040: RNAポリメラーゼ (RNA Polymerase)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2003年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)

情報伝達のためだけではない

転写を行っているRNAポリメラーゼ(PDB:1i6h)

RNAは万能の分子である。最もよく知られている役割は、DNAからの遺伝情報をたんぱく質合成機械へ運ぶ仲介者としての役割である。ところがRNAは更に活動的な役割も担っていて、通常はたんぱく質が行う触媒、認識といった機能の多くはRNAによっても行われている。実際、細胞内にあるRNAのほとんどは、我々のたんぱく質合成機械である リボソーム と、成長するたんぱく質に新しいアミノ酸を付加するのに使われる 転移RNA 分子で見られる。更に、数え切れないほどの小さなRNA分子が伝令RNA(messenger RNA)の定常的な流れの制御、処理、排出に関わっている。RNAポリメラーゼは、これら異なる種類のRNA分子全てを作り出す重要な責任を果たしている。

RNA工場

RNAポリメラーゼは多くの可動部分を持つ巨大な工場である。ここに示した一例はPDBエントリー 1i6h の酵母細胞から得られたものである。これは何十種類ものたんぱく質で構成されている。それらが一緒になって、DNA鎖を取り囲み、ねじれを解き、DNAが持つ情報に基づいてRNA鎖を作る機械を構築する。酵素が動作を始めると、DNAに沿って着実に進行し何千ヌクレオチドにもなるRNA鎖を作り出す。

正確さ

ご想像の通り、RNAポリメラーゼが遺伝情報を複製するには正確さが必要とされる。正確さを向上させるため、RNA鎖を作る時に簡単な校正作業を行う。この酵素の活性部位は成長中のRNA鎖にヌクレオチドを付加できるだけでなく、除去することもできるよう設計されている。酵素は、正しく付加されたヌクレオチドからはみ出して組み合わさっていない部分の周囲をうろつき、その部分を除去するのに時間を割く。ただこの過程は幾分無駄が多い、なぜなら正しいヌクレオチドも時折除去されるからである。しかしこれはより良いRNA転写物を作るために払う対価としては安いものである。全体として、RNAポリメラーゼは10,000ヌクレオチドを付加するごと、あるいはRNA鎖1本を作るごとに約1回の誤りを起こす。

ポリメラーゼを毒する

α-アマニチンが結合したRNAポリメラーゼ(PDB:1k83)

RNAポリメラーゼは細胞の生存に絶対不可欠なものであるため、毒物によく反応する攻撃対象となる。このような毒物の中で最も強力なものはα-アマニチン(alpha-amanitin)で、これはタマゴテングタケ(death cap mushroom)によってつくられる小さな環状ペプチドである。この類のキノコを食べると数日中にけいれんを起こし死に至ってしまうが、これはこの毒素が身体中のRNAポリメラーゼを攻撃するからである。なお驚くべきことに、RNAポリメラーゼにおいてこの毒素が結合する部位は、活性部位ともDNAやRNAが結合する結合部位とも離れた反対側にある。つまり、よくある阻害剤のように活性部位を物理的に阻害しているのではなく、酵素が働く仕組みを阻害しているのである。RNAポリメラーゼは、DNAに結合し、ねじれをほどき、RNA鎖を作り上げるという一連の過程を進める途中、曲がったり形が変化したりする可動性の高い酵素である。PDBエントリー 1k83 で見られるように、毒素はたんぱく質が持つ2つのサブユニットの間に結合し、2つをくっつけて酵素の働きに不可欠な可動性を阻害している。

構造を見る

バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼ

PDBエントリー 1msw はRNAポリメラーゼが活動している様子を示す見事な構造を含んでいる。この構造に含まれるのは、バクテリオファージT7(bacteriophage T7)が作った非常に小さなRNAポリメラーゼ(青い管で示した部分)である。2本のDNA鎖と1本のRNA鎖でできた小さな転写泡(transcription bubble)が活性部位に結合している。2本のDNA鎖がどのように図の上部で二重らせんを形成しているのかに注目して欲しい。酵素はDNA鎖を真ん中で分け、右のDNA鎖を使ってRNA鎖を作る。そして最終的にDNA鎖を元の二重らせんへと戻している(図下部)。

2003年4月にPDBに登録されていたRNAポリメラーゼの構造一覧を開く

更にに知りたい方へ

転写を行っているRNAポリメラーゼ(PDB:1i6h)

当記事を作成するに当たって用いた参考文献を以下に示します。

  • Bruce Alberts, Alexander Johnson, Julian Lewis, Martin Raff, Keith Roberts and Peter Walter 2002 Molecular Biology of the Cell 6 , Garland , New York ,



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