048: 異化活性化たんぱく質 (Catabolite Activator Protein)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2003年12月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)

甘い歯

異化活性化たんぱく質(PDB:1cgp)

細菌は糖(sugar)が大好きである。特にブドウ糖(glucose)が好きで、これは簡単に消化でき素早く化学エネルギーに変換できる。ブドウ糖が豊富に存在する時は、環境中にある他の養分は無視し、細菌が好むこの栄養源だけをごちそうとして食事を楽しむ。ところが、ブドウ糖があまりない時は、ギアを切り替え、他のエネルギー源を利用するのに必要とされる機械の動員をかける。

二次伝達物質

細菌は、細胞内で化学エネルギーを輸送する分子「ATP」に変わった修飾を加え、現在食べているものに関わる合成機械へ情報伝達を行うのに使っている。ブドウ糖の濃度が下がると、細胞表面にある酵素「アデニルシクラーゼ」(adenyl cyclase)が活性化される。この酵素はATP分子をつかみ、2分子のリン酸を削り取る。そして新たにできた末端を分子に再びつなぎ、リン酸による環状領域を持った小さくて奇妙な分子を作り上げる。「環状AMP」(cyclic AMP)と呼ばれるこの生成物は細胞内に放出され細胞中に広がる。そして他の食物分子を加工する酵素の合成を促す。この分子は、一次ブドウ糖感知装置(アデニルシクラーゼ)から合成機械へ信号を伝達する役割を持っているので、よく「二次伝達物質」(second messenger)と呼ばれる。

信号を読み取る

異化活性化たんぱく質(catabolite Activator Protein、CAP)は、環状AMP受容体たんぱく質(cyclic AMP receptor protein、CRP)としても知られ、環状AMPによって活性化されブドウ糖以外の食物中の分子を分解する酵素の合成を促す。このたんぱく質は、右図(PDBエントリー 1cgp )のように同じサブユニットが2つ集まってできている。環状AMP(赤紫色の分子)が結合すると、たんぱく質の配置が少し変化し、 DNA (赤色の分子)への結合を完全なものにする。CAPは、活性化される遺伝子に隣接する場所に見られる特定のDNA配列に結合する。次項で述べるように、CAPがDNAに結合すると、 RNAポリメラーゼ (rna Polymerase)を所定の位置へと誘導し、転写を開始させる。

DNAをつかむ

CAPはDNAに結合するやり方は穏やかではない。DNAをつかんで90°近くにまで曲げてしまうのだから。しかしDNAは滑らかには曲がらない。DNAは鎖に沿ってらせん状に進む2つの溝を持った二重らせんであるため、ある方向には他の方向よりも簡単に曲がるという性質を持っている。CAPは自身が持つαらせんで、簡単に押し縮められる大きな方の溝に接触し、そのような位置2箇所でDNAを鋭く折り曲げる。

CAPの働き

RNAポリメラーゼ(下:PDB:1iw7)とCAP(青)・DNA(赤)・RNAポリメラーゼの一部(緑)の複合体(上:PDB:1lb2)

CAPはRNAポリメラーゼをDNAのそばへと引き寄せ、隣接する遺伝子の転写(transcription)を促す。ここに示したRNAポリメラーゼ(PDBエントリー 1iw7 )はCAPとDNAに到達して相互作用するサブユニットを持っている。この構造ではそのサブユニットの半分だけが見えている。一方、PDBエントリー 1lb2 はどのようにして残り半分がCAP(青)とDNA(赤)に結合しているかを明らかにしている。2つの片割れ同士は柔軟な結合部位を通じてつながっている。その部分を図では小さな緑色の点線で示している。なおここでは短いDNA断片しか示されていないことに注意して欲しい。実際の細胞内においてDNAは長い連続した鎖として存在しており、これはその一部でしかない。柔軟な結合部位はRNAポリメラーゼがDNAの隣接領域に接触し転写を開始することができるようにしている。

構造をみる

異化活性化たんぱく質(PDB:1cgp)のDNA結合部分を拡大したもの。

CAPは特定のDNA配列を認識し、エネルギー産生に関わる遺伝子に隣接する特別な部位にだけ結合する。認識はCAPが持つアミノ酸と、DNA鎖の大きい方の溝にある塩基との相互作用によって実現されている。上図(PDBエントリー 1cgp )では、どのようにして2つのアルギニン(arginine)と1つのグルタミン酸(glutamate)がDNAに対して反応し、塩基と特有の水素結合(hydrogen bond)を形成するのかが示されている。中央にあるチミン(thymine)-アデニン(adenine)塩基対の場所でDNAが大きく曲げられていることに注目して欲しい。CAPはDNAの主鎖にあるリン酸上の様々な場所とも相互作用し、結合を強化している。PDBエントリー 1cgp はDNA主鎖の重要な点(星印で示した場所) で切れ目を入れているが、CAPがどのようにしてこの部位と相互作用するかについてはPDBエントリー 1j59 で見ることができる。

2003年12月時点でPDBに登録されていた異化活性化たんぱく質関連する全エントリーの一覧を開くまた、遺伝的視点から見た異化活性化たんぱく質の情報を欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」(Protein of the Month)で見ることができます。

更に知りたい方へ

異化活性化たんぱく質(PDB:1cgp)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • A. Kolb, S. Busby, H. Buc, S. Garges and S. Adhya 1993 Transcriptional regulation by cAMP and its receptor protein. Annual Review of Biochemistry 62 749-795
  • S. Busby and R. H. Ebright 1999 Transcription activation by catabolite activator protein. Journal of Molecular Biology 293 199-213



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