このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2016年8月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
正二十面体型ウイルス。各ウイルスにおいて、ウイルスを構成するサブユニットは化学的に同一のものだが、対称性は必ずしも全て同一という訳ではない。ここでは対称性の異なるものを違う色で示している。5量体をつくるサブユニットは赤で、6量体をつくるサブユニットは黄色とオレンジ色で示している。
正二十面体型ウイルス。各ウイルスにおいて、ウイルスを構成するサブユニットは化学的に同一のものだが、対称性は必ずしも全て同一という訳ではない。ここでは対称性の異なるものを違う色で示している。5量体をつくるサブユニットは赤で、6量体をつくるサブユニットは黄色とオレンジ色で示している。

ウイルスの構造がまだ決定されていなかった1950年代、 ワトソン (Watson)と クリック (Crick)は「ウイルスは多くの小さなサブユニットが対称性をもって集まった集合体である」と予測した。この説はある悩ましい観察結果に基づいている。小さなウイルスの内側には少量のRNA(またはDNA)しか収まらないが、このRNAはウイルスを構成する各タンパク質の配列をコードしている必要がある。この問題は タバコ壊死サテライトウイルス (satellite tobacco necrosis virus、PDBエントリー 2buk )のような最小サイズのウイルスで特に深刻である。このカプシドは1本鎖RNAを収めるだけの大きさしかない。そしてこのRNAにはたった1つのタンパク質〜カプシドのサブユニット〜だけがコードされている。このウイルスは「 サテライト 」ウイルスと呼ばれているが、それは単独では細胞に感染できないことから来ている。サテライトウイルスは、複製に必要なウイルス機械を提供してくれる別のウイルスに依存し、そのウイルスと同時に細胞へと感染する。

準対称性

通常、ウイルスはそのウイルスに依存する小さなサテライトウイルスよりも大きくないといけない。それはサテライトウイルスが追加で必要となるウイルスタンパク質までコードしているからである。これを実現する方法の一つが 準対称性 (quasisymmetry)を使うことである。完全な正二十面体型のウイルスでは、サブユニットが5量体をつくり、それが各頂点に集まって小さな正二十面体型になる。一方準対称性のウイルスでは、1種類のサブユニットが複数の役割を果たす。頂点に集まる5量体に加え、少し異なる方法で集まった6量体もつくる。6量体がより大きな正二十面体型の表面にできた隙間を埋める。1960年代の始め、 カスパー (Caspar)と クルーク (Klug)は5量体と6量体を配置するための系統的な方法を発見した。この考えは、最終的なカプシドをつくる上で必要となる各集合体の個数を定める 三角形分割数 (triangulation number)に基づいている。

三角形分割数

完全に対称なウイルスの三角形分割数Tは、全てのサブユニットが同等なので1になる。T=1のカプシドのサイズは、タバコ壊死サテライトウイルスが持つ1239ヌクレオチドのRNA鎖を格納するのに丁度よい。 トマトブッシースタントウイルス (tomato bushy stunt virus、PDBエントリー 2tbv )の三角形分割数は次に大きなT=3である。これは正二十面体の各頂点に五角形を、各面の中央には六角形を配置したものである。このカプシドにはより大きな4776ヌクレオチドのゲノムを格納できる。このゲノムにはウイルスのレプリカーゼ(replicase)を含む5つのタンパク質がコードされている。T=4のカプシドを持つ ヌダウレリア カペンシス オメガ ウイルス (Nudaurelia capensis omega virus、PDBエントリー 1ohf 、蛾の一種を宿主とするRNAウイルス)は、正二十面体の各辺の真ん中に六角形を配置した構造を持ち、レプリカーゼとカプシドタンパク質をコードする2本鎖RNAが入っている。 バクテリオファージ HK97 (bacteriophage HK97、PDBエントリー 1ohg )はT=7の準対称性を持ち、61種のタンパク質をコードする39,732ヌクレオチドのDNA鎖を収納するのに十分な大きさを持っている。

対称性の破れ

準対称性の例外。最初の図との同じように色分けしている。左はシミアンウイルス40、右はブルータングウイルスのカプシド内層
準対称性の例外。最初の図との同じように色分けしている。

もちろん、進化の上でいつもどんなルールに対しても例外を伴うものであり、多くの変種構造が見つかっている。アデノウイルスなど多くの正二十面体型ウイルスは、カプシドをつくるのに何種類かのサブユニットを使い、頂点と面で異なるタンパク質を配置している。ところが、一種類のサブユニットだけを使い、これまで知られている準対称性に従わない構造をとるウイルスもいる。例えば、 シミアンウイルス40 (simian Virus 40、PDBエントリー 1sva )はT=7の準対称性に似ているが、五角形だけを使って構造をつくっている。各サブユニットに長い腕をつくり、隣のサブユニットと絡み合わせることでこの構造を実現している。 ブルータングウイルス (bluetongue virus、PDBエントリー 2btv )のカプシド内層には、エッシャーの絵を連想させるような独特の様式でサブユニットが敷き詰められている。サブユニットは二種類の独特な配置を取っている。回対称の頂点にある赤いサブユニット群のとがった先に注目し、両方の配置の違いを見てみて欲しい。同じとがった先が黄色いサブユニットでは2つの赤いサブユニットの間にはさみ込まれている。

構造をみる

トマトブッシースタントウイルスのカプシドタンパク質。左:5量体と6量体の接触部分、右:6量体の接触部分。

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。
上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

準対称性をもつ構造をつくる上で、サブユニットは個々の場所にうまくはまるようにするための小さな動きを要求される。5量体と6量体の両方をつくることで、その要求にこたえることができる。トマトブッシースタントウイルスのサブユニットをよく見てみると、2つのドメインでできていることが分かるだろう。一方のドメイン(水色、緑色の部分)が5量体と6量体の接触部分を、もう一方のドメイン(青色、黄色の部分)が隣接する5量体と6量体をつなげている。2つのドメインをつなぐ柔軟な結合部分によって、しかるべき結合の相手が見つかるようにサブユニットを曲げることができるようになっている。より詳しくみるため、図の下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDB-101の準対称性ウイルス のページにあるペーパーモデルの工作を通して、これらの準対称性ウイルスのモデルをつくり準対称性の原理をより理解することができるでしょう。また、PDBから選んだ200種の正二十面体型ウイルスを描いたPDB-101ポスターを こちら からダウンロードできます。
  2. ガイスデジタルアーカイブ (Geis Digital Archive)で、彼が以前に描いたウイルスの絵を見てみてください。

参考文献

  1. 1ohf C. Helgstrand, S. Munshi, J. E. Johnson & L. Liljas 2004 The refined structure of Nudaurelia capensis omega virus reveals control elements for a T = 4 capsid maturation. Virology 318 192-203
  2. 1ohg C. Helgstrand, W. R. Wikoff, R. L. Duda, R. W. Hendrix, J. E. Johnson & L. Liljas 2003 The refined structure of a protein catenane: the Hk97 bacteriophage capsid at 3.44 A resolution. Journal of Molecular Biology 334 885-899
  3. 2btv J. M. Grimes, J. N. Burroughs, P. Gouet, J. M. Diprose, R. Malby, S. Zientara, P. P. Mertens & D. I. Stuart 1998 The atomic structure of the bluetongue virus core. Nature 395 470-478
  4. 1sva T. Stehle, S. J. Gamblin, Y. Yan & S. C. Harrison 1996 The structure of simian virus 40 refined at 3.1 A resolution. Structure 4 165-182
  5. 2tbv P. Hopper, S. C. Harrison & R. T. Sauer 1984 Structure of tomato bushy stunt virus. V. Coat protein sequence determination and its structural implications. Journal of Molecular Biology 117 701-713
  6. 2buk T. A. Jones & L. Liljas 1984 Structure of satellite tobacco necrosis virus after crystallographic refinement at 2.5 A resolution. Journal of Molecular Biology 177 735-767
  7. D. L. D. Caspar & A. Klug 1962 Physical principles in the construction of regular viruses. Cold Spring Harbor Symposium on Quantitative Biology 27 1-24
  8. F. H. C. Crick & J. D. Watson 1956 Structure of small viruses. Nature 177 473-475



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2016-08-01 (last edited: 7 months ago)2016-09-09
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