226: アミノグリコシド系抗生物質と耐性(Aminoglycoside Antibiotics and Resistance)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

パロモマイシン(赤)、ストレプトマイシン(図では見えていない)、スペクチノマイシン(オレンジ)が結合した細菌由来リボソームの小さなサブユニット。伝令RNAの小さな断片は緑で示す。
パロモマイシン(赤)、ストレプトマイシン(図では見えていない)、スペクチノマイシン(オレンジ)が結合した細菌由来リボソームの小さなサブユニット。伝令RNAの小さな断片は緑で示す。

細菌との戦いにおいて、私たちは新参者であるのに対し、他の生物は何百万年もの間感染から身を守ることを強いられてきた。この事実は医学界にとってありがたい賜物である。なぜなら私たちは自然界から新たな抗生物質を見つけることができるからである。1940年代、土壌中に生息する細菌から抗生物質のストレプトマイシン(streptomycin)が発見され、すぐに結核の治療に利用された。それから数十年の間に、ネオマイシン(neomycin)やパロモマイシン(paromomycin)のようなより強力な抗生物質が発見されたり、設計されたりした。一方、病原性細菌はまずストレプトマイシンに対し素早く抵抗性を持つようになり、やがてより強力な抗生物質に対しても耐えるようになった。

結合部位をみる

リボソームの小サブユニットの構造から、アミノグリコシド(aminoglycoside)がどのように作用するのかが明らかになった。その構造の一例をここに示す。 PDBエントリー1fjgから得られた構造で、3つの抗生物質との複合体となっている。パロモマイシンは、転移RNA(transfer RNA、tRNA)が伝令RNAに適合するかを試すのに関わっている長いRNAの二重らせんに結合している。またそのすぐ後ろにある隣接部位にはストレプトマイシンも結合している。さらにこの構造にはスペクチノマイシンも結合している。伸長因子 G(elongation factor G)が伝令RNAを次のコドンへと移動させる過程を阻害する抗生物質で、この過程はタンパク質合成において、後の方の過程にあたる。

無理矢理つくられた誤り

アミノグリコシド系抗生物質は遺伝情報の翻訳に関係するリボソーム上の部位に結合する。この場所は伝令RNAのコドンに対応した正しい転移RNAが来るべき場所である。アミノグリコシドは、正しい組み合わせだけができるようにするのに必要となる微妙な動きをかき乱し、それが往々にして間違ったペアが生み出す原因となって、つくられるタンパク質に突然変異ができる(この相互作用について詳しくは2012年2月の記事を参照のこと)。この間違ったタンパク質ができることで細菌の機能を妨げられて、最終的には死に至ると考えられている。

重要部位の保護

リボソーム小サブユニット(青で示す部分)の中にあるヌクレオチドを修飾するメチル基転移酵素(緑で示す部分)。酵素は一つのヌクレオチド(赤紫色)を飛び出させ、補因子(黄色)を使ってメチル基を供給する。この図はJSmolを使って作成した。
リボソーム小サブユニット(青で示す部分)の中にあるヌクレオチドを修飾するメチル基転移酵素(緑で示す部分)。酵素は一つのヌクレオチド(赤紫色)を飛び出させ、補因子(黄色)を使ってメチル基を供給する。この図はJSmolを使って作成した。

他の抗生物質と同様に、細菌は進化し(そして互いに情報を分け合って)さまざまな対抗手段を手に入れ、アミノグリコシドに対し抵抗性を持つようになった。リボソーム中にある特定のアデニンA1408は、tRNAとmRNAの解読過程にとって重要で、パロモマイシンのようなアミノグリコシドが作用対象としている。細菌はこのアデニンにメチル基を追加することで抵抗性を持つようになった。これによりパロモマイシンは結合できなくなり、リボソームは正常なタンパク質合成を続けられる。PDBエントリー4ox9の構造は、どのようにしてこの特異的なメチル基転移酵素がアデニンを飛び出させメチル基を追加しているのかを示している。

構造をみる

アミノグリコシド修飾酵素

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

アミノグリコシドはRNAとの結合に欠かせないアミンとヒドロキシル基を持っている。抵抗性を得るため、通常細菌は薬剤そのものを攻撃する。このとき、専用のアミノグリコシド修飾酵素を使って、新たな化学基をこのアミンやヒドロキシル基に付加する。その結果、薬剤はもはやRNAと結合できなくなり誤りを誘発する働きも抑えられてしまう。ここに示す酵素はあるヌクレオチドを薬剤に付加する。PDBエントリー5cfuは反応前後の酵素をとらえたものである。図の下のボタンをクリックすると、対話的操作のできる画像に切り替えより詳しくこの酵素をみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. 新たなアミノグリコシドを探す際、構造生物学者はリボソームにある対象のらせんだけを研究することがよくあります。例えば、PDBjのウェブサイトでネオマイシンパロモマイシンで検索してみてください。
  2. 細菌が抗生物質に対し抵抗性を得るもう一つの方法は、それを排出してしまうというやり方です。このようなポンプをみるには、流出ポンプ(efflux pump)で検索してみてください。
  3. リガンドページでアミノグリコシド系抗生物質自体の構造と性質をみることができます。例えばストレプトマイシンパロモマイシンのページを見てみてください。

参考文献

  1. 5cfs Bassenden, A.V., Rodionov, D., Shi, K., Berghuis, A.M. 2016 Structural analysis of the tobramycin and gentamicin clinical resistome reveals limitations for next-generation aminoglycoside design. ACS Chemical Biology 11 1339-1346
  2. 4ox9 Dunkle, J.A., Vinal, K., Desai, P.M., Zelinskaya, N., Savic, M., West, D.M., Conn, G.L., Dunham, C.M. 2014 Molecular recognition and modification of the 30S ribosome by the aminoglycoside-resistance methyltransferase NpmA. Proceedings of the National Academy of Science USA 111 6275-6280
  3. B Becker & MA Cooper 2013 Aminoglycoside antibiotics in the 21st century. ACS Chemical Biology 8 105-115
  4. 1fjg Carter, A.P., Clemons Jr., W.M., Brodersen, D.E., Morgan-Warren, R.J., Wimberly, B.T., Ramakrishnan, V. 2000 Functional insights from the structure of the 30S ribosomal subunit and its interactions with antibiotics. Nature 407 340-348

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2018年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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