132: アデノウイルス (Adenovirus)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2010年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
アデノウイルス

ウイルスは我々の健康にとっても最も危険な外敵の一つであり、細胞を攻撃してエイズ(AIDS)やインフルエンザ(influenza)のように致死的な病気を引き起こすものである。しかし科学者たちは現在、ウイルスをだまして、我々に病気を引き起こす代わりに我々の健康を改善させるよう仕向ける方法を発見しつつある。アデノウイルス(adenovirus)はこのような仕事に使われるウイルスの一つである。このウイルスは世界中で見られるが、細胞に感染しても通常はそれほどひどい病気にはならない。但し、幼児や免疫機構が弱っている人々には生命を脅かす事態を引き起こす可能性がある。これを改良し、遺伝病治療、抗がん治療、あるいはワクチンを輸送することを目的に、改造型ウイルス開発が行われている。

アデノウイルスのカプシド

カプシドの構造が最近になってクライオ電子顕微鏡(cryo-electron microscopy、極低温電子顕微鏡、PDBエントリー 3iyn )やX線結晶解析(X-ray crystallography、PDBエントリー 1vsz )によって解かれた。カプシドは正二十面体型をしており、面は全部で240個のヘキソン(hexon)と呼ばれる同一のたんぱく質3個でできた複合体で構成されている。二十面体の各頂点12個にはそれぞれペントン(penton)と呼ばれるたんぱく質複合体があり、各ペントンは5個のたんぱく質鎖で構成されている。各頂点からは、先端に丸い塊状の構造を持つ長い突起(fiber)が外側へ伸びていて、それぞれ3本の鎖で構成されている。加えて、少数のたんぱく質数種類が溝の中でヘキソンとペントンをつなげ、カプシドの集合を誘導して、全体の集合体構造を構築している。

細胞への攻撃

アデノウイルスカプシドは、細胞を見つけて細胞内にウイルス遺伝子を届ける仕事を担っていて、その活動の多くは頂点部分で行われる。長い突起は細胞表面上の決まった種類の受容体と選択的に結びつく。もっともよく対象とされる受容体はCARで、この受容体はほとんどの細胞で見られるが機能はまだ分かっていないたんぱく質である。また他の種類のアデノウイルスでは補体系の調節たんぱく質であるCD46受容体を利用している。ウイルスが細胞表面に付着すると、通常のエンドサイトーシス(endocytosis、飲食作用)過程によってウイルスは小胞へと取り込まれる。そして、ペントンがインテグリン(integrin)へ接着し、最終的には小胞膜(vesicle membrane)が破壊されて、ウイルスDNAが放出される。その後、ウイルスDNAは核へ侵入し、何千もの新しいウイルスが作られる。

人工アデノウイルス

アデノウイルスの断面

人工アデノウイルスが細胞へ遺伝子を輸送するために開発されていて、この発想には大きな期待が寄せられている。たとえば、正常に機能するCFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane conductance Regulator、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)の遺伝子を嚢胞性線維症の患者に導入して欠陥のある遺伝子と置き換えれば、機能を修復できるかもしれない。しかしながら、実際の生物に適用するとなると様々な困難に行き当たるのが常で、この開発に際し多くの課題に直面してきた。初期の研究では、1つのウイルス遺伝子を治療用遺伝子と置き換えていた。この人為的に作った遺伝子組み換えウイルスは細胞に感染して遺伝子を送り込むが複製できないので、こちらで感染を制御することができる。ただ、それら人工ウイルスに感染した細胞は、免疫機構によって瞬く間に発見され、数時間のうちに破壊されてしまう。これは、がんの治療やワクチンの輸送に使う分には問題ない。人工ウイルスが細胞に侵入し、仕事をし、仕事が終わって取り除かれるだけのことである。しかし、長期間継続して行われる遺伝子治療に対しては、より永続的な方法が必要であり、現在多くの新しい方法の探索が続けられている。

構造をみる

細胞受容体と結合したアデノウイルス(右:CARとの複合体 PDB:1kac、左:CD46との複合体 PDB:2o39)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

アデノウイルス表面突起の先端はコブ状の形をしていて、これが細胞受容体に結合する。アデノウイルスとその細胞受容体の構造がいくつか解かれており、これにはコブにCAR受容体を伴った複合体(PDBエントリー 1kac )やCD46受容体を伴った複合体(PDBエントリー 2o39 )が含まれる。どちらの場合においても、3つの受容体たんぱく質が突起の各サブユニット間にある溝で結合している。なお上図下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替え、相互関係をより詳しく見てみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 他にもアデノウイルスたんぱく質の情報をいくつかPDBで見ることができます。ウイルスのライフサイクルではそれらは何の働きをしているでしょうか?
  2. カプシド全体の構造が明らかになるより前に、精製されたヘクソンとペントンの結晶構造が解かれました。それらをPDBで見つけることができますか? なお、精製されたペントンの大きさは他よりも小さいことに注目してください。

参考文献

アデノウイルス
  • J. J. Rux and R. M. Burnett 2004 Adenovirus structure. Human Gene Therapy 15 1167-1176
  • W. Wu and G. R. Nemerow 2004 Virus yoga: the role of flexibility in virus host cell recognition. Trends in Microbiology 12 162-169
  • M. A. F. V. Goncalves and A. A. F. deVries 2006 Adenovirus: from foe to friend. Review of Medical Virology 16 167-186
  • L. S. Young, P. F. Searle, D. Onion and V. Mautner 2006 Viral gene therapy strageies: from basic science to clinical application. Journal of Pathology 208 299-318



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