095: 多剤耐性輸送体 (Multidrug Resistance Transporters)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2007年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
Staphylococcus由来の多剤耐性輸送体 Sav1866(PDB:2onj)

ペニシリンが発見されて感染症の脅威はずっと小さくなった。発見から数十年のうちに、天然素材由来または化学合成によるさまざまな薬剤が単離され、医師たちに感染症に対抗する抗生物質の宝庫を与えてくれた。ところが、細菌は進化のはやい生物であり、抗生物質に対抗する多くの方法を開発してきた。一つの方法は、抗生物質薬剤を直接破壊するというものである。例えば、ある細菌は β-ラクタマーゼ酵素 を作りペニシリンを分解してしまう。また、細菌が自分自身の分子機構を変化させることにより、抗生物質を効かなくしてしまう方法もある。例えば、メチシリン(methicillin)抵抗性のブドウ球菌( Staphylococcus )は、抵抗性酵素を使って細胞壁を構築している。もしこのような方法が効かなくても、細菌はもっと一般的な方法も持っている。細菌は、抗生物質が効く前に細胞外へと排出してしまう特別なポンプを構築するのである。

薬剤ポンプ

多剤耐性輸送体は、細胞膜を超えて入って来ようとする薬剤を見つけ、外に排出する。ここに示したのはブドウ球菌( Staphylococcus )で発見されたSav1866(PDBエントリー 2onj )である。このたんぱく質は2つの同じサブユニットで構成され、その2つのサブユニットの間にトンネルを形成している。薬剤がトンネルに入ると、底にある大きな部分でATPが分解されて、切断する動きを引き起こし、トンネルの細胞外側が開いて、薬剤は放出される。この構造はこの反応の最後の段階をとらえたたんぱく質の構造であり、上方向となる細胞膜の外側に薬剤を放出する準備ができた状態を表している。

抵抗する細胞

我々はこれと非常に似た「P-糖たんぱく質」(P-glycoprotein)と呼ばれる分子を持っている。これは薬剤に似た分子を細胞の外に排出する働きを持っている。消化器系細胞の表面で見られ、食物に含まれる毒物から我々を守っている。また脳内血管の内側にも見られ、脳を二次的に保護している。このたんぱく質はブドウ球菌の輸送体と似た構造をしているが、こちらは2つのサブユニットで構成されるのではなく、長い1本のたんぱく質鎖で構成されている。シクロスポリンA(cyclosporin A)、ステロイド様ヒドロコルチソン(hydrocortisone)、そしてHIV感染の治療に使われるたんぱく質分解酵素阻害剤などさまざまな薬剤を輸送する働きを持っている。また、さまざまな抗がん剤も輸送するが、このことががん患者にとって深刻な問題となる。がん細胞は細菌と同じように変化や変異をし続け、もし輸送体を過剰発現させる方法を発達させてしまうと、化学療法に対して抵抗性を持ってしまう。

全ての形・大きさの輸送体

様々な多剤耐性輸送体(AcrA+AcrB+TolC(PDB:2f1m、1IWG、1EK9),EmrD(PDB:2gfp), and Sav1866(PDB:2onj))

細菌は、天然物質や抗生物質の治療から自分自身を守るためにさまざまな型の多剤耐性輸送体を発達させてきた。あるものは、Sav1866のようにATPで駆動する切断動作を用いる。これは、脂質やビタミンなどの他分子を、細胞膜を越えて輸送する輸送体に似ている。あるものはより単純で、大腸菌のEmrD(PDBエントリー 2gfp )のように水素イオン濃度勾配を使いたんぱく質を通過させる、小さな膜ポンプを作る。またあるものはもっと複雑で、AcrB輸送体(PDBエントリー 1iwg )は大腸菌の内膜から薬剤を排出して、TolC(PDBエントリー 1ek9 )が作った管に入れ、それから細胞の外膜を通して直接薬剤を排出する。ここで、AcrAたんぱく質(PDBエントリー 2f1m )は、AcrBとTolCをつなぐ輪を作って複合体全体を管の近くにつなげていると考えられている。

構造を見る

AcrB輸送体(左:全体図、右:断面図、PDB:2drd)

今のところ、AcrB輸送体は薬剤を細胞から排出する、あまり見られない循環機構を使っていると考えられている。AcrBは3つの同じサブユニットから構成されているとされていたが、最近解明された結晶構造によると、3つのサブユニットはそれぞれ少しずつ違っていることが分かった。ここに示したのはPDBエントリー 2drd のもので、抗生物質ミノサイクリンが1つのサブユニットに結合している。左の図はたんぱく質全体の主鎖を描いた図で、薬剤は緑で示している。この図を赤い線より下を切って、その切断面を見たものが右図である。右図には3つの結合部位が示されている。赤い1の印をした最初の部位には薬剤(緑色)が結合している。赤い2で示した2つ目の部位は、複合体の中央にある穴に向かって開いた新しい構造に変化している。赤い3で示した3つ目の部位は、膜(この図では示していない)に結合したまた別の構造をとっていて、ここに新たに薬剤が結合できる。この3つの構造を繰り返すことによって、輸送体は薬剤を膜の外に押し出して、排出するのである。

これよりもう少し前の段階を示した構造も見ることができるが、そちらでは3つのサブユニットが作る中央の穴の異なる場所に薬剤が結合している(PDBエントリー 1oy81oyd など)。こちらの構造は異なる機構を示しているようで、薬剤は細胞質から取り出され、その後膜を通じて排出される。

2007/10/30 にPDBで "multidrug transporter" のキーワードで検索した結果リストを開く

多剤耐性輸送体についてさらに知りたい方へ

多剤耐性輸送体

以下の参考文献もご参照下さい。

  • C. F. Higgins (2007) Multiple molecular mechanisms for multidrug resistance transporters. Nature 446
  • M. Hennessy and J. P. Spiers (2007) A primer on the mechanics of P-glycoprotein the multidrug transporter. Pharmacological Research 55
  • M. N. Alekshun and S. B. Levy (2007) Molecular mechanisms of antibacterial drug resistance. Cell 128



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