このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2019年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。
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:著者 David S. Goodsell:翻訳 工藤 高裕(PDBj)
グルタミン酸結合ドメインに阻害剤(赤)が結合したAMPA受容体。細胞膜の位置は灰色でおおよその位置を示す。
グルタミン酸結合ドメインに阻害剤(赤)が結合したAMPA受容体。細胞膜の位置は灰色でおおよその位置を示す。

脳内の神経細胞は小さな神経伝達分子を使って互いに交信している。その分子はアセチルコリン(acetylcholine)、セロトニン(serotonin)、エンドルフィン(endorphin)など大きさも形もさまざまで、神経系はこれらを利用し神経細胞が互いにやりとりするしくみを構築している。アミノ酸の一つグルタミン酸(glutamate)は興奮性信号の伝えるときに最もよく使われる神経伝達物質のひとつである。これは神経細胞からシナプスへと放出され、グルタミン酸特異的受容体に結合して隣の神経細胞を刺激する(刺激性シナプスの図がRCSB PDBが提供するPDB-101のMolecular Landscapesにある)。

AMPAの作用

AMPA受容体(ここに示すのはPDBエントリー3kg2)は脳内にある最も一般的な興奮性グルタミン酸受容体である。いくつかの部分からできており、それぞれが特有の仕事を担っている。上にある部分はグルタミン酸(あるいはそれと似た神経伝達物質)を認識して結合する。下にある部分は膜を貫通するイオンチャネルを形成する。グルタミン酸が結合すると、チャネルを引っ張る形状変化が起きてチャネルが開き、膜を越えてイオンがどっと流れるようになる。受容体の下部にはさらに尾もついているが、柔軟性が高くここでは見えていない。この尾部は神経シナプスの構造をつくる足場タンパク質と相互作用する。

学習と記憶

神経細胞間のやりとりは大変複雑で、微妙なニュアンスの思考や記憶もとらえることができる。そのしくみを最も単純なレベルでみても、AMPA受容体が持つ4本の鎖それぞれがグルタミン酸の結合部位を持っているため、単純にON/OFFだけの応答にはならない。また、AMPA受容体は信号を受け取った後非常に素早く閉じて、しばらくの間さらなる信号に対する感度を落とす。シナプスにある受容体の数を増減させたり、個々の受容体を構成するアミノ酸を改変して作用を調整したりすることにより、この単純な作用に複雑なしくみを付け足し、記憶を保存している。

複雑な階層

3種類のイオンチャネル型グルタミン酸受容体。緑で示す修飾タンパク質がAMPA受容体のイオンチャネル部分に結合している。
3種類のイオンチャネル型グルタミン酸受容体。緑で示す修飾タンパク質がAMPA受容体のイオンチャネル部分に結合している。

話をさらにややこしくしてしまうが、私たちの脳はこの他にもグルタミン酸の信号を調整する手段を備えている。TARPタンパク質(ここに示すのはPDBエントリー5weo)のような修飾タンパク質がAMPA受容体に結合する。それぞれの受容体は似た型のタンパク質と組み合わせを作るがとり得るパターンはいくつもある。さらに、作用がわずかに異なるグルタミン酸受容体が2種類ある。それぞれNMDA受容体(NMDA receptor、ここに示すのはPDBエントリー4pe5)、カイニン酸受容体(kainate receptor、PDBエントリー5kuf)と呼ばれているが、どちらも発見の際重要だった阻害剤分子にちなんで命名されている。これらが一緒になって、私たちの中にある思考の世界を制御する豊富な信号を作り上げるのに役立っている。

構造をみる

AMPA受容体

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

この構造(PDBエントリー4u5c)はどのようにして間違ったことが起こるのかを示している。イモガイの一種は小さな毒性タンパク質を持ち、獲物を麻痺させるのに使う。これが受容体のグルタミン酸結合部位の中に結合して、受容体の作用を乱す。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えるとその構造をより詳しく見ることができる。ご覧の通り、各構成要素の配置は対称関係にきっちりとは当てはまらない部分がある。イオンチャネルは、通常4回対称の構造をしているが、グルタミン酸結合部分は2量体が2つ隣り合った構造をしている。

理解を深めるためのトピックス

  1. イオンチャネル性グルタミン酸受容体は極めて柔軟性が高くなっています。グルタミン酸結合ドメインと比べ、膜貫通ドメインはその配置にさまざまなものがあることに注目してみてください。
  2. これらの構造は柔軟性が高いため、すべて受容体で構造の一部が見えていません。 RCSB PDBの各PDBエントリーページで「Protein Feature View」を見ると、タンパク質鎖のうちどの部分がその構造に含まれているのかを確認できます(PDBjの各PDBエントリーページ「他のデータベース情報」にRCSB PDBの個別エントリーページへのリンクがあります )。

参考文献

  1. Chen, S., Gouaux, E. 2019 Structure and mechanism of AMPA receptor -- auxiliary protein complexes. Current Opinion in Structural Biology 54 104-111
  2. Zhu, S., Gouaux, E. 2017 Structure and symmetry inform gating principles of ionotropic glutamate receptors. Neuropharmacology 112 11-15
  3. 5weo Twomey, E.C., Yelshanskaya, M.V., Grassucci, R.A., Frank, J., Sobolevsky, A.I. 2017 Channel opening and gating mechanism in AMPA-subtype glutamate receptors. Nature 549 60-65
  4. 5kuf Meyerson, J.R., Chittori, S., Merk, A., Rao, P., Han, T.H., Serpe, M., Mayer, M.L., Subramaniam, S. 2016 Structural basis of kainate subtype glutamate receptor desensitization. Nature 537 567-571
  5. 4u5c Chen, L., Durr, K.L., Gouaux, E. 2014 X-ray structures of AMPA receptor-cone snail toxin complexes illuminate activation mechanism. Science 345 1021-1026
  6. 4pe5 Karakas, E., Furukawa, H. 2014 Crystal structure of a heterotetrameric NMDA receptor ion channel. Science 344 992-997
  7. Yokoi, N., Fukata, M., Fukata, Y. 2012 Synaptic plasticity regulated by protein-protein interactions and posttranslational modifications. International Review of Cell and Molecular Biology 297 1-43
  8. 3kg2 Sobolevsky, A.I., Rosconi, M.P., Gouaux, E. 2009 X-ray structure, symmetry and mechanism of an AMPA-subtype glutamate receptor. Nature 462 745-756



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作成日: 2019-07-02 (最終更新日: 3 weeks ago)2019-07-02