137: シトクロムbc1 (Cytochrome bc1)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2011年5月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ニワトリのミトコンドリア由来のシトクロムbc 1 (PDB:3h1j)

細胞は食物の一粒一粒からエネルギーをしぼり取る名人である。その過程において、食物分子を原子一つずつバラバラにし、様々な珍しいエネルギー変換過程を進める。そして最後には、全ての水素原子が食物分子から分離され、それが ATP合成酵素 (atp Synthase)の回転モーターを回すのに用いられる。これを実行するに当たって、水素原子から電子が引きはがされ、この電子によって、膜を超えてプロトン(proton、水素イオン)を輸送する巨大なたんぱく質のポンプに動力が供給されている。このプロトンは、ATP合成酵素が回転する動力を供給して本来の位置に戻る。

プロトンの汲み入れ

シトクロムbc 1 (cytochrome bc 1 )はこのプロトンを輸送する過程において中心的な存在となるポンプである。これはミトコンドリアの膜で見られる水素原子輸送体「ユビキノール」(ubiquinol)と結合して、2つのプロトンと2つの電子を取り除く。取り出したプロトンは膜の内側に放出され、ATP合成酵素によって使われる。一方電子は2つそれぞれ別の経路をたどる。一方の電子は膜の内側にある シトクロムc (cytochrome c)へと至る大変望ましい経路を進み、もう一方の電子は前者ほど望ましくはない膜の外側に至る経路を進む。そして膜の外側までやってきた電子は、すでに水素原子を失った別のユビキノール分子に出会い、膜の外からプロトンを取り込むのを助ける。この一連の過程全体でQサイクル(Q-cycle) と呼ばれるサイクルを形成しており、ユビキノール分子を使って膜の内側へとプロトンを取り出す過程と、膜の外側から内側へとプロトンを取り込む過程、いずれも電子の流れによって推進されている。

補因子複合体

シトクロムbc 1 は2量体たんぱく質である。各サブユニットは約11本のたんぱく質鎖、および数個のヘム(heme)や1つの鉄硫黄クラスター(iron-sulfur cluster)を含む一群の補因子複合体で構成されている。いくつかの型での構造がこれまでに決定されている。そのうちの一つ、ニワトリのミトコンドリアから得られたものをここに示す(PDBエントリー 3h1j )。この構造によって補因子の位置と2つの電子がたどる経路が明らかになった。鉄硫黄クラスターをとらえるたんぱく質の珍しい動きなど、複合体の詳細についてはまだ明らかでない部分もたくさんあり、反応全体がどのようにして行われているのかをサイクルを短絡することなく明らかにするための研究が続けられている。

光合成への動力供給

シトクロムb6f(PDB:1vf5)

植物細胞は、電子で推進されるプロトンポンプに似たものを、光合成におけるATP合成酵素への動力供給に使っている。プロトンをユビキノールと似た水素原子輸送体「プラストキノール」(plastoquinol)の上へ配置するのに光エネルギーが使われる。ここに示すシトクロムb6f(PDBエントリー 1vf5 )は、Qサイクルと似たサイクル経路でこの水素原子を使い、葉緑体の膜を越えてプロトンを輸送する。なおこちらの場合、電子の最終的な行き先はシトクロムcではなく、プラストシアニン(plastocyanin)になる。

構造をみる

ウシのシトクロムbc 1 にユビキノールが結合したもの(PDB:1ntz)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。画像右上の×をクリックすると元の静止画像に戻ることができます。

シトクロムbc 1 の構造によって、電子の移動経路、ユビキノールへの結合部位、そしてもう一つ驚くべきことが明らかになった。シトクロムcに至る経路は鉄硫黄クラスターとヘムを経由していて、これらを経由した後にシトクロムcへと電子が渡される。最初に明らかになった構造から、鉄硫黄クラスターをつかんでいるたんぱく質鎖が行ったり来たりしていることが示された。まずユビキノールの反対側へと上がって電子を取り出し、次に経路を下って電子をヘムに渡す。この動きを見てみるには、上図下のボタンをクリックして、対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. シトクロムbc 1 のユビキノール結合部位に結合する薬が多く発見されています。このような事例をPDBで見つけ、薬分子とユビキノールがどのように似ているのかを調べてみて下さい。
  2. シトクロムb6fは、電子の輸送とプロトンの輸送とをむすびつける機構と似たものを用いています。シトクロムb6f複合体とシトクロムbc 1 複合体を比較し、シトクロムb6fにはいくつか追加の補因子が含まれていることに注目して下さい。これらの追加補因子が何をしているのかについては現在研究されているところですが、何か考えはありますか?

参考文献

ニワトリのミトコンドリア由来のシトクロムbc 1 (PDB:3h1j)
  • A. R. Crofts 2004 The cytochrome bc1 complex: function in the context of structures. Annual Review of Physiology 66 689-733
  • J. L. Cape, M. K. Bowman and D. M. Kramer 2006 Understanding the cytochrome bc complexes by what they don't do. The Q-cycle at 30. Trends in Plant Science 11 46-55
  • D. Baniulis, E. Yamashita, H. Zhang, S. S. Hasan and W. A. Cramer 2008 Structure-function of the cytochrome b6f complex. Photochemistry and Photobiology 84 1349-1358



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