090: 脂肪酸合成酵素 (Fatty Acid Synthase)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2007年6月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
菌類の脂肪酸合成酵素(PDB:2uvb,2UVC)

今日、脂肪と言えば悪い言葉になっている。ところが、我々は脂肪、特にその中でも脂肪酸がないと生きていくことはできない。脂肪酸は小さな分子で、炭素原子と水素原子で構成された長いひも状の分子の端に酸性の官能基がついた構造をしている。そして人体にとって欠かすことのできない2つの事柄に使われている。1つは、細胞の周囲や内側を構成する膜の主成分となっている脂質をつくることである。もう1つは、エネルギーを圧縮して貯蔵することである。脂肪酸は濃縮されたエネルギー源となっており、しばしばグリセリンと結合して脂肪をつくる。これが必要な時が来るまでエネルギーを貯蔵する、かさばらない方法となっている。しかし、よく知られているように、脂肪は摂取しすぎると、余分な脂肪が身体の一部を作り上げてしまうのだ!

でんぷんから脂肪をつくる

我々は脂肪酸のほとんどを食事から摂取しているが、各細胞は必要となればほとんどの脂肪酸を組み立てられる酵素をつくることもできる。脂肪酸の組み立ては、一歩一歩進んでいくような反応で、1回につき炭素原子2個ずつ鎖に付け加えていく。この反応は4つの化学反応で構成されており、まず最初に炭素原子を追加し、続いて還元反応によって適当な炭化水素の形にする。この反応を開始させるには更にいくつかの酵素が必要であり、反応が終わった脂肪酸を最後に切り取るにもまたいくつか別の酵素が必要である。

脂肪工場

意外なことに、我々の細胞はこの複雑な仕事を1つの長いたんぱく質鎖で行っている。つながったドメインが群れになって折り畳まれ、各ドメインがそれぞれ異なる反応段階を進める。我々が持っているこの複雑な脂肪酸合成酵素の低分解能での構造はPDBエントリー 2cf2 で見ることができる。ここに示したのは菌類の脂肪酸合成酵素(PDBエントリー 2uvb2uvc )で、全ての機能に関するドメインが2本の鎖に結合している。完全な複合体は全部で12本の鎖から構成されており、中央には6つのα鎖(緑色)が、両端にはそれぞれ3つずつのβ鎖(青色)がある。全ての反応はこの大きな中空の球の中で起こる。中で成長中の脂肪酸が柔軟性のある鎖に付加され、左右に飛び出して更に炭素原子が付加されていく。

一歩ずつの構築

細菌由来の脂肪酸合成酵素(PDB:1kas,1I01,1U1Z,1DFG)とアシル輸送たんぱく質(中央、PDB:2fae)

一方、植物と細菌は脂肪酸をつくるのに、別々の酵素を集めたものを使っている。ここに示したのは、細菌から得られた4つの酵素(PDBエントリー 1kas1i011u1z1dfg )である。これらの酵素は一緒になって、2つの炭素原子を成長中の鎖に付加し、適当な状態へと変化させる。図中央にある小さなたんぱく質は、アシル輸送たんぱく質(PDBエントリー 2fae )と呼ばれ、脂肪酸鎖を酵素から酵素へと運ぶ輸送者の働きをして、変化を起こさせる。さてここで、この別々の酵素群で処理する細菌や植物の方法と、先に述べた大きな一つの酵素群で処理する我々の方法と、どちらのやり方がより良いのだろうかと考えるかもしれない。我々の持つ脂肪酸合成機構はより高度に効率化されている。全ての反応が大きなたんぱく質鎖の中で起こるので、成長する脂肪酸は非常に効率的に活性部位間を輸送できる。ところが、我々の複合酵素機構は主に1種の脂肪酸(パルミチン酸)をつくるようにしか設計されいない。一方細菌や植物では、少しだけ効率性を犠牲にしているものの、他の酵素を酵素複合体に付加することで、あらゆる種類の脂肪酸をつくることができる。

構造を見る

アシル輸送たんぱく質(左:4炭素付加 PDB:1l01、右:10炭素付加 PDB:2fae)

成長中の脂肪酸鎖はアシル輸送たんぱく質の構造の中に見ることができる。このたんぱく質は、細菌や植物では酵素から酵素へ脂肪酸を運んでいるものである。アシル輸送たんぱく質は特別な補因子をセリンアミノ酸に付加している。この補因子は、リン酸パンテテイン(phosphopantetheine)と呼ばれる(上図の上端にある、よく使われている原子配色で描かれた分子)。この分子は長くて柔軟性があり、脂肪酸が酵素の活性部位に入っていくのを助ける。この分子が酵素に付加されていない時は、炭素鎖(ここでは赤紫色で示している)はアシル輸送たんぱく質(黄褐色の分子)の内部奥深くに隠されている。ここでは2つの構造を示した。1つは成長中の鎖に4つの炭素原子が付加されたアシル輸送たんぱく質(左:PDBエントリー 1l0i )、もう1つは10個の炭素原子が付加されたもの(右:PDBエントリー 2fae )である。他にも脂肪酸が結合していない構造や、他の長さの脂肪酸が結合した構造をPDBでは見ることができる。

2007/06/01 にキーワード「fatty acid synthase」でPDBエントリーを検索して作成した関連エントリー一覧はこちらのリスト

脂肪酸合成酵素についてさらに知りたい方へ

脂肪酸合成酵素

以下の参考文献もご参照下さい。

  • S. Smith 1994 The animal fatty acid synthase: one gene, one polypeptide, seven enzymes. FASEB Journal 8 1248-1259
  • S. W. White, J. Zheng, Y. M. Zhang and C. O. Rock 2005 The structural biology of type II fatty acid biosynthesis. Annual Review of Biochemistry 74 791-831



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