037: 血清アルブミン (Serum Albumin)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2003年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
血清アルブミン(PDB:1e7i)

食べることができるのがどれだけ便利なことか考えてみて欲しい。我々の身体にある10兆個の細胞はどれも、常時栄養分の供給を必要とする。ところが、我々はそんな心配をする必要はなく、単に夕食を食べて身体を休めるだけでよい。食物は消化されて使いやすく砕かれた分子となり、それが配達システムである血流を使って身体全体の細胞に届けられる。糖などの水溶性分子を届けるのは簡単である。水性の血流を浮遊し、途中で細胞に拾われる。ところが、それ以外の重要な栄養素は水に溶けない。そのため空腹になった細胞まで栄養素を持って行くには特別な輸送体を作らないといけない。

脂肪酸の輸送

上図に示したのは PDBエントリー 1e7i の血清アルブミンで、血液中で脂肪酸を運ぶ役割を果たす。身体の中で、脂肪酸は2つの重要なことに欠かせない。1つは脂質を作る建築材料になることで、その脂質は細胞の周囲および内側にある膜全てを形作っているものである。もう1つは豊富なエネルギー源となることで、細胞内で分解されるとATPができる。つまり、我々の身体は脂肪という形で蓄えられた脂肪酸の宝庫なのである。身体がエネルギーを必要とした時や物質合成を行う必要がある時は、脂肪細胞が血液中に脂肪酸を放出する。それが血清アルブミンによって拾われ、身体の離れた場所まで運ばれていくのである。

万能なたんぱく質

血清アルブミンは血漿中で最も豊富に存在するたんぱく質である。1つの血清アルブミン分子は7つの脂肪酸分子を運ぶことができる。脂肪酸はたんぱく質の溝の奥深くに結合して、炭素に富んだ尾部を周囲の水から遠ざけている。血清アルブミンは他の様々な水不溶性分子にも結合する。特に、イブプロフェン(ibuprofen、消炎鎮痛剤)などの色々な薬剤分子と結合して、薬剤を身体全体に届ける方法に強く影響する。

よくあるたんぱく質

血清アルブミンは血液中でよく見られ簡単に精製できるため、科学者によって研究された最初のたんぱく質の一つであった。今日、ウシから得られた類似たんぱく質であるウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)が、研究で一般的なたんぱく質が必要な時に広く用いられている。多くの酵素は希釈溶液中に置かれると不安定になるため、実験室内で研究することは難しい。この問題に対する一つの解決法はBSAを加えることである。BSAは実験中酵素を安定化させるが、比較的中立であり酵素の性質にはあまり影響しないのである。

輸送体の集合

輸送たんぱく質(上:甲状腺ホルモン輸送体(PDB:1tha)、下:トランスフェリン(鉄イオンとトランスサイレチンを輸送 PDB:1h76)

血液中では多種多様な分子が輸送されており、それらを輸送するため我々が様々な種類のたんぱく質を持っているのは驚くことではない。ただ、このような特異的輸送体の多くは、血清アルブミンとは違い、1種類の分子しか輸送しない。ここではそのような事例を2つ紹介する。PDBエントリー 1h76 から得られた トランスフェリン (Transferrin)は鉄イオンとトランスサイレチン(transthyretin)を輸送し、PDBエントリー 1tha は甲状腺ホルモン(thyroid hormone)を輸送する。血液はこのような忙しく働く輸送体で満たされており、輸送体は体全体に荷物を届けているのである。

構造をみる

ヒト血清アルブミンに8分子のアラキドン酸が結合したもの(PDB:1gnj)

どのようにして様々な脂肪酸が結合できるのかを示す一連のヒト血清アルブミンの構造がPDBで利用できる。このページの最初で7分子の飽和脂肪酸がたんぱく質に結合している様子を示した。その図ではいくつかの脂肪酸分子が表面から顔をのぞかせているのが見える。ここに示したのは PDBエントリー 1gnj から得られた構造で、8分子のアラキドン酸が結合している。たんぱく質は青い管で、脂肪酸は原子種ごとに色分けした球で表現している。この構造を見る時、どのようにしてたんぱく質が脂肪酸の炭素に富んだ尾部を取り囲み、周囲の水から隔離しているのかに注意して欲しい。なお、アラキドン酸は炭素鎖中に固定化した曲がりを作っている4つの二重結合を含んだ不飽和脂肪酸で、痛みや炎症の信号を伝えるのに用いられる分子伝達物質の構築に重要な物質である。

2003年1月時点でPDBに登録されていた全ての血清アルブミン一覧をこちらのリストに掲載しています。

血清アルブミンについてさらに知りたい方へ

血清アルブミン(PDB:1e7i)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • Stephen Curry, Peter Brick and Nicholas P. Franks (1999): Fatty acid binding to human serum albumin: New insights from crystallographic studies. Biochimica et Biophysica Acta 1441



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading