121: 70Sリボソーム (70S Ribosomes)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2010年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
70Sリボソーム(PDB:2wdk、2wdl)

リボソーム(ribosome)は細胞世界における不思議の一つであり、PDBにで探索できる様々な不思議のうちの一つでもある。2000年、構造生物学者のヴェンカトラマン・ラマクリシュナン(Venkatraman Ramakrishnan)、トーマス・A・スタイツ(Thomas A. Steitz)、エイダ・E・ヨナス(Ada E. Yonath)はPDBで利用できる最初の リボソームのサブユニット (ribosomal subunits)の構造を解き、2009年彼らはこの功績によって ノーベル化学賞 を受賞した。 転移RNA (transfer RNA)や 伸長因子 (elongation Factor)を含むたんぱく質合成に関わる他の分子についても、その多くの構造がPDBに登録されていて、これらの構造に基づき、現在では何百種類もの完全なリボソームの構造がPDBで利用できるようになっている。これからたんぱく質合成に関する多くの重要な段階の原子レベルでの詳細が明らかになった。

活動中のリボソーム

リボソームの大小サブユニットそれぞれの構造が解かれると、リボソーム構造研究は全体の構造を決定することが次なる課題となった。この仕事はここ数十年の研究の中で最も際だったものであるが、最初は電子顕微鏡(electron microscopy)によるぼんやりした画像を得ることから始まった。その後極低温電子顕微鏡(cryoelectron microscopy)によるより詳細な構造の再構築が続けられ、現在では原子レベルでの構造が多数得られるようになっている。mRNA(伝令RNA)の小さな断片、短くしたり化学修飾を行ったりした様々な型のtRNA(転移RNA)、精製されたたんぱく質因子、そして修飾されたリボソームといったものを使って、たんぱく質合成中のリボソームの構造が解かれてきた。その構造は非常に大きいので、1つのPDBファイルには収まらない。例えばここに示した構造は PDBエントリー 2wdk2wdl に分割されている。

70Sリボソーム

地球上に生息するあらゆる生物のリボソームは、大小2種類の大きさのものでできている。細菌(bacteria)や古細菌(archaea)は我々のものよりも小さなリボソームを持っている。70Sリボソーム(70s Ribosome)と呼ばれ、小さい方の30Sサブユニットと大きい方の50Sサブユニットで構成されている。「S」は分子が遠心によってどれだけ速く動くかを測定するのに使われる単位「スベドベリ単位」(Svedberg unit)に由来している。個々のサブユニットの値を合計したものがリボソーム全体の値になっていないことに注意して欲しい。こうなるのは、沈降速度は分子量や分子の形と複雑に関係してくるからである。私たち人類やその他の動物、植物、菌類などの細胞にあるリボソームは細菌や古細菌のものより大きく、「80Sリボソーム」と呼ばれている。こちらは、小さい方の40Sサブユニットと大きい方の60Sサブユニットで構成されている。奇妙なことに、我々の細胞にあるミトコンドリア(mitochondria)は細胞本体が持つものより小さい70Sリボソームを持っていて、細胞質にあるものとは別々に作られる。このことからミトコンドリアは、実際には真核細胞が進化する初期段階において細胞内に取り込まれた細菌であるという仮説が成り立つ(これは植物細胞で見られる葉緑体 chloroplastについても言える)。現在、ミトコンドリアは細胞内で楽しく暮らし増殖している。そこでエネルギーの産生に専念しつつ、他の必要なものはほとんど周囲を取り囲んでいる細胞に依存している。

基本事項

初期に解かれた構造によってリボソームの動作に関する多くの基本的なことが明らかになった。その中でリボソームは反応にたんぱく質ではなくRNAを使うリボザイム(ribozyme)であることが示されたが、これは生命進化の初期段階においてRNAは中心的な存在であったという考えを支持するものである。またリボソームに含まれるRNAの構造安定化と固定化に関わるリボソームたんぱく質の重要性も明らかになった。しかし新たな構造が明らかになることで、遺伝子情報の読み出しとペプチド合成に関する原子レベルでの詳細な研究が始められるようになった。たんぱく質合成は3つの主要段階〜翻訳開始(initiation)、伸長(elongation)、終結(termination)〜によって行われるが、それぞれの段階での構造を見ることができる。

翻訳開始

シャイン・ダルガノ配列と結合したリボソーム(PDB:2qnh、1vsp)

リボソームは開始(initiation)と呼ばれる過程から翻訳作業を始める。いくつかの開始因子たんぱく質(initiation factor protein)が mRNA をリボソームの小サブユニットのところまで持ってきて、そこに最初の tRNA を準備し、関連する大サブユニットを導く。ここに示した構造(PDBエントリー 2qnh1vsp )は、mRNAに特別な配列を含んでいて、それが小サブユニットにあるRNA鎖の末端部と結合する。この特別な配列は発見者に因んで「シャイン・ダルガノ配列」(Shine-Delgarno sequence)と呼ばれている。この配列は mRNA を正しい場所に配置し、特別な開始コドン tRNA と対合する準備を整える。なおこの図では、小さな mRNA の断片が赤で、tRNA が黄色で示されている。

mRNA、tRNA およびたんぱく質因子は全てリボソームの両サブユニットにはさまれた内部に結合している。そのため、何が起こっているのかを図示するには細工が必要となる。上図ではリボソームを淡く表示して mRNA、tRNA およびその他の分子が複合体全体の中でどこに位置するのかが分かるようにしている。

伸長

たんぱく質伸長作業中の70Sリボソーム(左:EF-Tu たんぱく質が新しいtRNAを持ってきたところ PDB:2wrn,2wro 中央:3つのtRNAが結合している様子 PDB:2wdk,2wdl 右:EF-Gたんぱく質の助けによって全体が一歩前進するところ PDB:2wri,2wrj)

リボソームは準備ができると、mRNA鎖に沿って遺伝情報を読み始め、アミノ酸を一度に一個ずつ付け足してたんぱく質を作っていく。上図左の構造(PDBエントリー 2wrn2wro )には、EF-Tu たんぱく質(赤紫色)によって持ってこられた新しい tRNA が示されている。上図中央の構造(PDBエントリー 2wdk2wdl )では、リボソームの内部に3つの tRNA 分子が結合している。左(A部位)の tRNA はこれから追加するアミノ酸を持っている。中央(P部位)の tRNA は伸長中のたんぱく質鎖をつかんでいる。そして右(E部位)の tRNA は仕事を終えてリボソームから排出される準備が整った状態にある。たんぱく質鎖が中央の tRNA から A部位の tRNA へと運搬された後は、EF-Gたんぱく質が全体を一歩前へと進めるのを助ける。その様子が上図右(PDBエントリー 2wri2wrj )の構造に示されている。

終止

終止因子が結合した70Sリボソーム

リボソームは、遺伝子の末端でたんぱく質合成の終了を告げる終止コドン(stop codon)と出会う。終止因子たんぱく質(release factor protein)は終止コドンを認識し、リボソームをできあがったたんぱく質から引き離す。上図の構造(PDBエントリー 2b642b66 )は終止因子の一つがA部位でmRNAに結合している様子が示されている。なお構造は低い分解能で解かれているので、終止因子たんぱく質とmRNAのおおよその座標しか得られていない。

抗生物質

左:tRNAの結合を阻害するテトラサイクリンが結合した70Sリボソーム(PDB:1hnw)、右:たんぱく質鎖がリボソームから出るのを阻害するエリスロマイシンが結合した70Sリボソーム(PDB:1yi2)

リボソームは生命に欠かせないものであるため、抗生物質薬(antibiotic drug)にとって魅力的な標的となる。もちろん我々自身のリボソームを攻撃しないよう注意する必要がある。さもないと、感染と共に我々自身も殺してしまうことになってしまうだろう。幸い、細菌のリボソームは我々のものとは細かな違いがいくつもあり、70Sリボソームだけを攻撃する多くの抗生物質薬が作られている。PDBにもそのような事例が多数登録されているが、ここではそのうちの2つを紹介する。左に示した構造(PDBエントリー 1hnw )ではテトラサイクリン(tetracycline、赤色の分子)が小サブユニットに結合して、そこにtRNAが結合するのを妨げている。右に示した構造(PDBエントリー 1yi2 )では、伸長中のたんぱく質鎖がリボソームの活性部位から出るトンネルをエリスロマイシン(erythromycin、赤色で示した分子)が阻害している。

構造をみる

70Sリボソームの遺伝子暗号解読中心(PDB:2wdg)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。画像右上の×をクリックすると元の静止画像に戻ることができます。

新たに解かれた不活性な70Sリボソームの構造によって生命の秘密が明らかになった。上図(PDBエントリー 2wdg )はリボソームの遺伝子暗号解読中心(decoding center)を拡大したものである。ここは新たにやってくるtRNAアンチコドン(黄色で示した部分)がmRNAコドン(赤色で示した部分)と対合する場所である。ご想像の通り、この対合は完全に適合したもの同士で行われなければならないが、それによって適切なtRNAだけが組となって正しいアミノ酸が伸長中の鎖へ追加される。リボソームは、コドンとアンチコドンが適合するかを試すのにいくつかの相互作用を利用し、塩基対の正確さをより確かなものにする。この相互作用を拡大して見るには、上図下にあるボタンをクリックして対話的操作のできる図へ表示を切り替えてほしい。

理解を深めるためのトピックス

  1. リボソームは2つのサブユニットがmRNAの周りに集まることで、機能する複合体が形成されます。このような方法をとることの利点は何でしょうか? またRNA鎖やDNA鎖の周りを取り囲む分子の事例を他に見つけることができますか?
  2. リボソームは研究において取り組み甲斐のある分子です。PDBにおいてリボソームを探す際、構造を解くのに使われている手段が異なるものを比較してみて下さい。手段には、原子レベルあるいはそれに近い分解能を持つ結晶学的方法によるものや、より低い分解能の電子顕微鏡によるものがあります。

参考文献

70Sリボソーム(PDB:2wdk、2wdl)
  • A. Korostelev and H. F. Noler 2007 The ribosome in focus: new structures bring new insights. Trends in Biochemical Sciences 32 434-441
  • T. A. Steitz 2008 A structural understanding of the dynamic ribosome machine. Nature Reviews Molecular Cell Biology 9 242-253
  • T. M. Schmeing and V. Ramakrishnan 2009 What recent ribosome structures have revealed about the mechanism of translation. Nature 461 1234-1242
  • E. Zimmerman and A. Yonath 2009 Biological implications of the ribosome's stunning stereochemistry. ChemBioChem 10 63-72



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading