022: 光化学系I (Photosystem I)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2001年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0)

辺りを見渡して欲しい。大体どこへ行っても、何かしら緑が見られるだろう。植物は地球を覆い、その小さないとこである藻類(algae)や光合成細菌(photosynthetic bacteria)はほぼあらゆる場所で見られる。これらの生物はあらゆる場所で忙しく二酸化炭素を糖に変換し、空気から生体有機分子を作っている。この際、日光のエネルギーを動力源として利用している。この光合成(photosynthesis)と呼ばれる過程によって、残り全生物の基本的な材料を提供している。

光を捕らえる

光合成の中心にあるのは光合成反応中心(photosynthetic reaction center)と呼ばれる一群のたんぱく質である。これらのたんぱく質は個々の光子を捕らえ、糖を作るための動力源として使っている。その一例が、ここに示した光化学系I(photosystem I、PDBエントリー 1jb0 )で、シアノバクテリア(cyanobacteria)、藻類、植物によって利用されている2つの大きな反応中心のうちの1つである。光化学系Iは3つのサブユニットで構成される3量体で、大きな円盤を形成している。細胞内では、この複合体は膜の中に浮かび(膜は下の図では赤い2本の線で示されている)、大きな平面を膜の上下に露出させている。

色彩豊かな補因子

光化学系Iを構成する3つのサブユニットはそれぞれが12個のたんぱく質が集まった複合体で、一緒になって100個以上の補因子を補助し、位置を決める。緑と橙で示す補因子は複合体の周りに露出し、残りの多くは内部に埋まっている。補因子は小さな有機分子で、たんぱく質分子単独での能力を上回る化学的な仕事を行うのに用いられる。光化学系Iの補因子の中には、鮮やかな緑のクロロフィル(chlorophyll)や橙色のカロテノイド(carotenoid)のように小さく鮮やかな色をした分子もたくさん含まれる。実はこの色が、これらの分子が役に立つことを示す根拠となっている。その色は、他の色が補因子によって強く吸収されたことを示しているのである。例えばクロロフィルは青と赤の光を吸収し、我々に見える鮮やかな緑を残す。これらの吸収された色から得られたエネルギーは光合成を行うために捕らえられる。

電子伝達系

シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0)緑はクロロフィル、橙はフィロキノン、赤と黄色は鉄硫黄クラスター

光化学系Iの中心は電子伝達系(electron transfer chain)、緑で示したクロロフィルの鎖、橙で示したフィロキノン(phylloquinone)、そして上部に黄色と赤で示した3つの鉄硫黄クラスター(iron-sulfur cluster)である。これらの補因子は光から得られたエネルギーを細胞が使えるエネルギーへと変換する。まず下にある2つのクロロフィル分子が光を捕らえる。捕らえられると、電子が励起されてより高いエネルギー状態になる。通常この電子は、熱やややエネルギーが低い別の光子を放出して速やかに減衰する。ところが、光化学系Iはこの減衰が起こるより前に励起された電子を上の補因子鎖に渡す。上部で、電子が小さなフェレドキシン(ferredoxin)たんぱく質(ここでは示していない)に渡され、光合成の他の段階へと運ばれる。一方下部では、このさまよっている電子によってできた正孔(hole)が別のたんぱく質(プラストシアニン、plastocyanin)からの電子によって満たされる。

これは割に普通なことのように見えるかもしれない、光化学系が行う策略を見るまでは。光化学系の前後にいるたんぱく質、フェレドキシンとプラストシアニン、は注意深く選択される。それらが持つ補因子の特別な設計のため、プラストシアニンに電子を付加するよりフェレドキシンに電子を付加する方が難しい。通常、反応はこの逆方向に流れる。ところが光化学系Iは光からのエネルギーを電子へのエネルギー供給に使って、反応の進みにくい方向へ反応を進める。そして、電子はそんなエネルギーの豊富な場所にあるので、二酸化炭素から糖を作り出すようなやりにくい仕事を行うのに使うことができる。

光合成のいとこ

左:シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0) 右:紅色細菌の光合成反応中心(PDB:1prc)

光合成生物によって異なる光化学系が使われている。高等植物、藻類、細菌の一部はここで紹介する光化学系I、そして 光化学系II と呼ばれる2つ目の機構を持っている。低分解能の光化学系IIの構造をPDBエントリー 1fe1 で見ることができる(ここには示していない)。光化学系IIはプラストシアニンの代わりに水を電子供与体として使い、エネルギーを与えられた電子が反応系に移ってできた正孔を埋める。光化学系IIは水分子から電子をつかみ取ると、水を分解して酸素ガスを放出する。この反応が我々の呼吸で使う酸素全ての源となっている。また上図右に示すようなより小さな光合成反応中心(PDBエントリー 1prc )を持つ光合成細菌もいる。この場合も光化学系Iと同様に、多くのクロロフィルやその他の補因子が光によってエネルギーを与えられた電子をエネルギー電子運搬体に転送する。

光の取り込み

シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0)、補因子だけを色表示したもの

もちろん植物は、反応中心の真ん中にある小さな1個のクロロフィル分子に光子が入ってくるというか少ない機会だけに依存している訳ではない。生命における全てのことと同じく、細胞はより良い方法を見いだしてきた。ここまで見てきた光化学系Iは、電子伝達系(上図の色づけした部分)を3つのサブユニットそれぞれの中心に持っている。各サブユニットは濃密なクロロフィルの環と、アンテナとして働くカロテノイド(carotenoid)分子によって取り囲まれている。この図では、補因子だけが見えるようたんぱく質は透明にしてある。これらのアンテナ分子はそれぞれ光を吸収し、隣接する分子へエネルギーを転送する。こうして速やかに全てのエネルギーは3つの反応中心へと集まり、それを捕らえて活性化された電子を作り出す。

構造を見る

光化学系の電子伝達系(PDB:1jb0)

PDBエントリー 1jb0 では電子伝達系とアンテナの光化学系I補因子がたくさん見られる。このエントリーのファイルには3つあるサブユニットのうちの1つしか含まれていないが、それでも十分複雑であることが分かるだろう。補因子だけを表示すると、上に示したような図になるだろう。この図は電子伝達系を中心にして空間充填(spacefill)表現で表示したものである。2個の特有なクロロフィル分子(1140番と1239番の残基)も空間充填表現で示し、緑色をつけている。これら2つのクロロフィル分子は中央にある反応中心と周囲を取り囲むアンテナにある多くの分子との間の橋渡しとしての役割を果たす。ここでは多くのアンテナ補因子が、結合を線で示した表現(ワイヤーフレーム表現)で示されており、各クロロフィルの中心には小さな球で示したマグネシウム(magnesium)イオンを伴っている。

電子伝達系の残基番号はクロロフィルが1011〜1013、1021〜1023、フィロキノンが2001〜2002、鉄硫黄クラスターが3001〜3003です。 2001年10月にPDBに登録されていた光化学系I全ての構造一覧を開く

光化学系Iについてさらに知りたい方へ

シアノバクテリアの光化学系I(PDB:1jb0)

以下の参考文献もご参照下さい。

  • Parag R. Chitnis 2001 Photosystem I: function and physiology. Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology 52 593-626
  • Patrick Jordan, Petra Fromme, Horst Tobias Witt, Olaf Kuklas, Wolfram Saenger and Norbert Krauss 2001 Three-dimensional structure of cyanobacterial photosystem I at 2.5 A resolution. Nature 411 909-917
  • Navassard V. Karapetyan, Alfred R. Holzward and Matthias Rogner 1999 The photosystem I trimer of cyanobacteria: molecular organization, excitation dynamics and physiological significance. FEBS Letters 460 395-400



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