071: アセチルコリン受容体 (Acetylcholine Receptor)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2005年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
シビレエイ類の電気器官から得られたアセチルコリン受容体(PDB:2bg9)2本のα鎖(橙)中にある赤色部分はアセチルコリン結合部位。下は細胞外側から見た図。

神経細胞はお互いに速く明確に信号を送ることができる必要がある。神経細胞が隣接する神経細胞と通信する1つの方法は、小さな神経伝達分子を吹き出すというものである。放出された神経伝達分子は隣接する神経細胞へと拡散していき、細胞表面にある特別な受容体たんぱく質と結合する。そして受容体は開き、イオンが細胞内部へと流入できるようにする。この過程は素早い。なぜならアセチルコリン(acetylcholine)やセロトニン(serotonin)などの小さな神経伝達物質は細胞間の狭いシナプスを越えて急速に拡散するからである。チャネルは数ミリ秒以内に開き、細胞内へとイオンが流入できるようにする。その後、チャネルは素早く閉じて神経伝達物質による信号は素早く終わりシナプスから分離除去される。

一連の収縮過程

アセチルコリン受容体(Acetylcholine receptor)は筋肉細胞の表面で見られ、神経細胞と筋肉細胞との間のシナプスに集中している。これに似た型のものが中枢神経系でも見られ、神経細胞相互間の信号を中継している(遺伝的視点からみたアセチルコリン受容体に関する追加情報が、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」に掲載されている)。これらのアセチルコリン受容体は5つのたんぱく質鎖で構成され、細胞膜を貫通する長い管として配置されている。そのうち橙色で示した2本は側面にアセチルコリン結合部位を持っている(その結合部位は赤色で示した)。アセチルコリンがこれら2本の鎖に結合すると、受容体全体の形が少し変化し、チャネルが開く。これによりナトリウム(sodium)、カリウム(potassium)、カルシウム(calcium)など正電荷を持つイオンが膜を通して流入できるようになる。筋肉は常時ナトリウムイオンを細胞外へと排出しているので、筋肉がゆるんでいるときは細胞の内側よりも外側の方がナトリウムイオンが多い状態となっている。ところが神経からの信号を受け取ると、チャネルが開いてナトリウムイオンが細胞内へと流入し、筋肉を収縮させる過程が開始される。

生物的電気

ここに示したアセチルコリン受容体(PDBエントリー 2bg9 )はシビレエイ類のひれに見られるものである。これはよい研究材料である、というのも我々の神経-筋肉間のシナプスに見られるものと似ていて、エイの電気器官によく集中して見られるからである。シビレエイとデンキウナギは特別な電気器官で電気ショックを作り出す。この電気器官は筋肉細胞が変化し、平らになって積み重なったものが多数集まってできている。多くのアセチルコリン受容体が密集して制御される各細胞膜での小さな電位差がいくつも積み重なって、獲物を気絶させる大きな電気ショックを生み出す。

コブラとクラーレ

ヨーロッパモノアラガイのコブラ毒(PDB:1yi5) 赤は神経毒分子、青はアセチルコリン結合たんぱく質

アセチルコリン受容体は脳と筋肉との間の連絡に欠かせない。多くの生物がアセチルコリン受容体の働きを阻害する毒を作るが、これらの毒は麻痺状態を引き起こす。このような毒の1つに、ここに示す神経毒のコブラ毒(コブラトキシン cobra venom、PDBエントリー 1yi5 )がある。この構造には5つの毒分子(赤)がアセチルコリン受容体に似たたんぱく質に結合している様子が示されている。その他にもクラーレ(curare)、ニコチン(nicotine)、そしてイモガイ(coneshell)の致死的な毒などがアセチルコリン受容体を麻痺させる。

構造をみる

左:アセチルコリン受容体のアセチルコリン結合部位(PDB:2bg9) 右:アセチルコリンが結合したアセチルコリン結合たんぱく質(PDB:1uv6、緑がアセチルコリン)

現在のところ、アセチルコリン受容体については閉じた状態の構造しかないが、この類似たんぱく質であるアセチルコリン結合たんぱく質(acetylcholine-binding protein)とアセチルコリンが結合するとどうなるかを見ることはできる。このたんぱく質は貝類(ヨーロッパモノアラガイ)から発見されたもので、アセチルコリンによって輸送される信号を修飾する。これはアセチルコリン受容体から膜貫通部分を取り除いた外側部分と非常によく似ている。上図左に示したのはアセチルコリン受容体(PDBエントリー 2bg9 )のアセチルコリン結合部位で、アセチルコリンが結合する前の閉じた状態を示している。結合部位における重要なアミノ酸を原子別に色分けして示している。この中には通常見られない隣接したシステイン(cysteine)間に形成されたジスルフィド結合(disulfide linkage)が含まれている。アセチルコリン結合たんぱく質(PDBエントリー 1uv6 )における同様の部分を示したのが上図右である。これにはアセチルコリン様の物質(緑、実際に結合しているのは末端のアセチル基がアミド基に置き換わったカルバコール carbachol)が結合している。重要なアミノ酸が神経伝達物質の周りを取り囲んでいることに注目して欲しい。結合部位がアセチルコリンの周りに接近すると、受容体全体の構造がずれて膜を通る穴が開く。

アセチルコリン受容体(左)で強調表示したアミノ酸は、A鎖のTrp149、Thr150、Tyr190、Cys192、Cys193、Tyr198、アセチルコリン結合たんぱく質(右)で強調表示したアミノ酸はC鎖(またはD鎖、J鎖)のTrp143、Thr144、Tyr185、Cys187、Cys188、Tyr192です。

2005/10/27 にPDBでFASTA検索を行って決定したアセチルコリン受容体に関係するエントリーの一覧をこちらのリストに掲載しています。

アセチルコリン受容体についてさらに知りたい方へ

シビレエイ類の電気器官から得られたアセチルコリン受容体(PDB:2bg9)2本のα鎖(橙)中にある赤色部分はアセチルコリン結合部位

以下の参考文献もご参照下さい。

  • Nigel Unwin 2005 Refined structure of the nicotinic acetylcholine receptor. Journal of Molecular Biology 346 967-989
  • Arthur Karlin 2002 Emerging structure of the nicotinic acetylcholine receptors. Nature Reviews Neuroscience 3 102-114
  • Irwin B. Levitan and Leonard K. Kaczmarek 2002 The Neuron. Oxford University Press .



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading