134: インテグリン(Integrin)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
インテグリン(PDB:1jv2、2k9j、1m8o)

私たちの身体は約10兆個の細胞からできていて、構造と通信の上で難しい問題をかかえている。これら細胞は全て、私たちが立って歩くことができるよう強くつながって一緒になっている必要がある。ところが一方で、私たちを支えている基盤は傷ついた時に治すことができるよう、修復可能な柔軟さも兼ね備えている必要がある。また多くの細胞は互いに通信し合うことで、個々それぞれの適切な役割を果たすことができるようにしている。体内にある様々な種類の分子が、この構造支持と通信に関する複雑な基盤に関与している。そしてインテグリン(integrin)がその中心的な役割を果たしている。

細胞をつなぐ

インテグリンは細胞表面に見られる分子で、そこで細胞内にある細胞骨格(cytoskeleton)と細胞外にある細胞外基質(extracellular matrix、細胞外マトリックス)をつないでいる。何十種類もの型があって、それぞれ固有の役割を担っている。そのほとんどはタリン(talin)のようなアダプタータンパク質を使って細胞内のアクチン(actin)につながっているが、中にはアクチンの代わりに中間径フィラメント(intermediate filament、中間径線維)につながっているものもある。細胞外では、また別の種類のインテグリンが様々な別のものを対象としている。多くの細胞は、コラーゲン(collagen)、フィブロネクチン(fibronectin)、ラミニン(laminin)といった細胞外基質の構成要素をつなげるインテグリンを持っている。また別のインテグリンもそれぞれ特有の仕事に使われている。例えば、白血球(white blood cell、leukocyte)は他の細胞にくっついてその細胞が感染しているかを調べられるようにする特有のインテグリンを、血液中にある小さな血小板(platelet)は血栓形成を助けられるようにする特有のインテグリンを持っている。

部分ごとの構造

インテグリンは青と緑で示す2本の鎖で構成されており、折りたたまれて柔軟な機能ドメインの集まりになっている。多くの柔軟なタンパク質機構と同様に、インテグリンの構造も部分ごとに分けて構造が解かれた。ここに図示した構造は3つの部分構造を含んでいる。上部に示すのは細胞外部分にある構造(PDBエントリー 1jv2)で、細胞表面から外側に向かって伸びている。これが短い膜貫通部分(PDBエントリー 2k9j)を介して膜の内側へとつながっている。そして図下部に示す2つの短い細胞質尾部(PDBエントリー 1m8o)は、細胞内へと伸びている。

インテグリンの活性化

インテグリン(左:不活性状態 PDB:1jv2、2k9j、1m8o、右:活性状態 PDB:2vdo、3fcs、2k9j、2h7d)

細胞外部分の構造が解かれたとき、上図左に示すように、大きな分子が飛び出しナイフのように折りたたまれ、結合部位が膜の中へしまいこまれていることが明らかになった。だが、電子顕微鏡による研究によって、これは不活性な「休止状態」の構造であり、活性化されると上図右に示すように構造が開いて結合部位が伸び、細胞表面から離れて対象に結合できるようになることが示された。 なお、現在のところ開いた状態の構造はPDBに登録されていないため、この推測図はいくつかの断片構造(PDBエントリー 2vdo3fcs2k9j2h7d)を使って作ったものである。ここで、上部に赤色で示すのはフィブリノーゲン(fibrinogen)由来の短いペプチド、底部に紫色で示すのはタリン由来ドメインの一つである。

分子による対話

インテグリンによる信号伝達は双方向に行き来する。インテグリンの集団が全てある対象に結合した時、細胞内へと信号が送られ、細胞が成長や形状をどのように制御するのかを調整する。一方、インテグリンの活動を細胞内部からも制御できる細胞もある。例えば、血小板は結合して血栓を作れるようになる前に血小板が持っているインテグリンを活性化する必要がある。

構造をみる

活性状態にあるインテグリンの結合ドメイン付近にフィブリノーゲンが結合したもの(PDB:2vdo)

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

開いた状態(活性状態)にある細胞外領域全体の結晶構造はまだ解かれていないが、結合部位に近いドメインだけを含んだ小さな断片については研究が行われている。PDBエントリー 2vdo は活性状態にある開いた構造のインテグリンにフィブリノーゲン由来の短いペプチドが結合したものである。上図下にあるボタンをクリックして画像を対話的操作のできるモードに切り替え、開いた構造と閉じた構造を比較してみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. インテグリンと細胞内外にある様々な分子との相互作用について研究が進められています。この相互作用を示している構造を見つけることができますか?
  2. インテグリンを攻撃するヘビの毒素の構造をPDBエントリー 1v7p で見ることができます。なぜインテグリンを阻害することによってヘビ毒素がより効果を発揮するのでしょうか?

参考文献

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2011年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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