このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2017年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
反応はポリヒドロキシ酪酸合成酵素(polyhydroxybutyrate synthase、PhaC)によって行われる。
反応はポリヒドロキシ酪酸合成酵素(polyhydroxybutyrate synthase、PhaC)によって行われる。

我々が日常生活で使うプラスチックのほとんどは石油から得られた長い鎖状の分子からつくられる。プラスチックはさまざまな用途に利用されるが、環境にはやさしくない。2050年までに12,000Mt(120億t)近くのプラスチックがゴミ埋立地に溜まり、海洋を汚染し、地球上の声明を脅かすと見積もられている。プラスチックに含まれる合成鎖は化学的に安定であるため生分解性ではなく、焼却するより他に消し去る方法がない。ところが、これにも厄介な問題がある。焼却によって大気中に二酸化炭素が放出されてしまうのだ。そこで環境にやさしい製品をつくるため、細菌由来の 生分解性プラスチック (biodegradable Plastic、バイオプラスチック)を探す取り組みが行われている。

多機能なバイオプラスチック

我々の細胞がグリコーゲンの粒子としてブドウ糖を貯め込むのと同じような方法で、プラスチックの粒子に燃料分子を貯め込む細菌がいる。これらの細菌は、栄養が足りなくなるとこのようなプラスチックをたくさんつくり、その量は細菌自身の乾燥重量の80倍に達することもある。この方法を使うと簡単に大量の産物を得られるのでバイオテクノロジー産業にはうってつけである。バイオプラスチックは合成プラスチックが持つ多くの利点を兼ね備えている。化学的に安定で高温にも耐性があるのだ。現在、その用途は包装材、調理器具、織物繊維、薬物伝達システム(薬剤伝達の量・場所・時間を制御するしくみ)、医療用縫合糸やインプラント、3D印刷の繊維素材など多岐に渡っている。

バイオプラスチックの工場

細菌は ポリヒドロキシ酪酸合成酵素 (polyhydroxybutyrate synthase、PhaC、PDBエントリー 5t6o )を使ってバイオプラスチックをつくる。PhaCはヒドロキシ酪酸を構成単位としてプラスチック鎖を構築する。重合反応は2つの段階を経て行われるが、これは脂肪酸合成酵素が脂質分子から長い鎖状分子を合成するやり方と似ている。構成要素となる ヒドロキシ酪酸 (hydroxybutyrate、HB)は 補酵素A (coenzyme A)によって酵素のところまで運ばれる。PhaCはまずヒドロキシ酪酸の単位を酵素自身が持つアミノ酸のシステインに結合させ、次にヒドロキシ酪酸を伸長途中のプラスチック鎖に付加してプラスチックを伸ばす。ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate、PHB)の鎖には通常数百個から数千個のヒドロキシ酪酸単位が含まれている。現在、PhaCの詳細な原子レベルの構造情報を用いて、プラスチック鎖を特定の用途に合うよう調整する方法の模索が行われている。

バイオプラスチックの前駆体

ヒドロキシ酪酸-CoAを準備するための酵素反応
ヒドロキシ酪酸-CoAを準備するための酵素反応

バイオプラスチックの構築材となるヒドロキシ酪酸-CoAは連続する2つの段階を経てつくられる。反応は 解糖系酵素 (glycolytic Enzyme)の最終段階で ピルビン酸脱水素酵素 (pyruvate dehydrogenase)複合体によってつくられるアセチル-CoA(acetyl-CoA)から始まる。これは代謝につながるさまざまな生化学反応で使われる物質である。最初の段階で、 β-ケトチオラーゼ (beta-ketothiolase、PhaA、PDBエントリー 4o9c )がアセチル-CoAよりアセチル基を取り出し、それを別の分子に転移して大きなアセトアセチル-CoAをつくる。我々の細胞の中では チオラーゼ (thiolase)によってこれと似た反応が行われている。この反応は肝臓から体内にある他の部分にエネルギーを届ける小さな分子をつくる過程の一部分である。2番目の段階では、 アセトアセチル-CoA還元酵素 (acetoacetyl-CoA reductase、PhaB、PDBエントリー 3vzs )がアセトアセチル基をHBに変換する。この反応ではNADPA補因子が用いられる。

構造をみる

ポリヒドロキシ酪酸解重合酵素

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

細菌はプラスチックをエネルギー貯蔵の手段として使っているので、エネルギーが必要になると分解してエネルギーを取り出す酵素も必要となる。このことは我々にとって新たな発見につながる可能性を秘めている。なぜならこの細菌はこの酵素を使ってゴミ処理場のバイオプラスチックを分解することもできるからである。 ポリヒドロキシ酪酸解重合酵素 (PHB depolymerase、PDBエントリー 2d81 )は我々が持つ消化酵素の一つである セリンプロテアーゼ (serine protease)と似ていて、活性化されたアミノ酸のセリンを使い、バイオプラスチック鎖を切断して構成要素の断片へと分解する。酵素の中にあるセリンの働きを止めてを酵素を不活性化することで、ポリヒドロキシ酪酸解重合酵素とバイオプラスチック断片との複合体に関する詳細な分子構造をみることができるようになった。

理解を深めるためのトピックス

  1. 細胞内でアセチル-CoAはさまざまな酵素に利用されています。 ACOの化合物ページ をみると、アセチル-CoAの構造をみたりアセチル-CoAを含むPDBエントリーを探したりすることができます。
  2. PDBjのASHRCSB PDBのStructure Alignment View などの構造重ねあわせツールを使うと異なる細菌由来のPhaCの構造を比較することができます。例えばPDBエントリー 5t6o5xav を比較してみてください。

参考文献

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作成日: 2017-12-01 (最終更新日: more than 1 year ago)2017-12-02
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