83: フィブリン(Fibrin)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
フィブリン中心部分(中央、PDB:1m1j)と柔軟な腕部分(左右、PDB:2baf)

切り傷をすると血が出るが、すぐに血は止まる。血液には循環系統に損傷があるとすぐにそれを遮断するための組み込み緊急修復機構を持っている。3つの基本的な機構がこの作用を行っている。まず、血小板(血液中を循環している血液細胞の小片)が傷ついた部分に群がり、ゆるい栓を形成する。次に、近隣の血管が収縮し損傷部分の血流を減少させる。最後に、フィブリン(fibrin)タンパク質が集まって血液を固める強固な網状組織となり、不溶性妨害物を形成する。これらの過程が一緒になって血液の流出を止め、損傷部位が治癒するよう保護するための丈夫なかさぶたを形成する。

守りの準備

フィブリンは通常フィブリノーゲン(fibrinogen)と呼ばれる不活性型で存在している。フィブリノーゲンは水溶性で血中に高濃度で見られ、そこで血栓を作る必要が生じまで待機している。血栓形成の合図があると、フィブリノーゲンはフィブリンに変換され、集まって線維が広がった網状構造となる。これによって通常は液状の血液がゲル状の固体へと変わり、乾いてかさぶたを作る。もちろん、切り傷のある場所だけに線維が集まって網状構造になり、その他の場所ではそうならないことが非常に重要である。なぜなら血液は身体の他の部分では流れ続けなければならないからである。よく調整された血栓形成の制御は、以前の記事で紹介した一連の専門タンパク質(25番のトロンビンと75番の組織因子)によって行われている。

柔軟なフィブリン

フィブリンは大きくて柔軟性のあるタンパク質で、6本のタンパク質鎖で構成されている。いくつかの柔軟な部分があるため研究は難しく、PDBにある構造の多くは分子の一部分だけの構造である。ここに示した図は2つのPDBエントリー の構造を使って描いている。分子の中央部分はPDBエントリー 1m1j、左右両側にある2つの柔軟な腕はPDBエントリー 2baf中央に点線で示した4つの短い鎖は、残念ながらこの構造分析で見ることはできないが、フィブリンの活性化の重要な部分である。この4鎖の末端はトロンビンにはさまれていて、不活性なフィブリノーゲンを活性状態のフィブリンへと変換している。後述するように、これらの柔軟な鎖はこの後、多くのフィブリン鎖をくっつけて原線維にする結合をつくる。

原線維の形成

フィブリン分子間の相互作用(PDB:1fzc)

一旦フィブリンが活性化されると、集まって強固な原線維を形成するようになる。上図に示したのはPDBエントリー 1fzcの、フィブリンの頭同士が結合した構造である。中央の鎖が手を伸ばして、隣接するフィブリン分子の大きな球状の頭にある窪みに結合している(赤い点線)。この頭同士の相互作用は交差することによって血栓中でより強固になり、相互作用を恒久的なものにする。最終的には、橙色の点線で示したより長い鎖が隣接する原線維に伸びて、緑で示した小さな窪みに結合し更に大きな構造を形成する。

構造を見る

フィブリンがトロンビンによって活性化される過程(PDB:2a45)

PDBエントリー 2a45は、フィブリンがトロンビンによって活性化される過程を示している。この構造に含まれているのはフィブリンの中央部分だけである。そのため、左右に伸びている分子の残りの部分は想像しなければならない。トロンビン(青)はフィブリノーゲンにある中央の取っ手の両側に結合する。結合位置は、切断される必要のある柔軟な鎖のごく近くにある活性部位のある場所である。小さな緑色の分子はトロンビンの活性部位に結合した阻害剤である。

フィブリンについて更に知りたい方は、"fibrin" のキーワードでPDBエントリーを検索した結果を参照のこと。また、遺伝的視点から見た追加情報が、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)の「今月のタンパク質」で提供されているので合わせて参照いただきたい。

フィブリンについてさらに知りたい方へ

当記事を作成するに当たって用いた参考文献を以下に示します。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2006年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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