019: アクチン (Actin)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2001年7月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)

分子基盤

アクチン線維

細胞の複合超構造(形状および内部構造)および細胞の動きは、主としてアクチン線維(actin filament)により支えられている。交差しもつれ合ったアクチン線維は、動物細胞、植物細胞、菌類細胞の細胞質を満たし、細胞の形状を維持し組織の骨格を作る「細胞骨格」(cytoskeleton)を形作っている。強く束ねられたアクチン線維は、細胞表面から構造を押し出してできた強固な骨格を作っている。アメーバが這って移動する際に使う擬足(pseudopod)や、腸細胞にある指のような構造で腸管内に向かって伸び栄養分を吸収している微絨毛(microvilli)などがその例として挙げられる。また前月の今月の分子で紹介したように、アクチンは ミオシン (myosin)が登る「はしご」も作っていて、筋肉収縮のための基盤構造を提供し、日々の生活で経験している動きを作り出している。アクチンは身体中で豊富に存在し、基本的な構造に関する仕事を行っている。標準的な細胞では含まれるたんぱく質の5%、筋肉細胞のように特殊な場合では含まれるたんぱく質の5分の1がアクチンで占められている。

動的な分子

アクチンは、珍しく強さと敏感さの両方を兼ね備えている分子である。アクチン線維は、多くの労を要する構造的仕事に使われるが、それと同時に簡単に頻繁に解体されるものでもある。アクチンの大きな特徴の一つはその動的な性質にある。アクチン線維は、その時々の細胞変化の必要に応じて頻繁に構築と破壊が行われている。筋肉のアクチンや微絨毛中にあるアクチンの束のように特別な場合では、専門のアクチン結合たんぱく質群によって線維は安定化し、より恒久的な構造となる。一方通常の細胞におけるアクチンの多くは常に流動しており、新たな仕事を行う度に絶えず線維の構築と破壊を行っている。

アクチンの動的な性質は、各アクチン単量体に結合するATP分子によって制御されている。ATPの状態はアクチン線維の安定性を左右している。通常、遊離状態のアクチンはATP分子を捕らえて強く結合しており、線維を成長させる。そして線維に付加されるとATPは分解され、アクチンは少し形が変化する。このADPが結合した新たな型は、線維中ではあまり安定ではなく、より簡単に分離する。この振る舞いにより生じる珍しい結果の一つが「トレッドミル現象」(treadmilling)である。アクチン線維は絶えず一方の末端部分で新たな部分を作り出しており、そこでは新たなアクチン-ATP複合体が線維との間に強い結合を作っている。一方これと同時に逆の末端では少しずつ解体が行われており、こちらではアクチン-ADP複合体が線維と作る結合は弱められている。線維が一方の末端では成長し、もう一方の末端では分解されしている様子を想像してみて欲しい。この方法によって構造全体としては細胞内をゆっくり歩むことになり、長くも短くもならないのである。

制御された成長

アクチン(青)とその切断たんぱく質(左:ゲルゾリン(橙)PDB:1yvn、右:プロフィリン(赤)PDB:1hlu)

もちろん、細胞は細胞質の至るところで制御の効かない成長をするアクチン線維を持つ訳にはいかない。タマゴテングダケ(death cap mushroom)が持つ毒素であるファロイジン(phalloidin)は、このような線維が細胞内にあれば何が起こるのかをはっきり示している。ファロイジンはアクチンの成長を促し、最終的には堅くなったアクチン線維で細胞の中が詰まってしまう。軽率にも毒キノコを食べてしまったきのこ愛好家は、この作用によって肝臓と腎臓に致命的な障害を引き起こすことになる。細胞内では様々なアクチン切断たんぱく質がアクチンの成長を制御し、線維の成長が必要な時にのみ行われるようにしている。ここに2つのアクチンを監視する分子を示した。青で示すのはアクチン、緑で示すのはATP、そして赤と橙で示すのはアクチン結合たんぱく質である。上図左に示すゲルゾリン(gelsolin、PDBエントリー 1yvn )は、カルシウム濃度が高まるとアクチン線維を短い断片へと分解する。そしてゲルゾリンはアクチンの末端に結合した状態を維持し、更なる線維の成長を妨げる。上図右に示すプロフィリン(profilin、PDBエントリー 1hlu )は遊離状態のアクチンに結合し線維に付加できないようにする。こうしてゲルゾリンと同様にアクチン線維の成長を妨げる。どちらもアクチン単量体の似た位置に結合して、線維が隣接するアクチン分子と結合する部位の一部を阻害している。

構造をみる

結晶化のため他分子を結合させたアクチン(左:DNA切断酵素(赤)PDB:1atn、右:ミオシンモーター(赤・橙))PDB:1alm)

アクチンのように大きならせん状のたんぱく質集合体は、結晶学によって研究するのは難しいことでよく知られている。なぜなら線維は完全な結晶を作らないからである。そのため、PDBに登録されているアクチンの構造は全て何らかの分子が結合していて、線維の形成を阻害してあるものとなっている。これら構造にはアクチン線維全体は含まれず、1つのアクチン分子だけが含まれる。上図左(PDBエントリー 1atn )にはアクチンに結合するだけのためにあるDNA切断酵素(赤色)が含まれている。アクチンはU字型の分子で、ATP(球を使った空間充填表現で示す分子)が2つの腕の間にある溝の奥深くに結合している。上図右(PDBエントリー 1alm 、電子顕微鏡によるデータに基づく理論モデル)は ミオシン モーター(myosin moter、赤と橙で示す部分)が5分子から成る短いアクチン線維(青)に結合したものである。なお、このエントリーのファイルにはたんぱく質のα炭素の位置しか含まれていないので、ここに示すように主鎖表現図を使って構造を見る必要がある。

2001年7月時点でPDBに登録されていたアクチン一覧を開く

参考文献

アクチン線維
  • Wolfgang Kabsch and Joel Vandekerckhove 1992 Structure and Function of Actin. Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure 21 49-76



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