047: シミアンウイルス40 (Simian Virus 40)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2003年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
シミアンウイルス40のカプシド(中央、PDB:1sva)とその中の環状DNA

シミアンウイルス40(simian Virus 40)は単純なウイルスがどのようにして存在でき、更に致死的な働きまでもするのかを示す一つの例である。ウイルスは「自己の複製」という一つの目的を持った小さな機械である。細胞に入り込み、細胞の合成機械を乗っ取って、新しいウイルスを作らせる。SV40は大変小さな分子機械によってこの仕事を行う。PDBエントリー 1sva では、1種のたんぱく質360個と別の2種類のたんぱく質数個が集まってできた球形のカプシド(殻、capsid)とで囲まれているのを見ることができる。このカプシドの大きさは、このウイルスが持つ5243個のヌクレオチドから成る小さな環状DNAを、丁度包み込めるだけの大きさになっている。そしてこのDNAには、細胞に入り込んで新たなウイルスを作るのに必要な最低限の情報が含まれている。

DNAの環

環状のSV40ゲノムは、ここに示すように、細胞内において一握りのヌクレオソーム(nucleosome)を傷つける「小型染色体」(mini-chromosome)として見出される。このゲノムは全体が小さなカプシドに収まらないといけないので、たった数種の機能に関する遺伝情報を収める大きさしかない。そしてこの環状DNAには、黄色と赤で示した制御領域があり、ウイルスの生活環全体を制御している。また数種のたんぱく質〜T抗原(およびt抗原と呼ばれるT抗原の切り出されたバージョン)、そして3種類のカプシドたんぱく質VP1、VP2、VP3〜もコードしている。白で示した小さな領域だけが使われていない。このゲノムの中は空間が限られているので、カプシドたんぱく質は実のところ読み取り枠が重なってエンコードされている。そのためあるたんぱく質遺伝子の末端部分は次のたんぱく質の先端部分もエンコードしている。なお、この非常に空間をけちったSV40ゲノムに関する更なる情報が欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「 今月のたんぱく質 」に掲載されているので合わせて参照のこと。

生活環を進める

SV40は霊長類(primate)の細胞に感染してウイルスを取り込ませ、細胞内にDNAの環を放出する。細胞内に入るとSV40は2つの仕事〜DNAの複製とその複製DNAの新しいウイルスカプシド内への梱包〜を行う。驚くべきことに、SV40はこの2つの仕事を制御するのにたった1つのたんぱく質「T抗原」(T-antigen)しか必要としない。ウイルスが細胞に入るとすぐに、細胞自身が持つ合成機械はSV40の制御領域の中心にあるTATA配列(TATA sequence、鮮やかな赤色で示した部分)を認識する。そして細胞は環状DNAを反時計回りに読み取ってメッセンジャーRNA(mRNA)を作る。このmRNAはT抗原(詳しくは後述)たんぱく質を作るのに使われる。これでウイルスが働く準備ができたことになる。T抗原はSV40の環に結合して鎖の分離を助け、細胞のポリメラーゼ(polymerase)がDNAを複製できるようにする。また、DNAを逆方向に読むよう指示し、環を反時計回りに回ってカプシドたんぱく質の複製をたくさん作ることもする。

SV40とがん

通常、SV40は、細胞に入り、新たなウイルスを作り、細胞を殺してウイルスを解放する、という生活環で過ごしている。ところが、非許容モード(本来の生活環では想定していない宿主へも感染するモード)では他の動物にも感染することができる。その時、ウイルスは細胞に入ることはできるが新たなウイルスを作ることができない。しかしT抗原は作られ、それと同時に細胞をがん細胞へと変えてしまう。T抗原は p53 と Rb(Retinoblastoma protein、網膜芽細胞腫たんぱく質)に結合する。この2つは成長の制御に重要なたんぱく質である。これらの通常の機能を阻害することによって、感染細胞は制御を受けることなく増殖できるようになり、がんの増殖を引き起こしてしまうのである。この珍しい現象の研究が、がんの生物学に関する初期の発見の多くにつながった。より一般的には、細胞に感染していぼの不自然な成長を引き起こすパピローマウイルス(papillomavirus)が持つ同様の機構の研究ががんに関する発見に貢献した。

驚くべきT抗原

T抗原複合体がDNAに結合する様子(PDB:1n25、1tbd、1gh6)

SV40はその機能に必要なもの全てを、1つの驚くべき多機能なたんぱく質へと格納している。T抗原はいくつかの機能部位で構成され、それぞれは柔軟な結合部位でつながれている。PDBには3つの主要部分の構造が登録されている。一方の端にはヘリカーゼドメイン(helicase domain)があり、いくつか同じドメインが集まって6回対称(正六角形型)の環状構造を形成する(上図左上、PDBエントリー 1n25 )。この中央にできた穴はDNA二重らせんを取り囲むのに丁度いい大きさになっている。中央に位置するドメイン(PDBエントリー 1tbd )は小さなつぎ当て部(緑色の部分)を持っていて、SV40ゲノムの制御領域へ特異的に結合する。それによってT抗原複合体を適切な場所へ固定する。3つ目のドメインは細胞のたんぱく質と相互作用し、ウイルスの生活環の様々な段階において指示を行う。上図右には Rb たんぱく質(赤色部分)に結合したもの(PDBエントリー 1gh6 )を示した。細胞では、このたんぱく質の複製12個がDNAのまわりに集まって、上図下に示すような長い管状構造を形成する。

構造をみる

シミアンウイルス40のカプシド(中央、PDB:1sva)

PDBエントリー 1sva では SV40 のカプシドを見ることができる。PDBファイルには6つの鎖が含まれるが、これらは結晶格子中において実験的に珍しいものとなっている。このファイルはしばらく時間をかけて、鎖がどのようにして絡み合い組み合って強固なカプシドを形成しているのかを見る価値がある。6つの鎖は全て化学的構造は同一だが、このカプシドが持つ珍しい疑似対称性に適合するため、それぞれ少しずつ違った構造をとっている。なお、構造全体にはほぼ100万個もの原子が含まれており、表示にはしばらく時間がかかる。少しでも画像表示を速くするため、主鎖のみを描いているにも関わらず。

2003年11月時点でPDBに登録されていたシミアンウイルス40関連する全エントリーの一覧を開く

更に知りたい方へ

シミアンウイルス40のカプシド(PDB:1sva)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • C. N. Cole 1996 Polyomavirinae: the Viruses and Their Replication. Fields Virology , Chapter 63 , Lippincott-Raven Publishers , Philadelphia .
  • D. T. Simmons 2000 SV40 Large T Antigen Functions in DNA Replication and Transformation. Advances in Virus Research 55 75-134



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