001: ミオグロビン (Myoglobin)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2000年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
ミオグロビン(PDB:1mbn)

最初のたんぱく質の構造

いかなるたんぱく質の構造に関する議論もミオグロビン(myoglobin)から始めない訳にはいかない。なぜなら、たんぱく質構造科学は実際にミオグロビンから始まったのだから。ジョン・ケンドリュー(John Kendrew)と彼の共同研究者たちは長年の困難な研究の末にミオグロビンの原子構造を決定し、これによってたんぱく質を生物学的に理解する時代の基礎を作った。その最初に見えたたんぱく質の構造はPDBエントリー 1mbn で見ることができる。この分子をよく見るか、もしくはPDBエントリー 1mbn の情報を直接見て欲しい。1960年にこのような美しく複雑なたんぱく質の構造が解かれていたことに驚かされることだろう。

ミオグロビンとクジラの筋肉

ミオグロビンは小さくて利口な赤いたんぱく質である。筋肉細胞(muscle cell)で非常によく見られ、主にこれによって肉は赤い色になっている。ミオグロビンの仕事は、酸素を貯蔵し筋肉が激しい仕事をした時使えるようにしておくことである。ジョン・ケンドリューのPDBファイルを見れば、このミオグロビンはマッコウクジラ(sperm whale)の筋肉から得られたことに気づくだろう。想像の通り、海のクジラやイルカ(dolphin)はミオグロビンを非常に必要としている。それによって深海に潜る際に使う予備の酸素を蓄えることができる。

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ミオグロビン(PDB:1mbn)ヘムと水が示されている
ミオグロビン(PDB:1mbn)ヘムの鉄原子が示されている

ジョン・ケンドリューが解いた元々のミオグロビンの構造はPDBエントリー 1mbn に登録されている。この構造には1本のたんぱく質鎖、1個のヘム基(heme group)、ヘム鉄のそばにある1個の水分子、そして硫酸イオン(sulfate ion)が含まれる。硫酸イオンは無視して欲しい。単にくっついてきただけのものだから。この構造においていくつか見るべきところがある。たんぱく質鎖は短い環でつなげられたばね形のαらせん(alpha-helix)でできている。この鎖は平らなヘム基を取り囲んでいる。ヘム基の中央には鉄原子(iron atom)があって、4つの青い窒素原子に囲まれているのが見える。この構造のファイルには鉄に結合した酸素はないが、水分子が鉄の上に赤い球で示されている(ファイルには水素原子は含まれていないので、「H 2 O」の「O」だけしか見ることができない)。

ミオグロビンに結合した酸素

酸素と結合したミオグロビン(PDB:1mbo)たんぱく質鎖は主鎖表現、ヘムと酸素を空間充填表現で示したもの。
酸素と結合したミオグロビン(PDB:1mbo)全体を空間充填表現で示したもの

後に解かれたミオグロビンの構造(PDBエントリー 1mbo )では酸素の位置が示されている。ヘム基中心にある鉄原子は酸素分子を強く捕らえる。左に示した上下2つの図を見比べて欲しい。上の図はたんぱく質鎖を細い管だけで示しており、酸素を容易に見ることができる。一方、下の図は全ての原子を示してあり、酸素はたんぱく質の中に埋まって見えなくなっている。

もし酸素が完全にたんぱく質によって囲まれているなら、どうやって出入りするのだろうか?実際には、ミオグロビン(他のたんぱく質全てについても言えることだが)常に動いていて、小さく収縮したり、息をしたりする動きをしている。たんぱく質が常に開いたり閉じたりしていることによって、酸素は出入りすることができる。PDBに登録されている構造は、たんぱく質が堅く閉じられた状態を捕らえた1つのスナップショットに過ぎない。そのため、PDBに登録されている動きのない構造を見て、実際自然界に存在する動的な構造を想像しなければならない。

構造の表示方法を切り替えて左図に示したのような2種類の図を自分でも表示し、酸素が構造の中に埋まっていることの確認に挑戦して欲しい。上図はたんぱく質鎖のみを主鎖表現(backbone)で、下図は全体を空間充填表現(spacefill)で表示している。




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