029: ペニシリン結合たんぱく質 (Penicillin-binding Proteins)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2002年5月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
「今月の分子」一覧に戻る / この記事のRCSBオリジナルサイト(英語)を見る
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ペニシリン結合たんぱく質(Penicillin-binding Proteins)

細菌はヒトやその他の高等生物に対して感染症の脅威をもたらし続けている。それゆえ、感染症に対抗するための新しい手段を探す時、他の動植物や菌類などがどのようにして自分の身を守っているのかを見ることが役立つことは多い。ペニシリンはこうして発見されたのである。1928年、アレクサンダー・フレミング(Alexander Fleming)は、細菌培地の中でペニシリウム属のカビ(アオカビ)が細菌の感染を寄せ付けることなく群体をつくっているのを偶然観察して発見した。そして彼は、更なる研究によって、そのカビは細菌を殺す分子「ペニシリン」を培地に放出していることを発見した。

魔法の弾丸

ペニシリンやβ-ラクタム抗体(異常に反応性の高いラクタム環のこと)などは大変効率よく効いて、しかも副作用がほとんどない(アレルギー反応を除く)。これは、ペニシリンが細菌に特有で、高等生物にはない反応過程に対して攻撃するからである。さらに、ペニシリンによって攻撃される酵素は細菌の細胞を取り囲んでいる細胞膜の外側にあるため、薬剤は強力な障壁を乗り越えなくても直接攻撃できるという利点もある。

細菌の破壊

低濃度でペニシリンが投与された時、細菌の細胞は形が変化し長い繊維を伸ばす。投与量が増加するにつれ、細胞表面は完全性を失い、ふくれて膨張し最終的には破裂する。ペニシリンは酵素に対して攻撃するが、その酵素は細菌細胞の外側に固定されたペプチドグリカンと呼ばれる炭化水素とたんぱく質の強いネットワークをつくる。細菌細胞は高い浸透圧を持っているがそれは細胞内がたんぱく質、低分子、イオンなどが濃縮されている一方で、細胞外の環境はそれらの分子が希釈されているからである。細菌細胞は、このペプチドグリカンによるコルセットで固定していないと、浸透圧によってすぐに破裂してしまうだろう。

構築の阻害

ペニシリンはペプチドグリカンを形成する分子の一部と化学的に似ていて、これを薬として使うと、酵素の働きが阻害され、構成要素が結合してペプチドグリカンになるのが妨げられる。このような酵素はまとめてペニシリン結合たんぱく質というグループ名で呼ばれる。ここに属するあるたんぱく質は、長い糖鎖に小さなペプチドがあらゆる方向に突き出した形で結合している。また別のあるたんぱく質は、ここに示したD-アラニル-D-アラニン 炭酸ペプチド加水分解酵素/トランスペプチド加水分解酵素(D-alanyl-D-alanine carboxypeptidase/transpeptidase、PDBエントリー 3pte )のように、小さなペプチドが交差して魚取り網のような2次元の網状構造を形成している。

ペニシリンへの抵抗

左:ペニシリン結合たんぱく質(PDB:3pte、紫は活性部位のセリン) 右:β-ラクタマーゼ(PDB:4blm)

もちろん、細菌は直ちに反撃する。細菌は大変素早く増殖し、その速度は1日に何十世代分にも達するので、細菌の進化も大変速い。細菌はペニシリンの作用を邪魔するために様々な方法を発達させてきた。ある方法はペニシリン結合たんぱく質を少しだけ変えるというもので、それによって本来の機能は失われないが、薬剤(ペニシリン)は結合できなくなる。またある方法はより効果的な方法で、薬剤感受性の高い酵素で保護したり、薬剤を素早く細胞外に排出するポンプを使ったりする。しかし多くの方法は特別な酵素〜βラクタマーゼ(β-lactamase、ペニシリナーゼとも呼ばれる)〜をつくるというもので、薬剤を探し出して破壊する。

多くのβ-ラクタマーゼはペニシリン結合たんぱく質が使う機構と同様のものを用いている。実のところ両者は大変似ているので、研究者たちはペニシリン結合たんぱく質が進化的に変化してβ-ラクタマーゼができたと考えている。上図左(PDBエントリー 3pte )に示したようなペニシリン結合たんぱく質は、紫色で示したセリンアミノ酸を反応で用いる。セリンはペプチドグリカン鎖と共有結合を形成し、そのペプチドグリカンが網状構造の別の部分と交わった後離れる。ペニシリンはこのセリンと結合したまま離れないので、活性部位を阻害し続けることになり、有効に細菌を攻撃できる。一方、上図右(PDBエントリー 4blm )に示したβ-ラクタマーゼは活性部位の窪みに似たセリンを持っている。ペニシリンはこのβ-ラクタマーゼ中にあるセリンにも結合するが、放出されて不活性型になる。他のβ-ラクタマーゼでも同様のことを行うが、ペニシリンを不活性化させる際セリンアミノ酸の代わりに亜鉛イオンを使う。

構造をみる

活性状態のペニシリン結合たんぱく質にセファロスポリンが結合したもの(PDB:1hvb)

PDBエントリー 1hvb はペニシリン結合たんぱく質の活性状態を示している。この酵素は2つのペプチドグリカン鎖を交差させてペプチドグリカンの網を作り出すD-アラニル-D-アラニン 炭酸ペプチド加水分解酵素/トランスペプチド加水分解酵素 である。この構造には交差反応の瞬間を捕えるため研究者が特別に設計した分子が含まれている。それはセファロスポリン(cephalosporin)という薬剤で、ペニシリンに似ており、酵素活性部位のセリンに直接結合するものである。上図では交差させる2本の鎖を左に伸びる半透明な点の並びで示しており、この薬剤は、通常は交差する鎖の一方(白い鎖)だけが占める位置にある。小さなペプチドがこの薬剤には付加されており、こちらは交差するもう一方の鎖(青い鎖)だけが占める位置にある。この構造は交差が形成された直後の複合体の様子を示している。

2002/05 時点でPDBに登録されている全てのペニシリン結合たんぱく質の一覧をこちらのリストに掲載しています。

ペニシリン結合たんぱく質についてさらに知りたい方へ

ペニシリン結合たんぱく質

以下の参考文献もご参照下さい。

  • Kelley, J.A., Kuzin, A.P., Charlier, P. and Fonze, E. (1998) X-ray studies of enzymes that interact with penicillins. Cell and Molecular Life Sciences 54
  • Waxman, D.J. and Strominger, J.L. (1983) Penicillin-binding proteins and the mechanism of action of beta-lactam antibiotics. Annual Review of Biochemistry 52



「今月の分子」一覧に戻る
Loading...
Loading