067: TATA結合たんぱく質 (TATA-Binding Protein)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2005年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
TATA配列DNAに結合したTATA結合たんぱく質(PDB:1cdw)

RNAポリメラーゼ(RNA polymerase)酵素はDNAの2本鎖をほどき、RNA鎖へ遺伝的情報を転写する(transcribe)精巧な仕事を行う。しかしどこから転写を始めるのかをどうやって知るのだろうか?我々の細胞は何十億ものヌクレオチドの中に30,000の遺伝子を持っている。そしてそのそれぞれの遺伝子に対して、細胞は正しい場所から正しい時に転写を開始できなければならない。

転写開始

遺伝子に隣接する特別なDNA配列はプロモーター(promoter)と呼ばれ、転写の適切な開始位置と方向を決めている。プロモーターは生物によって配列と位置が異なっている。細菌の場合、通常のプロモーターはRNAポリメラーゼのシグマサブユニット(σ subunit)と相互作用する2つの領域を含んでいる。シグマサブユニットはプロモーターDNA配列と結合して転写開始を助け、その後はポリメラーゼから離れてポリメラーゼが遺伝子の転写を継続できるようにする。我々の細胞は細菌よりもずっと複雑なプロモーター機構を持っていて、何十種類ものたんぱく質を使って適切なRNAポリメラーゼが確実に各遺伝子の転写を行えるようにしている。この機構の中心的要素となるのが、TATA結合たんぱく質(TATA-binding protein)である。

TATAボックス

我々の持つたんぱく質をコードする遺伝子は、転写開始部位の前にTATAボックス(TATA box)と呼ばれる特徴的なヌクレオチド配列を持っている。この配列は通常 T-A-T-A-a/t-A-a/t のようになっている(ここで、a/t は A または T どちらが来ても構わないことを意味する)。驚くべきことに、この配列は様々な変異があっても機能し、なぜある配列では機能し別のある配列では機能しないのかを明らかにすることが転写研究における課題の一つとなっている。TATA結合たんぱく質(TBPとも呼ばれる)はこのTATA配列を認識して結合し、転写開始部位を明らかにする目印を作る。最初にTATA結合たんぱく質の構造が決定された時、研究者たちはTATA結合たんぱく質がDNAに結合する際、穏やかではないことを見つけた。結合するというよりはむしろ、TATA配列をつかんで鋭く折り曲げる。その様子をPDBエントリー 1ytb1tgh1cdw で見ることができる。

ヘルパー

転写制御因子 上:TFIIB(PDB:1vol) 中央:TFIIA(PDB:1ytf) 下:転写制御因子NC2(PDB:1jfi)

TATA結合たんぱく質は、転写過程を開始するより大きな転写因子(transcription factor)TFIIDの一部として働く。TATA結合たんぱく質はプロモーターに結合した後、追加の転写因子を呼び出す。

右図上に示したTFIIB(PDBエントリー 1vol )が次に結合する。そして他の転写因子の連なりが結合して、転写を開始するかどうかを決定する巨大なたんぱく質複合体を構築する。この複合体には右図中央に示したTFIIA(PDBエントリー 1ytf )のような転写活性化因子(transcription activator)も含まれる。これは転写開始を促す。

また右図下に示す転写制御因子NC2(transcription regulator NC2 (negative cofactor 2)、PDBエントリー 1jfi )のような別の因子は転写開始を阻害する。

なお右図では3図とも、TATA結合たんぱく質を青で、小さなDNA断片を赤で、転写因子を緑で示している。

構造をみる

DNAのTATA配列に結合したTATA結合たんぱく質(PDB:1ytb)

TATA結合たんぱく質は、PDBエントリー 1ytb から得られた右図に示す構造のように、TATA配列を認識してつかむのに2種類の相互作用を用いる。まず右図上に示すように、DNAのリン酸基(黄色と赤色の部分)と相互作用するアミノ酸(リジン(lysine)とアルギニン(arginine))の連なり(暗い青色の部分)を持っていて、これを使いたんぱく質とDNAをくっつける。次に、DNAの塩基と相互作用する特別に配置されたアミノ酸を使う。右図下に示すように、4つのフェニルアラニン(phenylalanine)アミノ酸がDNAの小さい方の溝に入り込み、DNAを曲げるよじれを作る。また丁度中央には水素結合(hydrogen bond)を形成する、アスパラギン(asparagine)アミノ酸が2つ対称的に存在する。この珍しいTATA DNA配列の柔軟性と特徴的な水素結合の組み合わせによって、TATA結合たんぱく質は適切な配列を認識できる。

各自で構造を見る際、TATA結合たんぱく質が1本の鎖で構成されているにも関わらず、2つの対称的な部分を持っていることに注目して欲しい。この対称性は、右図下に示した2組のフェニルアラニン(A鎖またはB鎖の99、116、190、207番残基)と2つのアスパラギン(A鎖またはB鎖の69、159番残基)を見れば容易に理解できる。これはかつての遺伝子が複製され、同じ遺伝子の複製2つが組み合わさったことによってできたと考えられている。なお、TATA結合たんぱく質に関して遺伝的視点からみた追加情報が欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」で提供されている。

2005/6/27にPDBでFASTA検索を行って決定したTATA結合たんぱく質に関連するエントリーの一覧をこちらのリストに掲載しています。

TATA結合たんぱく質についてさらに知りたい方へ

TATA配列DNAに結合したTATA結合たんぱく質(PDB:1cdw)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • R. G. Roeder 1996 The role of general initiation factors in transcription by RNA polymerase II. Trends in Biochemical Sciences 21 327-335
  • Z. S. Juo, T. K. Chiu, P. M. Leiberman, I. Baikalov, A. J. Berk and R. E. Dickerson 1996 How proteins recognize the TATA box. Journal of Molecular Biology 261 239-254



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