140: ロンボイドプロテアーゼGlpG (Rhomboid Protease GlpG)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2011年8月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ロンボイドプロテアーゼGlpG(PDB:2nrf)、灰色の帯は膜の位置を示す

たんぱく質鎖を切断する酵素であるプロテアーゼ(protease)には様々な形や大きさのものがある。最も馴染みのある トリプシン (trypsin)や ペプシン (pepsin)のようなプロテアーゼは食物中に含まれるたんぱく質の消化に用いられるたんぱく質破壊機構である。ところが、我々の細胞内にあるプロテアーゼのほとんどはもっと繊細な仕事に使われている。このようなプロテアーゼは、他のたんぱく質の特定箇所を切断することによりそのたんぱく質の活動を制御する。切断されると活性化するたんぱく質もあれば、永久的に破壊されてしまうたんぱく質もある。どちらの場合も、変化は素早くて永続的なものであり、これによって対象となるたんぱく質の働きをONにしたりOFFにしたりしている。

プロテアーゼが膜の中に?

長年、プロテアーゼは小さな可溶性の酵素であると見られていた。その理由は主として、消化に使われるプロテアーゼが、豊富にあって研究しやすかったことによる。ところが現在では、小さくて安定した消化酵素から要らなくなった細胞内のたんぱく質を除去する巨大な プロテアソーム (proteasome)まで様々な形や大きさのものがあることが知られている。そしてここ10年程度の間に全く新しい型のプロテアーゼが発見されてきている。それは膜の中で他の膜たんぱく質を切断するプロテアーゼである。

ロンボイドプロテアーゼ

最初の膜内セリンプロテアーゼ(intramembrane serine protease)は変異体ショウジョウバエから発見され、その奇妙な形をした頭から「ロンボイド」(rhomboid、偏菱形、長斜方形、隣接辺・隣接角が等しくない平行四辺形のこと)と名付けられた。このプロテアーゼは頭の形を制御する成長受容体を調節しているので、ショウジョウバエの変異体にちなみ現在ではロンボイドプロテアーゼ(rhomboid protease)と呼ばれている。皮肉にも、このプロテアーゼ自身も見る角度によっては菱形に近い形で、細胞膜内に浮かんでいる。ここに示したのは細菌のロンボイドプロテアーゼ「GlpG」で、PDBエントリー 2ic82irv2nrf などで見ることができる(ここに示したのは 2nrf )。

活性部位の機構

左:細菌由来のサイト2(site-2)ファミリープロテアーゼ(PDB:3b4r)、右:フラジェリン前駆体ペプチド分解酵素FlaK(PDB:3s0x)

別の型の膜内プロテアーゼも発見されているが、これらは可溶性プロテアーゼでよく見られる触媒機構を多く用いる。ロンボイドプロテアーゼは、セリン(serine)とヒスチジン(histidine)から成る一組の高反応性アミノ酸を使う。これは トリプシン (trypsin)やキモトリプシン(chymotrypsin)のようなセリンプロテアーゼの活性部位と似ている。ここに示した細菌由来のプロテアーゼ(PDBエントリー 3b4r )のようなサイト2(site-2)ファミリーのプロテアーゼは亜鉛イオン(zinc ion)を使うが、これはカルボキシペプチダーゼ(carboxypeptidase)のような可溶性の金属たんぱく質分解酵素(metalloproteinase)に似ている。更に、上図右に示した「フラジェリン前駆体ペプチド分解酵素FlaK」(preflagellin peptidase FlaK、PDBエントリー 3s0x )や、アルツハイマー病の発達に重要な役割を果たす巨大なペプチド分解酵素複合体「γセクレターゼ」(gamma-secretase)のような酸プロテアーゼも膜内に見つかっている。

構造をみる

ロンボイドプロテアーゼGlpG(左:閉じた構造 PDB:2ic8、中央:開いた構造 PDB:2nrf、右:閉じた構造で阻害剤が結合したもの PDB:2xow)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

膜内プロテアーゼは扱いが難しい仕事を行っている。この酵素は疎水的な膜内で無理なく存在できる必要がある一方、水や水と結合するアミノ酸を使って反応を行う必要もある。この相反する要求は、活性部位を覆う柔軟な環状領域を持ち、対象分子と水の両方に接近することができるようにすることで実現している。3つの構造によってこの柔軟性についてある程度の部分が明らかになった。但し、膜たんぱく質の研究には膜外にあるたんぱく質を安定化させる人工的な方法を使う必要があるため、まだ議論のある点が多く残っている。上図左(PDBエントリー 2ic8 )はきちっと閉じた構造、中央( 2nrf )は大きく開いた構造である。また上図右( 2xow )は阻害剤を取り囲んで閉じた構造を示している。なお、図の下のボタンをクリックすると、対話的操作のできる画像に切り替え、構造を比較することができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBエントリー 3b4r には同じたんぱく質が2つ含まれていて、一方は閉じた構造、もう一方は開いた構造になっています。 GASHRASH などを使えばこの2つの型を比較することができます。
  2. 膜たんぱく質の外側は通常疎水性のアミノ酸があって、これが周囲の膜と相互作用します。その様子をPDBjのjV/Jmolページで見る場合、ロンボイドプロテアーゼやその他の膜結合性たんぱく質の個別エントリーページで以下の操作を行って表示を変更するといいでしょう。
    jVページの場合
    jVページを開き、コマンドエリアで以下のコマンドを入力します。
    • (1) cartoon off
    • (2) select hydrophobic
    • (3) cpk
    • (4) color red
    • (5) select !hydrophobic
    • (6) cpk
    • (7) color blue
    Jmolページの場合
    Jmolページを開き、アプレットエリアを右クリックして表示されるメニューで以下の操作を行います
    • (1)[Style]-[Scheme]-[CPK Spacefill]
    • (2)[Select]-[Protein]-[Nonpolar Residues]
    • (3)[Color]-[Atoms]-[Red]
    • (4)[Select]-[Protein]-[Polar Residues]
    • (5)[Color]-[Atoms]-[Blue]

参考文献

ロンボイドプロテアーゼGlpG(PDB:2nrf)、灰色の帯は膜の位置を示す
  • Y. Ha 2009 Structure and mechanism of intramembrane protease. Seminars in CellDevelopmental Biology 20 240-250
  • M. Freeman 2008 Rhomboid proteases and their biological functions. Annual Review of Genetics 42 191-210
  • S. Urban and Y. Shi 2008 Core principles of intramembrane proteolysis: comparison of rhomboid and site-2 family proteases. Current Opinion in Structural Biology 18 432-441

代表的な構造

2ic8 : ロンボイドプロテアーゼGlpG
ロンボイドプロテアーゼは膜内のたんぱく質を切断する酵素で、このエントリーは細菌由来のロンボイドプロテアーゼGlpGの閉じた構造を含んでいる。
2nrf : ロンボイドプロテアーゼGlpG
ロンボイドプロテアーゼは膜内のたんぱく質を切断する酵素で、このエントリーは細菌由来のロンボイドプロテアーゼGlpGの開いた構造を含んでいる。
3b4r : Site-2 Protease
サイト2 プロテアーゼは膜内のたんぱく質を切断する金属たんぱく質分解酵素である。この構造には2分子の酵素が含まれていて、一方は開いた構造を、もう一方は閉じた構造を取っている。



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