066: カロテノイド酸素添加酵素 (Carotenoid Oxygenase)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2005年6月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
カロテノイド酸素添加酵素(PDB:2biw)

「にんじんを食べなさい、さもないと盲目になりますよ!」子供の頃に受けたこの警告の生化学的な根拠は、我々の目が光を吸収する色素を作るのにレチナール(retinal)、ビタミンA(vitamin A)が必要なことにある。残念ながら、我々の細胞はこれらを自分で作ることはできず、食事から摂取しなければならない。我々は通常2種類の方法で日々のビタミンAを摂取している。レチナールまたはその類似分子は、肉を食べた時に直接摂取される。その代わりに、簡単にレチナールに変換される分子を食べることもできる。これが先ほどのにんじんの話の始まりである。にんじんはβ-カロテン(beta-carotene)を豊富に含み、我々の細胞はβ-カロテンを2つに分解して2分子のレチナール分子を作る。

色彩豊かなカロテノイド

にんじんややその他橙黄色の野菜が持つ鮮やかな色はβ-カロテンなどのカロテノイド(carotenoid)分子に起因している。カロテノイドは長くて薄い分子で、炭素間二重結合が連なった部分を持っている。この二重結合が光を吸収してカロテノイドに特徴的な黄色い色を生み出している。何百種類ものカロテノイドが様々な植物で見つかっており、花、葉、実、そして根の色づけにさえ用いられている。カロテノイドは植物にとっても、植物を食べる人々にとっても非常に有用で、植物では光合成(photosynthesis)において光を吸収するクロロフィル(chlorophyll)分子を助けている。また光の量が危険なレベルに達したときに過剰な光を吸収する役目も果たしている。一方我々の網膜(retina)には、目を傷つけうる過剰な光から目を保護するルテイン(lutein)などのカロテノイドが含まれている。またカロテノイドは活性酸素を除去する抗酸化物質としても働き、我々の持つ分子機械を傷つける前に破壊してしまう。

粉々になったカロテノイド

カロテノイドは様々な役に立つ化合物を作るための開始材料を提供する。植物の場合、カロテノイドは小さな断片へと分解され、ホルモンとして働いたり、心地よい花の香りを伴う小さくて揮発性の化合物を作ったりする。我々の細胞の場合、カロテノイドは分解されてビタミンAまたはレチナールとなり、視物質(visual pigment)を作るのに用いられたり、組織における細胞の成長(growth)や分化(specialization)を制御する信号分子として使われたりする。これら分解反応の多くはカロテノイド酸素添加酵素(carotenoid oxygenase)によって行われる。この酵素は切断を行うのに酸素分子を使う。

カロテノイドの切断

カロテノイド酸素添加酵素は、カロテノイド分子を深い窪みの中にとらえ、酸素を使って2つの断片へと切断する。鉄イオン(iron ion)がこの反応を助けており、酸素を適切な場所に置いて活性化するようにしている。ここに示した酵素(PDBエントリー 2biw )はシアノバクテリア(cyanobacteria)から得られたもので、様々なカロテノイドを酵素の中央にある結合で分解する。我々が持つ酵素の場合、中央でβ-カロテンが分解されて、2分子のレチナールができる。なお、カロテノイド酸素添加酵素に関して遺伝的視点からみた追加情報が欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」で提供されている。

カロチンとレチナールの活動

左:シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0) 右:ロドプシン(PDB:1f88)

カロテノイドとその産物が働いているところをPDBに登録されたいくつかの構造で見ることができる。多くのβ-カロテン分子が、光合成で光を捕らえるのに用いられる大きな光化学系で見られる。上図左に示した例はシアノバクテリアから得られた 光化学系I (PDBエントリー 1jb0 )である。端には橙色で示したいくつかのβ-カロテン分子が見える。レチナールはβ-カロテンの半分の大きさで、上図右に示したロドプシン(rhodopsin、PDBエントリー 1f88 )のような光感覚たんぱく質で見られる。ピンク色で示したレチナールはたんぱく質の内側奥深くに埋まっており、そこでリジン(lysine)アミノ酸が付加されている。

構造をみる

PDBエントリー 2biw は最初に構造が解かれたカロテノイド酸素添加酵素で、これによりこのグループの酵素の詳細な機構が明らかになった。上図は活性部位を拡大して見たものである。黄土色で示したカロテノイドは、ピンク色で示した鉄原子の近くにとらえられている。図では赤い球で示した2つの水分子は、切断反応が行われる際に酸素が結合する場所に概ね位置していると考えられている。なおここで、鉄原子が完璧に配置された4つのヒスチジン(histidine)アミノ酸によってつかまれていることに注目して欲しい。

このエントリーの構造を見る際、PDBファイルには4分子の酵素が入っていることに注意して欲しい。恐らくその4本の鎖のうち1本だけを取り出して見ればいいだろう。

2005/6/2にPDBでFASTA検索を行って決定したカロテノイド酸素添加酵素に関連するエントリーの一覧を開く

更に知りたい方へ

カロテノイド酸素添加酵素(PDB:2biw)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • G. E. Bartley and P. A. Scolnik 2003 Carotenoid oxygenases: cleave it or leave it. Trends in Plant Science 8 145-149
  • G. E. Bartley and P. A. Scolnik 1995 Plant carotenoids: pigments for photoprotection, visual attraction, and human health. The Plant Cell 7 1027-1038



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