このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2013年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
HIVカプシド(PDB:1e6j)

ウイルスには様々な形や大きさがあり、タンパク質の殻があって中身はRNAまたはDNAが詰まっているだけという単純なウイルスもいれば、膜で囲まれた粒子の中身は様々な分子で満たされ細胞に匹敵する複雑さを持った複雑なウイルスもいる。 ヒト免疫不全ウイルス (human immunodeficiency virus、HIV)は、膜の中にウイルス自身に由来する分子も感染先細胞由来の分子も含む複雑なウイルスの一つである。HIVのゲノムは2本鎖RNAでできており、独特な円錐様の形をした ( カプシド capsid)の中に収められている。このカプシドはRNAを保護し、感染先細胞にRNAを運び込む役割を担っている。

柔軟性の維持

HIVカプシド はカプシドタンパク質(capsid protein)と呼ばれる1種類のタンパク質でできている(右図左に示すのはPDBエントリー 1e6j の構造)。カプシドタンパク質はCA、p24とも呼ばれるタンパク質で、2つのドメインに折りたたまれ、両者の間は柔軟な連結部分でつながっている。 この柔軟さのおかげで、カプシドタンパク質はいろんな集まり方ができる。大きい方のドメインは、6鎖が集まった環状の部分と、これより鎖の数少ない環状の部分(その多くは5鎖で構成される)とでできている。そして、小さい方のドメインはこれらの環状ドメインをくっつけてより大きな構造を作り上げる。

対称性の崩れ

HIVウイルスは、柔軟性があることにより対称性が少し崩れたカプシドを作ることができる。これは ポリオウイルスやライノウイルス(風邪ウイルス) など完全に対称なカプシドを持つウイルスとは異なる点である。HIVカプシドは珍しい円錐のような形をしていて、5量体の環状ドメイン12個(橙色で示す部分)と100個以上の6量体(赤色で示す部分)からできている。このモデルは、電子顕微鏡で解かれた2つの構造(PDBエントリー 3h472kod )を使い、分子動力学(molecular dynamics)で構造を改良して得られた。電子顕微鏡で得られた画像と矛盾しないモデルが2つ得られていて、一方は216量体(ここに示すのはPDBエントリー 3j3q の構造)、もう一方はもう少し小さい186量体(PDBエントリー 3j3y )である。これらHIVカプシドの構造は、その大きさから記念すべきPDBエントリーと言えるものである。詳細については wwPDBのニュース をご参照頂きたい。

ウイルスへの反撃

左:TRIM5α(PDB:2lm3) 右:シクロフィリンA(青)とHIV-1カプシド(赤)(PDB:1ak4])

TRIM5はウイルスとその感染対象生物との間で続く闘いの中で開発された対ウイルス兵器の一つである。TRIM5はHIVを含むレトロウイルス類のカプシドに結合して、カプシドを解体する過程を妨げる。ただ現時点においてヒトのTRIM5はHIVには効果がなく、他のレトロウイルスにしか効果を示さない。一方、アカゲザル(rhesus monkey)から得られたTRIM5タンパク質(ここに示すのはPDBエントリー 2lm3 、上図左)にはHIVに対して大いに効果がある。HIVは感染細胞が持つタンパク質を利用して自身を複製する。そして感染細胞からHIVが出て行く時、細胞内にある酵素「 シクロフィリンA 」(cyclophilin A、ここに示すのはPDBエントリー 1ak4 の構造、上図右の青い部分)がカプシド(赤色部分)に結合する。ウイルスの生活環においてこの酵素が果たす役割を解明する努力が続けられているが、ウイルスが新たな細胞へと感染する時適切にカプシドを脱ぐのに欠かせないもののようである。

構造をみる

左:6量体のHIVカプシド(PDB:3mge)、右:5量体のHIVカプシド(PDB:3p05)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

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カプシドタンパク質は構造を少し変えることにより、6量体にも5量体にもなる。これは「 擬似等価 」(quasiequivalence)の原則の一例で、最初に カスパー (Caspar)と クラグ (Klug)によって1962年に提案されたものである。擬似等価とは、使うタンパク質鎖の数は1本のままで増やすことなく、完全な対称性を保ったまま作ることができるものより大きなカプシドを作る方法として多くのウイルスが用いている方法である。HIVカプシドにおいて多くのサブユニット間の相互作用は似ているが、円錐状の部分と丸い球面状の部分で異なるそれぞれの形に適合するよう少しサブユニットの形は変形している。上図下のボタンをクリックして対話的操作のできるページに切り替え両者の構造を詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. HIVカプシドとHIVが持つ他のタンパク質の構造をオンラインフラッシュアニメーションでみることができます: HIVの構造生物学
  2. PDBjの GASHRASH 、RCSBの Compare Structures などの構造比較ツールを使って、5量体と6量体の構造を比較し、カプシドの柔軟性をみることができます。
  3. 6量体と5量体の複合体構造を解く際、システインで両者を固定した人工改変カプシドを使っています。 PDBjの 万見 やRCSBの View in 3D などの分子ビューアサイトでPDBエントリー 3mge3p05 の構造を表示し、コマンド「 select cys;spacefill;color yellow 」を実行してみてください。万見では[多機能モード]をONにすると表示される[コマンド]から、View in 3Dでは[Scripting Options]からコマンドを入力することができます。コマンド入力後、万見では「実行」(Run)ボタン、View in 3Dでは「Submit」ボタンを忘れずクリックしてください。

HIVカプシドのモデルをつくる

上図をクリックすると、HIVカプシドの紙モデルをダウンロードすることができます。なお、紙モデルに付記してある説明の日本語訳は以下の通り:

HIVカプシドのモデルをつくってみよう!

以下のモデルを切り抜き、白い線で折って、灰色ののりしろ部分をのりかテープで止めるとHIVカプシドのモデルを作ることができます。全て閉じてしまう前に4mのひもを2本、中に入れてみてください。これはHIVゲノムであるRNA鎖の代わりとなります。

なお折り目で折らずにカプシドを組み立ててみると、工作は難しくなりますが角の取れたより実際の形に近いモデルをつくることができます。

この紙モデルは 文献4 で発表された構造に基づいて作成したものです。

参考文献

  1. O. Pornillos, B. K. Ganser-Pornillos & M. Yeager 2011 Atomic-level modelling of the HIV capsid. Nature 469 424-427
  2. G. J. Towers 2007 The control of viral infection by tripartite motif proteins and cyclophilin A. Retrovirology 4 40
  3. D. L. D. Caspar and A. Klug 1962 Physical principles in the construction of regular viruses. Cold Spring Harbor Symposium on Quantitative Biology 27 1-24
  4. Gongpu Zhao et al. 2013 Mature HIV-1 capsid structure by cryo-electron microscopy and all-atom molecular dynamics. Nature 497 643-646 10.1038/nature12162

代表的な構造

1e6j : HIVカプシドと抗体の抗原結合部分(Fab)
円錐形のカプシドは成熟型のHIVウイルスにおいてゲノムを保護し、次の感染先細胞にゲノムを運搬する役割を担う。この構造には1本のカプシドタンパク質とこれに結合した抗体の抗原結合部位(Fab)が含まれている。
3mge : HIVカプシド6量体
円錐形のカプシドは成熟型のHIVウイルスにおいてゲノムを保護し、次の感染先細胞にゲノムを運搬する役割を担う。この構造は6量体となっているカプシドタンパク質の構造である。
3p05 : HIVカプシド5量体
円錐形のカプシドは成熟型のHIVウイルスにおいてゲノムを保護し、次の感染先細胞にゲノムを運搬する役割を担う。この構造は5量体となっているカプシドタンパク質の構造である。



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2013-07-01 (last edited: 10 months ago)2016-09-09
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