023: DNA (DNA)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2001年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)

B型DNA2重らせん

あなたの身体にあるそれぞれの細胞は約1.5ギガバイトの遺伝情報を持っている。この情報量はCD ROM2枚、あるいは小さなハードディスクドライブをいっぱいにするだけの量に匹敵する。驚くべきことに、この情報は適切な卵細胞にある時、呼吸をし考える完全なヒトを作り上げるのに十分な量の情報となる。国際ヒトゲノム配列プロジェクトの成果によって、現在この情報を見ることができる。大部分の生物学研究社会だけでなく、あなたもこの情報の複雑さに驚き、その意味を理解しようとすることができる。また同時に、ヒトの身体の複雑さに比べた時のこの情報の単純さに驚くこともできる。

読み取り専用メモリ(ROM)

DNAは読み取り専用のメモリ(記憶媒体)で、細胞内に安全に保管されている。遺伝情報はDNA鎖の中に規則正しく納められている。DNAは何百万個ものヌクレオチドが連なった長い鎖でできており、多くの場合相手となる鎖と組になって存在している。これらの鎖はお互いに包み合って、右図のようなよく知られる二重らせんの形をとる。この中の遺伝暗号は極めて簡単に読むことができる。あなたはDNA鎖を1ヌクレオチドずつたどり、塩基がA、T、C、Gのいずれであるかを読み取りさえすればよいのである。この作業はあなたの細胞が正確に行っている。細胞はメッセンジャーRNAに遺伝情報を読み取り(DNAに情報をコピーして)、その情報に基づきリボソームを使ってたんぱく質を作り出している。またこの方法は研究者がDNA鎖の配列を決定する方法でもある。彼らは1つずつヌクレオチドを切り取り、それが何であるのかを確かめている。

あなたの相続財産

あなたの遺伝情報は、両親から受け継いだ、あなたにとって最も大切な財産である。人生最初の9ヶ月間あなたの身体形成を指示し、その後も生命の基本的な機能の全てを制御し続けている。あなたの身体を構成する各細胞は絶えずこの情報を使い、血糖値や体温をどのように制御するのか、いろいろな食べ物をどのようにして消化するのか、新しい環境における課題をどう処理するのか、などその他にも何千とある重要な問題を尋ねている。その答えはDNAの中にある。この情報交換のため、何百種類ものたんぱく質が作られる。あるものは情報を読み取り新しいたんぱく質を作るために、あるものは細胞分裂の際情報をコピーするために、あるものはDNAが活発に使われていない時に貯蔵して保護するために、あるものは化学物質や放射線によってDNAが破壊され始めたとき情報を修復するために。

中心的象徴

DNAは生きた細胞の中にある最も美しい分子の一つと言ってほぼ間違いないだろう。その優雅ならせんは目を楽しませてくれる。またDNAは最もよく知られている分子の一つでもあり、みんなが簡単に認める分子生物学の中心的象徴である。人によっては、遺伝的に改変された産物に対抗する活動家の間で普及している象徴として、否定的な含みを持つように聞こえるかもしれない。また、よく最近話題となる裁判で使われるDNA鑑定(DNA指紋法)のような犯罪科学上の進歩を思い出す人もいるかもしれない。恐竜を作ったり、異星人からの謎めいたメッセージを保存したりするためDNAが修正されるのを空想科学小説(SF)で見た人もいるかもしれない。全てにとってDNAとは、人体やヒト近縁種への理解を深めることと、DNAの知識に直面した時解決しなければならない道徳的、倫理的問題に対するよく知られた象徴である。

分子の情報

DNA二重らせん(左)とその部分拡大図(右)、赤矢印は塩基対を形成する水素結合、AとDは遺伝外情報における水素結合受容体と水素結合供与体、矢印とアスタリスクは特徴的な化学基を示す。

DNAは情報の蓄積と読み出しにとっては完璧である。DNAには情報がいっぱい詰め込まれている。分子の表面および末端はそれぞれ情報を保持している。DNAが遺伝情報を保持し伝えているという基本的機構が、1950年代にワトソン(Watson)とクリック(Crick)によって発見された。この基本情報は、二重らせんの相手鎖にある塩基と対合させ相補的な水素結合を形成する方法で保持されている。なお、対合する組み合わせはアデニン(adenine)とチミン(thymine)、グアニン(guanine)とシトシン(cytosine)である。上図ではこの水素結合を赤い矢印で示している。

追加の「遺伝外」情報は、二重らせんの中あって外に露出している表面から読み取られる。主要な溝(左に示す構造中にある2つの溝のうち広い方)では、異なる塩基対が特徴的なパターンの化学基を持っていて、そこには情報が保持されている。上図右の拡大図では緑の矢印で示されている。また図には、アデニン-チミン塩基対にある大きなグループ(大きなアスタリスク)またはグアニン-シトシン塩基対にある小さなグループ(小さなアスタリスク)に加え水素結合の供与体(donor, D)と受容体(acceptor, A)も示されている。小さい方の溝には、別の化学基の配列があって、そこには追加情報が保持されている。上図右では青い矢印、上図左では青い文字で示されている。PDBでは何百個ものエントリーでそのことが明らかにされており、この遺伝外情報は二重らせんをほどかずDNAの遺伝情報を読み取るたんぱく質によって利用される。その情報はDNAを攻撃する多くの毒物や薬剤の対象ともなっている。

テーマの変化

A-DNA(左:PDB:1ana)、B-DNA(中央:PDB:1bna)、Z-DNA(右:PDB:2dcg)

生きた細胞で見られる典型的条件下において、DNAは「Bらせん」とよばれるなじみのある滑らかな二重らせんの形をとる。左図中央に示したのが、PDBエントリー 1bna の結晶構造によって明らかにされたBらせんの例である。この図は上部にある構造を重ね合わせて理想的なBらせんを作ったものである。ところがDNAは、別の条件下ではまた違った構造をとることができる。2つの結晶構造が早くに明らかとなっており、一方は左に示した PDBエントリー 1ana 、もう一方は右に示した PDBエントリー 2dcg である。左に示した構造は、塩基が傾いて深く大きな溝を持つ構造で、A-DNAと呼ばれる。この構造は脱水条件下で形成される。またRNAもこの構造をとることが多い。なぜならRNAはDNAよりも糖の水酸基が多く、これが邪魔をして安定なB型を作ることができない(例えば、以前の今月の分子で紹介した 運搬RNA のらせん構造を見て欲しい)。右に示す構造は、A-DNAやB-DNAとは逆方向にねじれており、Z-DNAと呼ばれる。この構造は高濃度の塩がある条件下で見られ、しかもシトシン-グアニン塩基対とグアニン-シトシン塩基対が交互に何度も現れるという特別な型の塩基配列を必要とする。

構造をみる

B-DNA(PDB:1bna)分子上部にはらせんのゆがみが、分子下部には塩基のねじれば見られる。

我々はDNAは完全で、滑らかな二重らせんであると考えることが多い。ところが実際は、DNAには多くの局所構造が見られる。ここに示したDNAの小さな断片は PDBエントリー 1bna の構造で、よく見られる変異を示している。上部では、らせんが左に曲がり、らせんが結晶の中に押し込められてゆがんでいる。下部では、2つの塩基が大きくねじれて、1つの完全な平面上にはない状態になっている。この状態が、お互いの鎖に沿って鎖上部に塩基を積み重ねる方法を改善し、二重らせん全体を安定化させる。DNA構造の研究が進むにつれ、DNAは動的な分子で、かなり柔軟性があり、DNAと相互作用するたんぱく質によって曲げられ、ねじられ、むすばれたり解かれたりされ、ほどかれたり巻き直されたりされることが明らかになってきた。

詳細条件検索を使ってRCSB-PDBでDNA構造を探すには、「Molecule / Chain Type」で「Contains DNA」でYESを選択し、その他はNOを選択して下さい(PDBjの場合は「Contains Chain Type」で「polydeoxyribonucleotide」をYesに、その他をNoに設定して検索を行って下さい)。2001年11月時点でPDBに登録されていた全てのDNA構造のリストをこちらのリストに掲載しています。

DNAについて更に知りたい方へ

B-DNA

以下の文献も参照して下さい。

  • Richard E. Dickerson (1983) The DNA Helix and How it is Read. Scientific American 249 (December), pp 94-111.
  • Wolfram Saenger (1994) Principles of Nucleic Acid Structure (Springer-Verlag, New York).
  • The Nucleic Acid Database, http://ndbserver.rutgers.edu/



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