168: DNAヘリカーゼ(DNA Helicase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
DNAヘリカーゼ(PDB:4esv)

私たちの遺伝情報はDNA二重らせんの中へ安全に格納されている。この情報を利用するにはらせんをほどいて塩基を外側にさらして、DNAポリメラーゼ(DNA polymerase)が接触して相補的なDNAやRNAを作れるようにしなくてはならない。DNAをほどくのは想像以上に巧妙さが必要である。塩基間の相互作用は相当強く、しかもその数は相当な数になるので、鎖を分離するにはかなりのエネルギーを必要とする。この仕事を行うのがDNAヘリカーゼ( DNA helicase)である。この分子はDNA二重らせんの2本鎖を分ける酵素である。

複製するヘリカーゼ

ここに示すヘリカーゼ(PDBエントリー 4esv)は細菌ゲノムを複製する時、2本鎖のDNAを1本ずつに分離する働きをする。染色体は環状型で複製は起点(origin)と呼ばれるある一点から始まり、両方向に進んで、起点と反対側で終わる。ヘリカーゼはDNA(橙色で示す部分)が一本鎖となった部分を取り囲み、二重らせんを分離しながら鎖を進んでいく。この動作はATP(赤で示す部分)によるエネルギーを使って行われる。

DNAを取り囲む

複製を行うDNAヘリカーゼは、DNAヘリカーゼ自身が持つ環状サブユニットの穴に、ATPを使って他のタンパク質や核酸を通す「タンパク質エンジン」の一つである。この酵素群は2種類に分類することができる。細菌が持つタイプは遺伝子組み換えに関係するタンパク質RecAと似ている。一方私たちが持つ複製的なヘリカーゼはAAA+プロテアーゼ(AAA+ protease )と似たAAA+ ATPアーゼである。どちらの場合も、1本鎖DNAの周りを環状のサブユニットが取り囲んだ複合体を形成する。ここに示す複製的ヘリカーゼは、6つの同じ形のサブユニットが集まってロックワッシャー様の形を形成し、その中にDNAらせんを捕らえた構造をしている。

DNAを溶かす

開始因子タンパク質の一つDnaA(PDB:3r8f)

複製過程全体が始まる時、2つのタンパク質が細胞で複製を行うヘリカーゼを助けている。1つは開始因子(initiator)として知られるもので、複製開始点に結合し、ヘリカーゼを適切な場所に配置する。ここに示すのは開始因子タンパク質の一つDnaA(PDBエントリー 3r8f)で、DNA鎖を最初に分離する反応も触媒する。この開始因子はサブユニットが集まって長いらせん型の作り、2種類の仕事をしていると考えられている。最初にDNA二重らせんがヘリカーゼの外側を包み込み、AT塩基(アデニンとグアニン)が豊富な特徴のある起点配列のすぐ側に超らせん構造(らせん鎖が更にらせんを構築する多重らせん構造)を作る。次にDnaAがATが豊富な領域に結合して、ここに示す構造でみられるようにDNA鎖の1本をとらえて引き延ばし、二重らせんを解体するのを助けている。

構造をみる

DNAヘリカーゼ(青)、ヘリカーゼローダー(赤紫)、プライマーゼ由来の小さなドメイン(緑)(PDB:4m4w)

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2つ目のタンパク質であるヘリカーゼローダー(helicase loader)は1本鎖DNAの上にあるDNAヘリカーゼについての開始因子とシャペロンを助ける。ここに示す構造(PDBエントリー 4m4w)にはDNAヘリカーゼ(青)、ヘリカーゼローダー(赤紫)、プライマーゼ由来の小さなドメイン(緑)が含まれ、小さなRNAを作る酵素であるプライマーは複製を開始させる。この低解像度の構造は、個々の構成要素の原子が識別できる高解像度の構造を用いて解かれたもので、ヘリカーゼサブユニットが作る環の中にある穴は1本鎖DNAが入っていく部位と考えられている。この構造をより詳しくみるため、画像下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 1本鎖DNAに結合したヘリカーゼの構造が他にもいくつかPDBに登録されています。その中の一つに、細菌のヘリカーゼで2量体として働くRep(PDBエントリー 1uaa)があります。
  2. DnaAは2本鎖DNAに結合するドメインを持ち、DnaA集合体の外側に巻き付きます。 2本鎖DNAに結合したこのドメインの構造をPDBエントリー 1j1v でみることができます。
  3. ヘリカーゼローダーDnaCの構造はかなりDnaAの構造と似ていて、似たサブユニットのらせんを形成します。PDBjのGASHRASH、RCSBのCompare Structuresなどの構造比較ツールを使って、PDBエントリー 3ecc3r8f の構造を重ね合わせてみるといいでしょう。

参考文献

  1. 4m4w B. Liu, W. K. Eliason & T. A. Steitz 2013 Structure of a helicase-helicase loader complex reveals insights into the mechanism of bacterial primosome assembly. Nature Communications 4 2495 10.1038/ncomms3495
  2. 4esv O. Itsathitphaisarn, R. A. Wing, W. K. Eliason, J. Wang & T. Steitz 2012 The hexameric helicase DnaB adopts a nonplanar conformation during translocation. Cell 151 267-277 10.1016/j.cell.2012.09.014
  3. P. Soultanas 2012 Loading mechanisms of ring helicases at replication origins. Molecular Microbiology 84 6-16 10.1111/j.1365-2958.2012.08012.x
  4. 3r8f K. E. Duderstadt, K. Chuang & J. M. Berger 2011 DNA stretching by bacterial initiators promotes replication origin opening. Nature 478 209-213 10.1038/nature10455

代表的な構造

4esv: DNAヘリカーゼ
DNAヘリカーゼはATPのエネルギーを使って、DNA二重らせんに含まれる2本の鎖を分離する。この構造は細菌のDNAヘリカーゼであるDnaBに1本鎖DNAが結合したものである。
4m4w: DNAヘリカーゼとヘリカーゼローダー
DNAヘリカーゼはATPのエネルギーを使って、DNA二重らせんに含まれる2本の鎖を分離する。この構造には細菌のDNAヘリカーゼ、ヘリカーゼローダータンパク質、そしてプライマーゼ由来のドメインが含まれる。
3r8f: DnaA
DnaAは染色体にある複製起点において2本のDNA鎖を分離する働きをする。この構造は1本鎖DNAに結合したDnaAの構造である。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2013年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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