220: 脱ハロゲン酵素(Dehalogenases)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

還元性脱ハロゲン酵素。ここでは大まかな位置しか示していない別のタンパク質サブユニットが、複合体を膜につなぎ止めている。塩素を含む化合物は緑色で、コバミド補因子は青緑色で、鉄硫黄クラスタは赤色と黄色で示している。
還元性脱ハロゲン酵素。ここでは大まかな位置しか示していない別のタンパク質サブユニットが、複合体を膜につなぎ止めている。塩素を含む化合物は緑色で、コバミド補因子は青緑色で、鉄硫黄クラスタは赤色と黄色で示している。

ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)は私たちの生命を維持する上で欠かせない役割を果たしている。例えば、いくつかの甲状腺ホルモン(thyroid hormone)は正しく機能するにはヨウ素原子が必要である。食べた塩分から得られる塩化物イオン(chloride ion)は、基本的な細胞機能や神経伝達において幅広い役割を担っており、この輸送に特化した塩化物イオンチャネル(chloride channel)によって各所へと運ばれる。しかし、ハロゲンは反応性が高いので、重大な危険をもたらすことがよくある。工業用ハロゲン化化合物は溶媒(例:ドライクリーニング)や農薬(例:DDT)としてよく用いられている。残念ながら、その多くは有毒であるか、または発がん性をもっており、漏れだして環境を汚染すれば問題となる。

天然の営み

多くの細菌はこれらの危険な化合物を解毒し除去する。このとき、脱ハロゲン酵素を使ってハロゲン原子を除去し、さらに分解してエネルギーを取り出すことができるより単純な化合物を作り出す。ここに示すのはその一つ、還元性脱ハロゲン酵素でPDBエントリー4ur0由来の構造である。これにはさらなる利点があって、塩素分離反応をエネルギー源としても利用している。これは私たち自身が持つ電子伝達系で酸素がシトクロムc酸化酵素(cytochrome c oxidase)に利用されるのと似ている。このような細菌が、ハロゲン化化合物によって汚染された地域の浄化に使えないか研究が続けられている。

分子の道具箱

この脱ハロゲン酵素は反応を行う際にいくつかの分子道具を用いる。還元反応中、ハロゲン化された分子に2つの電子を供給する必要があるが、この電子は2つの鉄硫黄クラスタ(iron-sulfur cluster)によって供給される。還元反応には、ビタミンB12(vitamin B12)と似ていて中心にコバルト原子を持った補因子も必要である。酵素とこれらの補因子が一緒になってハロゲン化した化合物を配置し、電子を付け加え、ハロゲン原子を水素原子に置き換える。

加水分解

2つの脱ハロゲン酵素とこれらが関わる2つの反応。
2つの脱ハロゲン酵素とこれらが関わる2つの反応。

反応と一緒にエネルギーを産み出そうとはせず、単にハロゲンを切り離すためだけに水分子を使う脱ハロゲン酵素もある。ジクロロエタン(dichloroethane)のように小さな化合物を分解するときに続けて行われる2つの反応例をここに示す。最初の酵素はハロアルカン脱ハロゲン酵素(haloalkane Dehalogenases、PDBエントリー2dhc)で、一方の塩素原子を取り除きヒドロキシ基と置き換える。次に別の2つの酵素がヒドロキシ基を酸に変換する(ここには示していない)。最後にハロ酸脱ハロゲン酵素(haloacid Dehalogenases、PDBエントリー1jud)がもう一つの塩素原子を取り除く。

構造をみる

還元性脱ハロゲン酵素

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3つの還元性脱ハロゲン酵素の構造(PDBエントリー5m2g5m925m8u)は、臭素化合物から臭素原子を取り除いていく様子をとらえている。コバミド補因子(cobamide cofactor、水色で示す部分)がヒドロキシ基と相互作用して分子の配置を助け、6つのアミノ酸(トリプトファンまたはチロシン、濃い青色で示す部分)が活性部位を取り囲む籠をつくってハロゲン原子と相互作用する。トリブロモフェノール(tribromophenol、炭素は白、臭素はピンク、酸素は赤で表示)をここに示す。画像の下のボタンをクリックし対話的操作のできる画像に切り替え、上記の構造やその他の構造を詳しく見てみてほしい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBには別のハロゲン化合物を伴った脱ハロゲン酵素(dehalogenase)の構造も多く登録されています。脱ハロゲン酵素で検索し、それらを見てみてください。また化合物にハロゲン原子を付加する酵素もたくさんあります。ハロゲン化酵素(halogenase)で検索し、そのいくつかを見てみてください。
  2. 化合物ページでコバミド補因子ビタミンB12の特性についてみることができます。

参考文献

  1. M Fincker & AM Spormann 2017 Biochemistry of reductive dehalogenation. Annual Review of Biochemistry 86 357-386
  2. 5m2g5m925m8u C Kunze, M Bommer, WR Hagen, M Uksa, H Dobbek, T Schubert & G Diekert 2017 Cobamide-mediated enzymatic reductive dehalogenation via long-range electron transfer. Nature Communications 8 15858
  3. 4ur0 M Bommer, C Kunze, J Fesseler, T Schubert, G Diekert & H Dobbek 2014 Structural basis for organohalide respiration. Science 346 455-458
  4. 1jud T Hisano, Y Hata, T Fujii, JQ Liu, T Kurihara, N Esaki & K Soda 1996 Crystal structure of L-2-haloacid dehalogenase from Pseudomonas sp YL. An alpha/beta hydrolase structure that is different from the alpha/beta hydrolase fold. Journal of Biological Chemistry 271 20322-20330
  5. DB Janssen, F Pries & JR van der Ploeg 1994 Genetics and biochemistry of dehalogenating enzymes. Annual Review of Microbiology 48 163-191
  6. 2dhc KH Verschueren, F Seljee, HJ Rozeboom, KH Kalk & BW Dijkstra 1993 Crystallographic analysis of the catalytic mechanism of haloalkane dehalogenase. Nature 363 693-698

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2018年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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