of Tyrosine Hydroxylase with Bound Cofactor Analogue and Iron at 2.3 A Resolution: Self-Hydroxylation of Phe300 and the Pterin-Binding Site K.E.Goodwill, C.Sabatier, R.C.Stevens 1998 Biochemistry 37 13437 9753429
1mlw Three-Dimensional Structure of Human Tryptophan Hydroxylase and its Implications for the Biosynthesis of the Neurotransmitters Serotonin and Melatonin L.Wang, H.Erlandsen, J.Haavik, P.M.Knappskog, R.C.Stevens 2002 Biochemistry 41 12569 12379098
1ltz Structural Comparison of Bacterial and Human Iron-Dependent Phenylalanine Hydroxylases: Similar Fold, Different Stability and Reaction Rates H.Erlandsen, J.Y.Kim, M.G.Patch, A.Han, A.Volner, M.M.Abu-Omar, R.C.Stevens 2002 J. Mol. Biol. 320 645 12096915
1ltu
1ltv
1i4s Crystallographic and Modeling Studies of Rnase III Suggest a Mechanism for Double-Stranded RNA Cleavage J.Blaszczyk, J.E.Tropea, M.Bubunenko, K.M.Routzahn, D.S.Waugh, D.L.Court, X.Ji 2001 Structure 9 1225 11738048
1jfz Crystallographic and Modeling Studies of Rnase III Suggest a Mechanism for Double-Stranded RNA Cleavage. J.Blaszczyk, J.E.Tropea, M.Bubunenko, K.M.Routzahn, D.S.Waugh, D.L.Court, X.Ji 2001 Structure 9 1225 11738048
1rc5 Noncatalytic Assembly of Ribonuclease III with Double-Stranded RNA. J.Blaszczyk, J.Gan, J.E.Tropea, D.L.Court, D.S.Waugh, X.Ji 2004 Structure 12 457 15016361
1rc7
1mdo Structural Studies of Salmonella Typhimurium Arnb (Pmrh) Aminotransferase:A 4-Amino-4-Deoxy-L-Arabinose Liposaccharide Modifying Enzyme B.W.Noland, J.M.Newman, J.Hendle, J.Badger, J.A.Christopher, J.Tresser, M.D.Buchanan, T.Wright, M.E.Rutter, W.E.Sanderson, H.-J.Muller-Dieckmann, K.Gajiwala, S.G.Buchanan 2002 Structure 10 1569 12429098
1mdz
1mdx
1r8k Crystal Structure of Nad-Dependent Dehydrogenase/Carboxylase of Salmonella Typhimurium J.Osipiuk, P.Quartey, S.Moy, F.Collart, A.Joachimiak n/a To be Published n/a n/a n/a

更に知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

  • Erlandsen, H. and Stevens, R.C. 1999 The structural basis of phenylketonuria. Molecular Genetics and Metabolism 68 103-125
  • フェニルアラニン水酸化酵素の遺伝子座知識ベースウェブサイト
    ( http://www.pahdb.mcgill.ca/ )



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2005-01-01 (last edited: 10 months ago)2016-09-09
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