このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2015年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ニューデリー メタロβラクタマーゼ(PDB:4eyl)

ペニシリン (penicillin)などの抗生物質を発見したことは、人類の歴史にとって画期的な出来事であった。しかし、この発見から数年のうちに細菌は反撃を開始し、抗生物質に抵抗性を示す細菌種が出現し始めた。その後何十年か経過した現在も、これらの抵抗性細菌に対抗する新たな抗生物質を探すための医学研究が続けられている。この努力は、天然物の探索と化合物の人工設計の両方を使って進められている。

超強力細菌

近年、我々は投与した薬剤を全て破壊してしまう高抵抗性細菌に直面している。最も危険な菌株が南アジアで出現し、最近ロサンゼルス地域医療センターで致命的な感染拡大が発生した。これらの細菌は NDM-1 (new Delhi Metallo-β-Lactamase、ニューデリー メタロβラクタマーゼ)という酵素を使って、幅広い種類のペニシリン様抗生物質を不活性化する。ここに示す構造(PDBエントリー 4eyl )は、高度先進型の カルバペネム系抗生物質 (carbapenem antibiotic)を分解した直後の酵素である。

情報の共有

多剤耐性菌の薬剤分解酵素を他の細菌と共有できてしまうことが、事態をより危険なものにしている。これら酵素の設計指示書は、 プラスミド (plasmid)と呼ばれる二重鎖の小さな環状DNAで運ばれていることがよくあり、これを使って細胞から細胞へと簡単に伝えることができる。例えば、ある新たな細菌がNDM-1の遺伝子を含むプラスミドを取り込むと、広い範囲の抗生物質に対する耐性を獲得することになる。このぞっとする現実により、新たな別のものを対象とする抗生物質の探索を強いられている。なぜなら、この超強力細菌は我々が用意した最強の ペニシリン様βラクタム でも止めることはできないからである。

様々な攻撃手法

カルバペネム系抗生物質を加水分解するβラクタマーゼとこれを不活性化する阻害剤(PDB:3rxw)

抗生物質抵抗性細菌はこのような抗生物質を破壊するのに様々な手法を用いる。NDM-1は、反応の際2つの 亜鉛 (zinc)原子を使う金属酵素である。最近、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の系統で カルバペネム系抗生物質 に対しても強い抵抗性を持つものが出てきている。この細菌は全く異なる方法を使っていて、特に反応性の高いセリンアミノ酸で抗生物質を攻撃する。だが我々も反撃を仕掛けているところである。ここに示す構造(PDBエントリー 3rxw )には、このセリンに結合して細菌の酵素を不活性化する薬の試作品が含まれている。

構造をみる

ニューデリー メタロβラクタマーゼと抗生物質のアンピシリン(PDB:3q6x)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

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NDM-1は通常の酵素のように対象基質が特異的ではないので、特に効果的である。ほとんどの酵素は基質を取り囲み、特定の対象分子だけを認識する。一方NDM-1の場合、2つの亜鉛イオンを使って抗生物質の重要な活性部位だけを認識し残りの大部分は無視する。こうしてほとんど全ての βラクタム系抗生物質 (β-lactam antibiotics)を無効化することができる。上図は酵素が抗生物質の アンピシリン (ampicillin)に結合して切断した後の様子を示したもの(PDBエントリー 3q6x )である。図の下のボタンをクリックし、対話的操作のできる画像に切り替えると、この酵素が別の抗生物質(ペニシリン penicillin、セファロスポリン cephalosporin、カルバペネム carbapenem)と結合している様子も見ることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. βラクタム抵抗性に関係する構造が多数PDBに登録されています。そのいくつかを、RCSB PDBのProtein Feature Viewで見ることができます。例えば、 TEM-1KPC-2NDM-1 を見てみてください。
  2. リガンドの概要ページで抗生物質分子の構造を見ることができます。例えば、 アンピシリン (ampicillin)のページ( PDBj - RCSB PDB )を見てみてください。

参考文献

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  2. 3rxw W. Ke, C. R. Bethel, K. M. Papp-Wallace, S. R. Pagadala, M. Nottingham, D. Fernandez, J. D. Buynak, R. A. Bonomo & F. van den Akker 2012 Crystal structures of KPC-2 β-lactamase in complex with 3-nitrophenyl boronic acid and the penam sulfone PSR-3-226. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 56 2713-2718 DOI: 10.1128/AAC.06099-11
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代表的な構造

3rxw : β-ラクタマーゼ KPC-2
KPC-2は幅広い種類の抗生物質を分解するβ-ラクタマーゼの一種で、高い薬剤抵抗性を持つ細菌で見られる。
3q6x : β-ラクタマーゼ NDM-1
NDM-1は幅広い種類の抗生物質を分解するβ-ラクタマーゼの一種で、高い薬剤抵抗性を持つ細菌で見られる。



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2015-07-01 (last edited: 10 months ago)2016-09-09
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