このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2017年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
核膜孔複合体の中心部。一部この構造に含まれない部分があって、その部分は模式的に示している。中心の穴に詰まった形の定まらない鎖の束、核膜と相互作用するタンパク質、複合体の上下に伸びる鎖がこれに該当する。
核膜孔複合体の中心部。一部この構造に含まれない部分があって、その部分は模式的に示している。中心の穴に詰まった形の定まらない鎖の束、核膜と相互作用するタンパク質、複合体の上下に伸びる鎖がこれに該当する。

細菌の細胞は速さを目的としてつくられ、一方我々の細胞は複雑さを目的としてつくられる。我々の体には非常に多種多様な細胞があり、さまざまな機能を持っている。そのため、細菌よりも高度な制御が必要となる。この目的を達成するため、我々の細胞は核内でDNAから伝令RNAを作る 転写 と、細胞質で伝令RNAからタンパク質をつくる 翻訳 の2段階にタンパク質の合成過程を分割した。この分割によって、伝令RNAへのキャッピングやスプライシングといったさらなる制御を加えることができる。 核膜孔複合体 (nuclear Pore Complex、NPC)は核膜に埋まった大きなチャネルで、これら2つに分かれた過程をつなげている。これにより核と細胞質の間で、核酸とタンパク質を双方向に輸送することができる。

核膜孔複合体の構造

核膜孔複合体は、 ヌクレオポリン (nucleoporin)と呼ばれるタンパク質が何百個も集まってできた巨大な分子複合体である。対称性のある中心部は、構造を支える外側の輪と、輸送チャネルをつくる内側の輪とでできている。あまり対称性がないその他の部分は孔の両側にあって、分子を取り扱っている。構造体全体では毎秒1000分子を輸送することができ、分子のサイズもタンパク質からリボソームサブユニット全体まで対応できる。

核膜孔複合体の研究

核膜孔複合体全体の構造はかなり大きく活動的なので、「分割統治」の方法を使って構造の解明が行われた。ヌクレオポリン単体と、複合体の一部についての結晶構造がそれぞれ原子レベルの解像度で解かれ、核膜孔複合体全体の骨格に関するマップデータが電子顕微鏡で得られた。このマップの情報は、個々の原子を識別できる程の解像度はないが、タンパク質全体をみるには十分である。この原子レベルの部品構造と全体の電子密度マップを統合して全体の構造が得られた。ここに示す図は、これらの統合構造のうちの2つをつなげ、孔中心の基盤部分をみられるようにしたもので、外側の輪はPDBエントリー 5a9q 、内側のチャネルを構成する環状部分はPDBエントリー 5ijn の構造である。

分子の輸送

ヌクレオポリンの小片Nup214(青緑色、FGリピート部分は緑色)が、SPN1タンパク質を核の内から外へと運び出すタンパク質CRM1(オレンジ色)と結合している。Ran(ピンク色)がGTPと結合し、この輸送体の働きを調節する。

核膜孔複合体の中心にある拡散チャネルは、核と細胞質との間における分子の行き来を制御する。低分子は自由に孔を通過できるが、高分子は積極的に運ぼうとしなければ通過できない。 カリオフェリン (karyopherin)と呼ばれる輸送タンパク質は、まだ決まった構造をとらず輸送チャネルに伸びているヌクレオポリン鎖(PDBエントリー 5dis )と相互作用する。このタンパク質は、ヌクレオポリンの鎖中に何度も繰り返し現れるフェニルアラニン-グリシンの配列( FGリピート )に結合する。カリオフェリンは、このFGリピートにおける一時的な相互作用を通して、運んでいる分子と一緒にチャネルを移動する。

構造をみる

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

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外被ヌクレオポリン複合体 (coat nucleoporin complex)は、対称的な形をした核膜孔複合体中心部の一部分である。酵母の場合、外被ヌクレオポリンは集まってY字型の複合体をつくる。上図上にに示すのはその一つでPDBエントリー 4xmm の構造である。そして多くの外被ヌクレオポリン複合体が集まって4つの八員環をつくる。上図下に示すのはそのうちのひとつで、ヒト由来の複合体である。Y字型をした複合体の腕部が隣接する分子をつかみ、輪全体が一体となるよう固定している。図の下にあるボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、酵母由来の複合体をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. RCSB PDBのProtein Feature Viewを使うと、ヌクレオポリンタンパク質のうちPDBに登録されている構造データには含まれない部分をみることができます。例えば、 Nup214 を見て、多くのFGリピートを伴った長く形の定まらない領域があることに注目してみてください。
  2. PDBにはヌクレオポリンの構造が多数登録されています。PDBjで ヌクレオポリン のキーワードで検索すると見つけられるでしょう。

参考文献

  1. A. Hoelz, J. S. Glavy & M. Beck 2016 Toward the atomic structure of the nuclear pore complex: when top down meets bottom up. Nature Structural & Molecular Biology 23 624-630
  2. 5ijn J. Kosinski, S. Mosalaganti, A. von Appen, R. Teimer, A. L. DiGuilio, W. Wan, K. H. Bui, W. J. Hagen, J. A. Briggs, J. S. Glavy, E. Hurt & M. Beck 2016 Molecular architecture of the inner ring scaffold of the human nuclear pore complex. Science 352 363-365
  3. T. U. Schwartz 2016 The structure inventory of the nuclear pore complex. Journal of Molecular Biology 428 1986-2000
  4. 5dis S. A. Port, T. Monecke, A. Dickmanns, C. Spillner, R. Hofele, H. Urlaub, R. Ficner & R. H. Kehlenback 2015 Structural and functional characterization of CRM1-Nup214 interactions reveals multiple FG-binding sites involved in nuclear export. Cell Reports 13 690-702
  5. 4xmm T. Stuwe, A. R. Correia, D. H. Lin, M. Paduch, V. T. Lu, A. A. Kossiakoff & A. Hoelz 2015 Nuclear pores. Architecture of the nuclear pore complex. Science 347 1148-1152
  6. 5a9q A. von Appen, J. Kosinski, L. Sparks, A. Ori, A. L. DeGuilio, B. Vollmer, M. T. Mackmull, N. Banterle, L. Parca, P. Kastritis, K. Buczak, S. Mosalaganti, W. Hagan, A. Andres-Pons, E. A. Lemke, P. Bork, W. Antonin, J. S. Glavy, K. H. Bui & M. Beck 2015 In situ structural analysis of the human nuclear pore complex. Nature 526 140-143
  7. A. Hoelz, E. W. Debler & G. Blobel 2011 The structure of the nuclear pore complex. Annual Review of Biochemistry 80 613-643



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2017-01-01 (last edited: 3 months ago)2017-01-04
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