074: α-アミラーゼ (alpha-Amylase)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2006年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
α-アミラーゼ(PDB:1ppi) 中央にある黄色の分子は基質の糖

グルコース(glucose、ぶどう糖)は体内の主要なエネルギー源であるが、残念ながら遊離状態のグルコースは食事の中にあまり含まれていない。その代わり、グルコースはより大きな形で見つかる。それには2つの小さな糖がつながったラクトース(lactose、乳糖)やしょ糖(sucrose、蔗糖)、そしてグルコースが鎖状に長く連なったでんぷん(starch、澱粉)やグリコーゲン(glycogen)が含まれる。消化における主な仕事の1つはこれらの鎖を個々のグルコース単位へと分解することであり、分解されたグルコースは血液によって身体全体の空腹な細胞へと運ばれる。

でんぷんへの攻撃

α-アミラーゼ(alpha-amylase)はでんぷんの分解を開始する。でんぷんの鎖を取り込んで、2、3個のグルコース単位でできた断片へと分解する。2種類の似たアミラーゼが体内で作られている。1つは唾液(saliva)に分泌されるもので、噛むことによりでんぷん粒子の分解が開始される。もう1つはすい臓(pancrea、膵臓)によって分泌されるもので、こちらが仕事を完了させる。そして、腸の壁につなぎ止められた一連の酵素によって個々のグルコース単位へと細かく分解される。

反応中のアミラーゼ

アミラーゼは腸内の気持ちよくない環境で仕事を行う必要があるため、その好ましくない条件に耐えるよう小さくて安定な酵素となっている。ここに示したアミラーゼ(PDBエントリー 1ppi )はブタのすい臓から得られたものである。5つの糖単位でできた小さな鎖(黄色)が、酵素の大きな割れ目に見られる活性部位に結合している。2種類のヒト由来の酵素(ブタのものと非常によく似ている)の構造も、PDBエントリー 1smd1hny で見ることができる。PDBデータベースを見ると、他にも細菌や植物由来のα-アミラーゼおよびでんぷん消化酵素の構造をたくさん見つけることができる。

なお、遺伝的視点から見た追加情報が、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」で提供されているので合わせて参照いただきたい。

工業の力

左:コウジカビのアミラーゼ(PDB:2taa) 中央:グルコアミラーゼ(PDB:1dog) 右:グルコース異性化酵素(PDB:4xia)

α-アミラーゼは高果糖コーンシロップ(high fructose corn syrup、HFCS) の生産において大量に使われる。これはトウモロコシから作られる糖の混合物で、テンサイ(sugarbeet、甜菜、砂糖大根)やサトウキビ(sugarcane)から得られるしょ糖に似た味と甘さがある。この製造過程には3つの段階が必要で、それぞれ別々の酵素によって行われる。まずアミラーゼがでんぷんを小さな断片へと分解する。上図左(PDBエントリー 2taa )に示したような細菌のアミラーゼは、大量に得るのが簡単であるためよく用いられる。2つ目の段階は菌類のグルコアミラーゼ(glucoamylase、上図中央、PDBエントリー 1dog )によって行われる。この酵素は小さな断片を個々のグルコース単位へと分解する。ただ残念ながらグルコースは特にいい味がする訳ではないので、3つ目の段階を加えることになる。3つ目の段階はグルコースイソメラーゼ(glucose isomerase、グルコース異性化酵素)によって行われる。上図右(PDBエントリー 4xia )に示したこの酵素はキシロースイソメラーゼ(xylose isomerase)とも呼ばれる。この酵素はグルコースの一部をフルクトース(fructose、果糖)に変換して、ソフトドリンクからパワーバー(ネスレ社の栄養補給食品)まであらゆる食品に甘みを加えるのに用いられる甘い添加物を作り出す。しかし、この安くて広く用いられている甘味料は多少の欠点も伴うかもしれない。インターネットを検索すると、高果糖コーンシロップの摂りすぎが肥満(obesity)や糖尿病(diabetes)に果たす役割について議論が巻き起こっているのが分かるだろう。

(訳注)日本で原材料名の記載によく見られる「果糖ぶどう糖液糖」もこれと同類。「果糖ぶどう糖液糖」は異性化された糖(フルクトース)の含有率が50%以上90%未満の異性化液糖を指す(「異性化液糖及び砂糖混合異性化液糖の日本農業規格」による)。

構造をみる

α-アミラーゼ(PDB:1ppi) 灰色の球はカルシウムイオン、緑の球は塩化物イオン、黄と橙の分子は糖、ピンクは糖切断部位、右は左の活性部位を拡大表示したもの。

α-アミラーゼの活性部位は、その仕事の大半を担う3つの酸性基(赤と白で示した部分)を含んでいる。ここに示したアミラーゼ(PDBエントリー 1ppi )では、223番残基のグルタミン酸、197番のアスパラギン酸、300番のアスパラギン酸が一緒になって、でんぷん鎖中にある2つの糖の間の結合を切断する。この構造は、活性部位に結合している5つの糖単位でできた短い糖鎖(黄色と橙で示した部分)を含んでいる。そして切断部位はピンクで示している。大きな灰色の球で示したのはカルシウムイオンで、酵素の構造を安定化させている場所の近くに見られる。緑の球で示したのは塩化物イオンで、多くのアミラーゼにおいて活性部位の下部に結合し反応を助けている。

2006/02/03 にPDBでキーワード検索を行って決定した「alpha-amylase」に関係するPDBエントリーの一覧を開く

α-アミラーゼについてさらに知りたい方へ

α-アミラーゼ(PDB:1ppi) 中央にある黄色の分子は基質の糖

以下の参考文献もご参照下さい。

  • E. A. MacGregor, S. Janecek and B. Svensson 2001 Relationship of sequence and structure to specificity in the alpha-amylase family of enzymes. Biochimica et Biophysica Acta 1546 1-20
  • J. E. Nielsen and T. V. Borchert 2000 Protein engineering of bacterial alpha-amylases. Biochimica et Biophysica Acta 1543 253-274



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