143: Toll様受容体 (Toll-like Receptors)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2011年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
Toll様受容体の細胞外にある馬蹄形部分(PDB:3fxi)と細胞内にあるリン酸化酵素ドメイン(PDB:2j67)

この世界は細菌とウイルスで満ちあふれており、その全てがしきりに細胞へ感染しようとしている。我々はこの絶え間ない攻撃に対して2つの防御手段を持っている。まず最初に働く防御手段は自然免疫系(innate immune system)で、一般的な攻撃者のほとんどを対象として警戒を行い、攻撃者を発見すれば素早く防御を行う。この免疫系は動物、植物、菌類など広く見られるもので、ほとんどの生物ではこれが唯一の防御線となっている。一方、脊椎動物は第2の防御線となる獲得免疫系(adaptive immune system)も兼ね備えている。事態がより深刻になって自然免疫系では防ぎ切れなくなると、侵入者に合わせて作られた 抗体 (antibody)や侵入者と戦う強力な白血球部隊を使ったこの獲得免疫系が防御を引き受けるようになる。

特定対象に特化した防御

自然免疫系は一般的な敵と戦えるよう生まれつき備わっているもので、例えば細菌や菌類による感染の検知に特化したショウジョウバエ(fruit fly)の「Toll(トル)たんぱく質」が自然免疫系で働くたんぱく質の一つとして挙げられる。我々の細胞ではこのTollに似た、Toll様受容体(toll-like Receptor)と呼ばるたんぱく質が10種類あり、個々に特有な、細菌やウイルスに由来する分子を認識している。ここに示すのはその一種で、多くの細菌細胞の細胞壁で見られるリポ多糖(lipopolysaccharide、赤色の部分)を認識する。このような外来の分子を見つけると、Toll様受容体は病原菌と戦うため炎症反応(inflammatory response)を引き起こす。この反応は非常に重要である。例えば、Toll様受容体の信号伝達経路の一ステップが欠損しているマウス(ハツカネズミ)は口内で一般的にみられる常在菌の感染で死んでしまうことも珍しくない。

曲者検知の信号送信

細胞表面にある様々な受容体と同様に、Toll様受容体も2量体を形成して信号を細胞内に伝える。受容体は細胞膜をまたぎ細胞内外に渡って存在しており、細胞外には大きな馬蹄形部分を、細胞内には小さなリン酸化酵素ドメイン(kinase domain)を伴っている。リポ多糖のような病原菌由来の分子は、2つの馬蹄形細胞外部位(ここに示す構造はPDBエントリー 3fxi )とくっつき、リン酸化酵素ドメイン(PDBエントリー 2j67 )を活性化して、細胞内へ信号を伝える一連の反応を開始させる。

味方? それとも敵?

Toll様受容体の細胞外部分(PDB:3ciy)

もちろん、この手法はToll様受容体が敵意ある分子を認識するためのものであって、我々自身の分子を認識するためのものではない。いくつかの型で構造が解かれているが、ここに示すその中の一つは、受容体の細胞外部分のみを含む構造(PDBエントリー 3ciy )で、35塩基対以上の長さがある2本鎖RNA断片を認識する。 転移RNA (transfer RNA)とマイクロRNA(microRNA)に含まれる2本鎖領域は通常これより短く、細胞内に長い2本鎖RNAが存在することはまれである。そのため長い二重らせんRNAが存在することは、ウイルスがいることを示す有力な信号となる。

構造をみる

リポたんぱく質と結合したToll様受容体の細胞外部分(PDB:2z7x)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

Toll様受容体が持つ特徴的な馬蹄形は「ロイシンリッチリピート」(leucine-rich repeat)と呼ばれるアミノ酸配列の繰り返しでできている。このモチーフ配列は他のたんぱく質でも多く用いられており、特に他のたんぱく質に結合するたんぱく質でよく見られる。 リボヌクレアーゼA 阻害剤(ribonuclease A inhibitor、PDBエントリー 1dfj 、図示はしていない)などの場合、ご想像の通りたんぱく質は馬蹄形の内側に結合する。ところがToll様受容体の場合は、対象分子は馬蹄形の側面にある窪みに結合する。これは細菌のリポたんぱく質(lipoprotein)を認識するToll様受容体(ここに示すのはPDBエントリー 2z7x )で特に明確で、受容体にある深い窪みが脂質鎖を取り囲む。この構造を拡大して見るには、画像の下にあるボタンをクリックして、対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 対象リガンドと結合する前の、単量体として存在しているToll様受容体の構造もいくつかPDBには登録されています。例えば、単量体型のTLR2(PDBエントリー 3a7c )と活性型の2量体(PDBエントリー 2z7x )を比較してみて下さい。
  2. リボヌクレアーゼA阻害剤もロイシンリッチリピートを持っていて馬蹄形のたんぱく質を形成しています。ところが、リボヌクレアーゼA阻害剤では曲がり方がより強くなってよりコンパクトな馬蹄形になっています。リボン表現(cartoon)または主鎖表現(backbone)を使ってTLR2(PDBエントリー 3a7c )とリボヌクレアーゼA阻害剤(PDBエントリー 1dfj )の二次構造を比較し、外側のαらせんがたんぱく質全体をより強く曲がった状態に押し込めていることに注目してみて下さい。

参考文献

Toll様受容体の細胞外にある馬蹄形部分(PDB:3fxi)と細胞内にあるリン酸化酵素ドメイン(PDB:2j67)
  • I. Botos, D. M. Segal and D. R. Davies 2011 The structural biology of Toll-like receptors. Structure 19 447-459
  • B. Beutler, S. Jiang, P. Georgel, K. Crozat, B. Croker, S. Rutschmann, X. Du and K. Hoebe 2006 Genetic analysis of host resistance: Toll-like receptor signaling and immunity at large. Annual Review of Immunology 24 353-389

代表的な構造

3fxi : リポ多糖に結合したToll様受容体 TLR4 と MD-2
Toll様受容体は自然免疫系の一部を担い、外来の分子を認識する。この構造にはMD-2 たんぱく質が結合したTLR4の細胞外ドメインが含まれている。この二つが一緒になって細菌のリポ多糖を認識する。
2z7x : リポたんぱく質が結合したToll様受容体 TLR1/TLR2
Toll様受容体は自然免疫系の一部を担い、外来の分子を認識する。この構造には細菌のリポたんぱく質が結合した TLR1 と TLR2 の細胞外ドメインが含まれている。
3ciy : Toll様受容体 TLR3 に2本鎖RNAが結合したもの
Toll様受容体は自然免疫系の一部を担い、外来の分子を認識する。この構造には2本鎖RNAが結合したTLR3の細胞外ドメインが含まれている。
2j67 : Toll様受容体 TLR10 の細胞質ドメイン
Toll様受容体は自然免疫系の一部を担い、外来の分子を認識する。この構造には TLR10 の細胞質ドメインが含まれていて、2量体となり活性化された状態にある。



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