このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2018年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
細胞の内側から見たピエゾ1。
細胞の内側から見たピエゾ1。

我々の感覚は環境を監視する分子機械に依存しており、何か興味あることが起これば信号が生成される。味の場合、これは実に単純である。味の検知器は我々が食べたものに含まれる酸っぱい酸や甘い糖のような特有の分子を検知しさえすればいいのだから。一方、触覚はより巧妙なやりかたが必要である。この場合、検知器は細胞表面の形を監視しておく必要がある。最近明らかになった構造により、これがどうやって行われているのかが明らかになってきた。

ピエゾに圧力を加える

我々の細胞は似た2種類の ピエゾタンパク質 (Piezo protein)により触覚を得ている。 ピエゾ2 は感覚神経に見られ、穏やかな触覚を制御している。一方、 ピエゾ1 は非感覚組織に見られ、細胞内の液圧変化を検知するのに役立っている。これは例えば血流などの過程で重要である。また我々の手足がどのように配置されているのかを継続的に感知するのにも役立っている。膜の張力が変化すると、これらのピエゾタンパク質が開き、カルシウムなどの正電荷を持ったイオンが細胞内に入り込む。これによりイオン濃度が変化し、これが細胞の感覚応答を起こす引き金となる。

顕微鏡で見たピエゾ1

最近、 クライオ電子顕微鏡 (cryoelectron microscopy)を使ってピエゾ1の構造が決定されてきた。まず2015年に低解像度での構造が決定され(PDBエントリー 3jac )、さらに最近になってより詳しい3つの構造が公開された(PDBエントリー 6b3r6bpz5z10 )。これらすべての情報から、ピエゾ1は3つの同じサブユニットからできた複雑な分子機械であることが分かる。サブユニットは中央に集まって膜を貫通するイオンチャネルを形成する。そして弓なりに曲がった3つの部分がチャネルの外に伸びている。この弓なりに曲がった部分がピエゾ1を取り囲む膜の状態を検知し、膜が歪んだ時にチャネルを開けると考えられてる。

ピエゾ1と寄生生物

ピエゾタンパク質はさまざまな生理学的過程の制御に欠かせない。そのため不活性なピエゾタンパク質を持つ胎児は、発育し長く生き延びることはできない。しかし変異型のピエゾ1タンパク質はふつう見られない有利な効果をもたらす。この変異型チャネルは通常よりも活性が高く、過剰なカルシウムを赤血球細胞内に取り込むことができる。これには他のチャネルに連鎖反応を引き起こす効果があり、最終的には細胞の脱水を引き起こしてしまう。通常これは問題となるが、 マラリア が流行する地域においてこの変異は非常によく見られる。なぜなら脱水した細胞はマラリア原虫に対し抵抗性があるからである。

機械受容チャネル

2種類の機械受容イオンチャネル。膜の概略の位置を灰色で示す。細胞の内側は下方向にある。
2種類の機械受容イオンチャネル。膜の概略の位置を灰色で示す。細胞の内側は下方向にある。

細菌は何種類かの小さな機械受容チャネルを持っているが、高等生物はこの以外にも細胞の形状変化を検知する方法を持っている。そのうちの2つをここに示す。 TRAAK (PDBエントリー 3um7 )は、膜の張力や温度をきっかけにして動作する カリウムイオンチャネル (potassium channel)である。 NOMPC (PDBエントリー 5vkq )は、長いバネ形のドメインを介して微小管につなぎ留められ、細胞骨格の動きを検知すれば開くと考えられている。

構造をみる

ピエゾ1

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

ピエゾ1の構造によって長いタンパク質鎖の中にある多くの機能ドメインが明らかになった。 弓なりの形をした部分 (青)は膜に埋もれた類似のドメイン群が集まって構成されている。構造を見ると分かるようにこの部分は平らではなく、膜が曲げられてカップ型になっている。 CEDドメイン (オレンジ)の中にある 酸性アミノ酸の集まり (赤紫)は、3つのらせん(赤)で囲まれた 中央のチャネル をカルシウムイオンが通るのを管理していると考えられている。 棒状の部分 (緑)の部分は弓なりの部分とチャネルとをつなげており、前者の形状変化と後者の開閉を連携させているのだと考えられている。図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、この構造をよく詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. このチャネルに関するクライオ電子顕微鏡を使った三次元再構築情報をEMDataBankで見ることができます。例えばエントリー EMD-7128 を見てみてください。

参考文献

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  2. 6bpz Saotome, K., Murthy, S.E., Kefauver, J.M., Whitwam, T., Patapoutian, A., Ward, A.B. 2018 Structure of the mechanically activated ion channel Piezo1 Nature 554 481-486
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作成日: 2018-07-01 (最終更新日: 7 months ago)2018-06-25
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