10: リボソームサブユニット(Ribosomal Subunits)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

リボソームサブユニット

タンパク質の工場

タンパク質の合成は生きた細胞で行われている重要な仕事である。例えば、通常の細菌細胞にある分子のおよそ3分の1はこの仕事に関わっている。そしてこの合成過程は多くの分子機械が関係する複雑な過程である。DNADNAポリメラーゼRNAポリメラーゼを含むこれら分子機械の情報はPDBで見ることができる。また多数の抑制因子、DNA修復酵素、トポイソメラーゼ、ヒストン、転移RNAアミノアシル転移RNA合成酵素、そして分子シャペロンも含まれる。まず最初に今月は、タンパク質合成工場を原子レベルで詳しく見ていくことにしよう。

わかりにくい構造

リボソームサブユニットは何十年もの間科学者たちによって調べられてきた。電子顕微鏡は年々より詳細な見解を与え、個々のリボソームサブユニット全体の形と種間のリボソームサブユニットの形の違いを明らかにしてきた。より最近になって、詳細な電子顕微鏡写真の3次元再構成法による研究で、リボソームサブユニットとメッセンジャーRNA(伝令RNA)、転移RNA、タンパク質伸長因子の間の相互作用が明らかになってきた。この電子顕微鏡で得られた形態学的な研究で得られた知見は、原子構造を理解する上での土台となっている。

リボソームサブユニットは2つのサブユニットで構成されている。上図右に示したのが大きい方のサブユニットで、左に示したのが小さい方のサブユニットである。もちろん、ここで言う「小さい」とは「相対的に小さい」という意味である。一般的なタンパク質に比べればどちらのサブユニットも大きなものとなっている。どちらのサブユニットも、橙と黄色で示した長いRNA鎖と青で示したタンパク質とで構成されている。新しいタンパク質を合成する時、2つのサブユニットはお互いを固定し合い、両者の間にある空間にメッセンジャーRNAを閉じこめる。そしてリボソームサブユニットは1度に3ヌクレオチドずつメッセンジャーRNAの上を歩き、アミノ酸を1個ずつ付け加えて新しいタンパク質を作っていく。

大きなサブユニット

リボソームサブユニットの大きい方のサブユニット。橙と黄色はRNA鎖、青はタンパク質、淡い青は柔軟性が高くて構造が決定されていないタンパク質の概略の形(PDB:1ffk)

このサブユニットの動画をダウンロードするには、上の分子画像またはこちらをクリックしてください。

大きい方のサブユニットの構造は PDBエントリー 1ffk で見ることができる。大きい方のサブユニットにはリボソームサブユニットの活性部位が含まれる。タンパク質が合成される際ここで新しいペプチド結合が作られていく。右図ではが中央を横切る溝の中を水平にメッセンジャーRNAが通る。ここに示した構造は、阻害剤が結合した他の構造とともに、リボソームサブユニットがリボザイム(触媒性RNA分子)であることの明確な証拠となる。通常の酵素は化学反応を触媒するのにアミノ酸を使うが、リボソームサブユニットはその合成作業を行うのにアデニンRNAヌクレオチドを使うようである。このアデニンを右図では緑色で示した(後ほどより拡大して見ることにする)。

大きい方のサブユニットは2つのRNA鎖で構成されている。長い方は橙色で、短い方は黄色で示している。そして何十個ものタンパク質がリボソームサブユニットの表面に結合している。その多くは長く曲がりくねってリボソームサブユニットの中心部へと伸び、RNA鎖とくっついて適切な形を保たせている。いくつかのタンパク質はこの結晶構造では見えていないが、それは恐らく柔軟性が高すぎることによる。この見えていないタンパク質の概形をこの図では薄い青で示しているが、これが電子顕微鏡で見る際に通常目印として用いられる2つの突き出た部分を形成する。

小さなサブユニット

リボソームサブユニットの小さい方のサブユニット

このサブユニットの動画をダウンロードするには、上の分子画像またはこちらをクリックしてください。

小さい方のサブユニットの構造は PDBエントリー 1fka と PDBエントリー 1fjg で見ることができる。こちらのサブユニットはタンパク質を合成している間情報の流れを管理している。まずメッセンジャーRNAを見つけ出し、大きい方のサブユニットと結合した後、メッセンジャーRNAのコドンとそれに適した運搬RNAとの対合を確かなものにする。メッセンジャーRNAは小さな穴(分子の左側)を通って、上にある "head" と下にある "body" の間の溝にある「解読センター」に入っていくと考えられている。しかし、メッセンジャーRNAは針のようにこの穴を通り抜ける必要はない。なぜならこの穴はリボソームサブユニットRNAの環でできていて、メッセンジャーRNAが入いれるよう掛け金のように開くことができるからである。

構造をみる

リボソームサブユニット大サブユニット(PDB:1ffk) ピンクはRNA、青はタンパク質の部分。赤はかつて合成反応を触媒すると考えられていたアデニン

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。なお、分子が大きいため、表示にはしばらく時間がかかります。

構造を見る前に、準備をしよう。大きい方のサブユニットも小さい方のサブユニットもたくさんの原子を含む巨大な複合体である。PDBエントリー 1ffk の大きい方のサブユニットの構造には64,000個以上の原子が含まれている。この構造の著者は、タンパク質についてはα炭素のみを取り出して登録しているがそれでもこれだけの原子数になっている。小さい方のサブユニット(PDBエントリー 1fka)もタンパク質については部分的な構造ではあるが、それでも原子の数は35,000個に近い。これだけ大きな構造になると、多くの対話型分子表示プログラムは非常に緩慢な動作をするようになる。

大きい方のサブユニットの構造に基づいて、2486番のアデニンが合成反応を触媒すると考えられていたが、後の研究でこれは反応には必要ないことが示された。現在、ペプチド輸送反応は転移RNAにある糖のヒドロキシル基の組み合わせと、リボソームサブユニットによる転移RNA分子の正確な位置決めによって触媒されていると考えられている。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2000年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

	{
    "header": {
        "minimamHeightScale": 1.0,
        "scalingAnimSec": 0.3
    },
    "src": {
        "spacer": "/share/im/ui_spacer.png",
        "dummy": "/share/im/ui_dummy.png"
    },
    "spacer": "/share/im/ui_spacer.png"
}