このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2019年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:著者 David S. Goodsell, Luigi Di Costanzo:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
二つの生体鉱物形成タンパク質。アミノ酸は赤で、カルシウムイオンは青で示す。
二つの生体鉱物形成タンパク質。アミノ酸は赤で、カルシウムイオンは青で示す。

私たちの身体にある物質の中では最も強い歯のエナメル質と、鳥の雛が開けられるよう十分な壊れやすさがある卵の殻はどちらも95%程度は鉱物(ミネラル)の結晶でできていると聞けば驚くかもしれない。この二種類の生体鉱物が持つ性質の違いは、小さな結晶をつくるタンパク質とそれらをつなげるタンパク質の違いにより生じたものである。生体鉱物形成タンパク質(biomineralization protein)は、鉱物が成長する場の提供、区画内へのイオン運搬、新たな結晶の核形成、結晶の成長に合わせたイオン比率の制御などの役割をする細胞内区画の構築を助ける。このタンパク質は、例え不安定な通常みられない型の結晶でも安定化できる。

美しい骨の構造

オステオカルシン(osteocalcin、ここに示すのはPDBエントリー1q8h)は、私たちの骨を構成するタンパク質の中ではコラーゲン(collagen)に次いで多く、骨の成長を促すホルモンとしても働くタンパク質である。骨の中では、カルシウムとリン酸でできた鉱物ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)の結晶表面に結合する。この構造から、どのようにしてこのタンパク質が無機鉱物の表面を認識しているのかが明らかになった。オステオカルシンには、 負電荷を帯び鉱物結晶中のカルシウムイオンを認識する上でちょうどいい距離に配置されたアミノ酸の集まりがある。この結晶構造にはカルシウムイオンがいくつか見られるが、これはアミノ酸とイオンの間隔がぴったりであることを示している。

古代の卵殻

卵殻には炭酸カルシウム(calcium carbonate)の鉱物型である方解石(calcite)が含まれ、タンパク質でできた基盤がこれをはさんでいる。オステオカルシン(osteocalcin)と同じく、卵殻タンパク質のストルティオカルシン(struthiocalcin、ここに示すのはPDBエントリー4uww)もカルシウムに結合する酸性アミノ酸の並びを使って鉱物結晶の表面に結合する。これが卵殻を形成するとき結晶成長を指示するのに役立っている。ダチョウの卵の化石を研究することで、この相互作用は大変強くてタンパク質-鉱物複合体の断片は数百万年の間持続することが明らかになった。C型レクチンと呼ばれるストルティオカルシンの折りたたみ様式は、氷の結晶表面に結合する不凍タンパク質(antifreeze protein、例:PDBエントリー2zib)と似ており、これらは共通の祖先となるタンパク質から進化したと考えられている。

鉱物をつくる

天然の生体鉱物形成タンパク質から得られた考えに基づき、実験室内で鉱物合成を誘導する短いペプチドが設計されている。これらのペプチドは酸性アミノ酸の繰り返し配列を伴うαらせんまたはβシートでできているが、これはストルティオカルシンの鉱物結合表面と似ている。卵殻にある方解石とは別の炭酸カルシウム鉱物ヴァテライト(vaterite)をつくれるペプチドを人工的につくり出すことに成功している。

磁性鉱物

マグネトクロム(MamP)。酸性アミノ酸は赤で、ヘムは赤紫色で示す。
マグネトクロム(MamP)。酸性アミノ酸は赤で、ヘムは赤紫色で示す。

驚くべきことに、細菌や鳥などの生物は、地磁気を検知する方位磁石として使える小さな磁鉄鉱(magnetite)の結晶をつくる。鳥は大陸を横断する渡りの案内にこれが必要である。嫌気性細菌はより局所的な範囲でこれを利用している。赤道から離れた場所では、磁場は極を指しさらに下を向いている。細菌はこれを使って自身を下に導き、局所環境の表面にある酸素から遠ざかる。

マグネトクロム(Magnetochrome、MamP、ここに示すのはPDBエントリー4jj0)は酸化鉄(iron oxide)の完全な結晶をつくる。このタンパク質は複数の部品からできていて、2つの連なったマグネトクロムドメインとそれにつながった中央ドメインとで構成されている。中央のドメインは酸性のグルタミン酸を集め、これが鉄の核形成が始まる場となる窪みを形成する。シトクロムc(cytochrome c)と似たマグネトクロムドメインの中にあるヘム(heme)は、電子を運んで鉄原子を酸化型に変換し、成長している磁鉄鉱結晶の中で酸素と結合する。

構造をみる

ナノ結晶結合タンパク質

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目的に合った磁気的、光学的、医学的な性質を持つ人工物質をつくる際、正確なナノサイズの結晶をつくる方策として生体鉱物形成の過程をまねるという方法が使われている。例えば、人工的につくられたタンパク質 nvPizza2-S16H58(PDBエントリー5chb)は知られている中では最も小さなナノ結晶をはさんでる。この結晶は7つのカドミウムイオンと12個の塩化物イオンでできた正確な三次元格子になっている。この人工タンパク質において、カドミウム-塩素のナノ結晶はプロペラ型をしたタンパク質複合体から内側に向かって伸び対称的な位置にある一連のヒスチジンによって配置されている。

理解を深めるためのトピックス

  1. 磁鉄鉱結晶の形成を助けるタンパク質が他にもあります。PDBjで磁鉄鉱のキーワードで検索しそれらを見てみてください。
  2. 似た構造を比較するツールの一つASHを使ってストルティオカルシンと不凍タンパク質の構造を比較することができます。

参考文献

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作成日: 2019-04-02 (最終更新日: 3 weeks ago)2019-04-02