124: コンカナバリンAと循環置換 (Concanavalin A and Circular Permutation)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2010年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
コンカナバリンA(PDB:1cvn)

進化は素晴らしいいじくり回し屋である。一旦うまく行く計画を見つけると何度も使い回し、それによって多くの変更と改善を行うことがよくある。この現象は身近な生物で簡単に見ることができる。ほとんどの哺乳類は4つの脚を持っているが、これはあらゆる種類の手足、更には水かき、翼にまでも進化してきた。またほとんどの植物は葉で覆われているが、これはとがった針葉から巨大なジャングルの葉状体まで多様な形態へと進化してきた。たんぱく質の配列と構造においても、変化を通して生み出された同様の多様性が見られる。たんぱく質は個々のアミノ酸がゆっくりと変異することによって進化するが、より大きな断片規模での変化によっても進化する。進化に成功したたんぱく質の遺伝子は切り出され、新たな組み合わせの中で再構築される。

環状の理由

循環置換(circular permutation)はたんぱく質進化において最も珍しい変化の一つである。循環置換という名前が何に由来するかを理解するため、鎖の両端が互いに接近している折りたたまれたたんぱく質を想像してみよう。そして今、この両端が化学的に結合したとしよう。すると端のない環状のたんぱく質鎖ができあがる。次に、異なる場所で環状鎖を切断する。こうしてできたたんぱく質は、末端の場所が異なることを除けば元と同じ折りたたまれたたんぱく質となる。

順序が変わったたんぱく質

この現象はまさにコンカナバリンA(concanavalin A)というたんぱく質で起こっている。これは炭水化物に結合するたんぱく質で、ここに示すのはPDBエントリー 1cvn のタチナタマメ由来のものである。このたんぱく質のアミノ酸配列が1970年代に決定された時(この時は遺伝子を見て決定したのではなく、実際にたんぱく質のアミノ酸配列を見て決定された)、ソラマメ由来のたんぱく質であるファビン(favin)と似た配列を持っていることが分かった。しかし配列の順序が入れ替わっていて、まるでたんぱく質鎖が真ん中で切断され2つの半分ずつが交換されたようになっていた。細胞内で更に研究が進められた結果、コンカナバリンAはファビンと似た過程で合成されるが、前駆体に下図の(PDBエントリー 3cna )ような循環置換が加えられることが明らかになった。リボソームで作られた前駆体たんぱく質は余分な尾部と環状領域(点線部分)を持っている。この環状領域が切断されて新たな鎖の末端となり、元々の末端はつなぎ合わされて新たな環状領域となって成熟型が作られる。

コンカナバリンA(左:前駆体、右:成熟型)PDB:3cna

遺伝子での順序入れ替え

循環置換がコンカナバリンAで発見されてから、他にも数々の事例が見つかってきた。ところが多くの場合はゲノム中で起きた循環置換で、より面倒な実際のたんぱく質を切り貼りして起きたものではない。ゲノムの場合、遺伝子の前部が末端部へと移される遺伝子再編成が起きる。移動部分の大きさは様々で、末端にあるらせん1つだけが動く場合(例:PDBエントリー 1ui91h0r )もあれば、ドメイン全体が入れ替わる場合もある。また次項で述べるように、科学者が人為的に循環置換を起こさせている場合もある。

意図的に入れ替える(Permutation on Purpose)

野生型および循環置換を加えたグルカナーゼ(PDB:2ayh、1ajk、1ajo、1cpm)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。画像右上の×をクリックすると元の静止画像に戻ることができます。

科学者もまた素晴らしいいじくり屋である。循環置換の過程を発見するとすぐに、自分自身でも試さずにはいられなかった。ここに示すグルカナーゼ(glucanase、PDBエントリー 2ayh1ajk1ajo1cpm )たんぱく質は、遺伝子を異なる場所で切断して入れ替えることによりそれぞれ異なった置換が行われている。この図ではそれぞれのたんぱく質鎖の一方の端を青、他方の端を赤の色で表示し、その間は虹色で塗り分けている。たんぱく質の折りたたみ構造全体がいずれも同じで、末端位置だけが異なることに注目して欲しい。このことは、たんぱく質の立体構造を形成する過程は頑丈であり、多少配列が入れ替わろうとも配列によって決まることを示している。

構造をみる

コンカナバリンA(左、PDB:3cna)と落花生のレクチン(右、PDB:2pel)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。画像右上の×をクリックすると元の静止画像に戻ることができます。

循環置換はコンカナバリンA(PDBエントリー 3cna )と別のレクチン(例:落花生のレクチン PDBエントリー 2pel )とのアミノ酸配列比較によって初めて発見された。後になって構造が解かれた時、予想されたように、鎖で循環置換が起こっているにも関わらず非常によく似た立体構造を示した。PDBjの GASHRASH やRCSBの Compare Structures を使って、今回の記事に登場するPDBエントリーの立体構造比較を行うことができる。これらのツールを使ってみると、循環置換されたたんぱく質の処理には少々混乱を来たし、鎖の一部分だけを重ねて比較処理を終えていることが分かるだろう。だが幸いこれらのツールはコンカナバリンAと落花生のレクチンのように似た折りたたみ構造を持つたんぱく質の比較では十分機能する。

理解を深めるためのトピックス

  1. 循環置換された他のたんぱく質の事例をPDBで見つけることができますか。なお、この探索において CPDBSISYPHUS が助けになるでしょう。
  2. 循環置換がたんぱく質の機能を向上させるのにどのような方法が考えられるでしょうか?

参考文献

コンカナバリンA(PDB:1cvn)
  • U. Heinemann and M. Hahn 1995 Circular permutation of polypeptide chains: implications for protein folding and stability. Progress in Biophysics and Molecular Biology 64 121-143
  • D. J. Bowles and D. J. Pappin 1988 Traffic and assembly of concanavalin A. Trends in Biochemical Sciences 13 60-64
  • B. A. Cunningham, J. J. Hemperly, T. P. Hopp and G. M. Edelman 1979 Favin versus concanavalin A: circularly permuted amino acid sequences. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 76 3218-3222



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