114: ヴォールト (Vaults)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2009年6月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ヴォールト(PDB:2zuo,2zv4,2zv5) 右は断面図

我々の細胞は小区画で満たされており、それぞれが個別の機能を行っている。中にはミトコンドリア(mitochondria)やリソソーム(lysosome)のように非常に大きく、様々な分子機械を取り囲んでいる区画もある。また、細胞内でたんぱく質を輸送する輸送小胞(transport vesicle)のようによりサイズの小さい細胞内の区画もある。ミトコンドリア、リソソーム、輸送小胞を含むほとんどの区画は膜によって取り囲まれている。ところが細胞は、特殊な場合にたんぱく質の殻で囲まれた更に小さな区画を作る。我々の細胞の中にあるヴォールト(vault)はたんぱく質に囲まれた区画の見事な例の一つである。

対称的な殻

ヴォールトは主要ヴォールトたんぱく質(major vault protein)のコピーがたくさん集まってできており、フットボール型をした中空の殻を形成している。ここに示したのはネズミ(ラット)の肝臓細胞から得られたもの(PDBエントリー 2zuo2zv42zv5 )で、78個のたんぱく質のコピーでできている。ヴォールトは細胞内ではいくつか他の分子も内部に閉じこめているが、結晶構造では見えていない。なぜならそれらの分子はヴォールト内部で対称的な構造をとっていないからである。これらの内部に含まれる分子には、数個の小さなRNA分子、1個のRNAに結合したたんぱく質、1個のヌクレオチドをたんぱく質に付加する酵素が含まれる。

ヴォールトの謎

ヴォールトは今もなお大きな謎を提起している。研究者たちはヴォールトが何をしているのかを解明すべく奮闘してきた。ヴォールトは様々な種類の細胞で見られる(我々の持つ各細胞には約10万個ずつ含まれている)が、ショウジョウバエ(fruitfly)や酵母(yeast)などの生物には全く見られない。ヴォールトは細胞質(cytoplasm)でよく見られ、素早く細胞質内を輸送される。ところが、時には核(nucleus)の中でも見られる。また更に興味深いことに、核孔(nuclear pore)でも見つかっている。これらの発見は、他の数多くの発見とともに、ヴォールトが輸送に利用されていることを示唆している。ところが決定的な証拠はまだ見つかっていない。

細菌の小区画

左:エンカプスリン(PDB:3dkt) 右:カルボキシソーム(PDB:2qw7,3bn4)

細菌もたんぱく質に囲まれた区画を持っている。ここでは2つの例を挙げる。1つは左に示したエンカプスリン(encapsulin、PDBエントリー 3dkt )で、たんぱく質がウイルスのような殻を形成している。内側表面には抗酸化酵素(antioxidant enzyme)結合部位がある。この結晶構造には酵素に由来する短いペプチド(青色)が含まれ、これが内側表面に結合している。もう1つは右に示したPDBエントリー 2qw73bn4 から得られたもので、カルボキシソーム(carboxysome)と呼ばれるより大きなたんぱく質の殻の構築部材となっている。こちらは光合成細菌で見られ、中に2種類の炭素固定酵素を詰め込んでいる。二酸化炭素を作る酵素「 炭酸脱水酵素 」(carbonic Anhydrase)の隣に、二酸化炭素を固定して糖に変換する酵素「 ルビスコ 」(rubisco)を詰め込むことによって、速度の遅い炭素固定反応の効率を改善しているのである。

構造をみる

ヴォールト(PDB:2zuo,2zv4,2zv5)鎖1本を白で、それ以外を一端が赤でもう一方の端に向かって青に変わる配色で表示

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。画像右上の×をクリックすると元の静止画像に戻ることができます。

ヴォールトは78個の同じ鎖で構成される巨大で対称性のある構造体である。この図では、1本の鎖を白で、残りの鎖は一方の端が赤でもう一方の端に向かって青に変わる配色で示されている。たんぱく質の一部は折りたたまれて、中央に位置する幅が広い部分を形成する小さなドメインの連なりとなる。残りの部分は長いαらせんを形成し、集まって両端にある幅が狭まったふたになる。ヴォールトは非常に大きいので、3つのPDBエントリー(PDBエントリー 2zuo2zv42zv5 )に分けて座標が登録されている。そのためこの構造を見る方法に注意して欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. 主要ヴォールトたんぱく質のように、たくさんのたんぱく質は折りたたんで小さなドメインの繰り返しの連なりを形成します。PDBでそのような事例を他に見つけることができますか?
  2. 前述した 2つの細菌微小区画 と、ウイルスカプシド(virus capsid)との構造的類似点を見つけることができますか?

参考文献

ヴォールト(PDB:2zuo,2zv4,2zv5)

当記事を作成するに当たって参照した文献を以下に示します。

  • W. Berger, E. Steiner, M. Grusch, L. Elblingand M. Micksche 2009 Vaults and the major vault protein: novel roles in signal pathway regulation and immunity. Cellular and Molecular Life Sciences 66 43-61
  • S. Tanaka, C. A. Kerfeld, M. R. Sawaya, F. Cai, S. Heinhorst, G. C. Cannonand T. O. Yeates 2008 Atomic-level models of the bacterial carboxysome shell. Science , 319 1083-1086



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading