135: インテグラーゼ (Integrase)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2011年3月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
インテグラーゼ(PDB:3os1)

HIVのようなレトロウイルス(retrovirus)は特にたちが悪い。ほとんどのウイルスは細胞に感染すると、新たなウイルスのコピーを多数作らせ、細胞を使い尽くすと細胞から出て行く。一方、レトロウイルスは感染するのに長期間に渡る方法を使う。レトロウイルスはは細胞に入り込むとまず、ウイルス自身のゲノムDNAのコピーを作る。そして、そのウイルスゲノムを宿主細胞自身のDNAの中へ挿入する。この統合されたDNAはすぐにウイルスを作るのに使うこともできるし、休眠状態で待機しウイルス増殖を開始するのに最適な時を待つこともできる。これがHIVとの闘いを困難にしている数々ある理由の一つである。レトロウイルスは、長く生きながらえる細胞の中で、何年にも渡って留まり待ち続けることができるのである。

DNAの統合

インテグラーゼはウイルスDNAを細胞染色体につなぎ合わせる酵素である。4つの同じインテグラーゼがウイルスDNAの両端をつかみ、インタソーム(intasome)と呼ばれる安定な複合体を作る。このインタソームは次に細胞DNAに結合して、鎖転移反応を行ない、ウイルスDNAを細胞DNAに組み入れる。右図に示す構造(PDBエントリー 3os1 )には4つのインテグラーゼサブユニット(水色・青)、および2本のウイルスDNA末端(赤)と細胞DNA(橙)に相当する3つの短いDNA断片が含まれる。中央にある2つのインテグラーゼサブユニット(水色)はDNAを切断して組み入れる活性部位を提供し、外側にある2つのサブユニット(濃青)は構造的な役割を果たす。

HIVに対抗する薬

HIVのインテグラーゼは長年にわたって研究が続けられ、どのようして働いているのかを理解して、AIDSに対抗する薬を設計できるようにする試みが続けられてきた。この研究はいくつかの効果的な薬剤の開発につながり、そのようにして開発された薬の一つラルテグラビル(raltegravir)は現在HIV感染の治療に用いられている。今までのところ、HIVインテグラーゼ全体とDNAが結合した複合体を結晶化するのは難しいことが分かっている。ここに示した構造は、類縁関連にあるレトロウイルスの一つプロトタイプフォーミーウイルス(prototype foamy virus、PFV)から得られたものである。PFVは無害だが、PFVのインテグラーゼはHIVのインテグラーゼと非常に良く似ており、レトロウイルスのDNA組み込み動作を研究するのに当たって非常に良いモデルとなる。

構造をみる

インタソームとDNAの複合体(インタソームがDNAを捕らえた直後 PDB:3os1 と鎖転移反応後 PDB:3os0)
マグネシウムイオン、ラルテグラビルが活性部位に結合したインテグラーゼの活性部位付近

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

PFVインテグラーゼがDNAと結合した構造によって統合反応における重要な段階が明らかになった。ここには2つの対話的操作のできる画像を示しており、それぞれ異なる視点から見た構造となっている。左の画像では2つの構造を示しており、インタソームが対象DNAをとらえた直後の複合体(PDBエントリー 3os1 )と鎖転移反応後の複合体(PDBエントリー 3os0 )を見比べることができる。一方右の画像は、2つのマグネシウムイオン(緑)が結合した薬剤のラルテグラビル(赤紫)が活性部位に結合した様子を拡大表示したもの(PDBエントリー 3oya )である。この構造によって、ラルテグラビルのような阻害剤は活性部位に結合し、DNA鎖の一方の端を本来の場所からずらすことが明らかになった。

理解を深めるためのトピックス

  1. 構造比較ツールを使うと、PFVインテグラーゼの構造と異なるドメインを持つHIVインテグラーゼの構造とを比較することができます。
  2. PFVおよびHIVのインテグラーゼに何種類かの阻害剤が結合した構造がPDBには登録されています。Ligand Explorer(非対称単位を閲覧することができる)を使うと阻害剤とインテグラーゼの活性部位との相互作用を見ることができます。

参考文献

インテグラーゼ(PDB:3os1)
  • G. N. Maertens, S. Hare and P. Cherepanov 2010 The mechanism of retrovirual integration from X-ray structures of its key intermediates. Nature 468 326-329
  • S. Hare, A. M. Vos, R. F. Clayton, J. W. Thuring, M. D. Cummings and P. Cherepanov 2010 Molecular mechanisms of retroviral integrase inhibition and the evolution of viral resistance. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 107 20057-20062
  • M. Jackolski, J. N. Alexandratos, G. Bujacz and A. Wlodawer 2009 Piecing together the structure or retroviral integrase, and important target in AIDS therapy. FEBS Journal 276 2926-2946



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading