35: フェリチンとトランスフェリン(Ferritin and Transferrin)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
フェリチン(PDB:1fha)下図は上図を中央で切って中が見えるようにしたもの

鉄(iron)は地球上に至るところで見られるため、生きた細胞が様々な方法で鉄を利用するのは何ら驚くべきことではない。私たちは鉄を身体中でいろんな仕事のために使っている。鉄は酸素などの小さな分子と強く特異的に結合し、これらのつかまえにくい分子を操作するための欠かせない道具を作る。鉄イオンは簡単に二価イオン(ferrous)と三価イオン(ferric)両方の型を行き来し、個々の電子を扱う手軽な道具を提供している。しかし、鉄イオンは私たちの現代における生物学的環境において大いなる問題を提起している。水で満たされている細胞と空気中の酸素が協同して、鉄イオンを三価イオン状態にするが、これは大変水に溶けにくく、さび様の酸化物を作り出してしまう。細胞は鉄イオンをどうにかして隔離し、必要な量を貯蔵し供給できるようにしておかなければならない。この仕事を行っているのがフェリチン(ferritin)とトランスフェリン(transferrin)である。

鉄の貯蔵

細胞内における余分な鉄イオンは、フェリチンによるタンパク質の殻の中へ安全に閉じこめられている。ここではPDBエントリー 1fhaから得られたフェリチンの構造を図示した。フェリチンは24個の同じタンパク質サブユニットが集まって中空の構造を形成している。右図下に示した図は、中空の殻を真ん中で半分に切断し、容器の内部およびそこに続く数個の穴が見えるようにしたものである。鉄イオンはフェリチンの殻に入ると、三価イオン状態に変換され、リン酸イオン(phosphate ion)および水酸化物イオン(hydroxide ion)と共に小さな微結晶を形成する。この殻の内部には約4500個の鉄イオンを収納できる部屋がある。

豊富な鉄

私たちの体内には約3.7gの鉄があり、それを食物から苦労して集めている。そのうち約2.5gは血液中のヘモグロビン(hemoglobin)の中にとらえられ、酸素の輸送を助けている。これは有用で欠かすことのできない鉄の供給源であるため、この鉄を再利用する特別な機構が開発されてきた。また別の10分の何gかはミオグロビン(Myoglobin)にあって、ここでも酸素の管理を助けている。そして非常に少量(約0.02g)が、私たちの細胞に供給されるATPの大半を生産する電子伝達系(electron transport chain)タンパク質など電子を輸送する様々なタンパク質に配分されている。残り約1gは将来の必要を満たすためフェリチンの中に蓄えられている。

鉄イオンの輸送

上:鉄の炭酸塩を含むトランスフェリン(PDB:1h76) 下:トランスフェリン受容体(PDB:1cx8)

鉄イオンはタンパク質のトランスフェリン(右図上の青い分子、PDBエントリー 1h76)によって血中に供給される。トランスフェリン分子はそれぞれ2個ずつ鉄イオン(茶色)を運んでいる。各鉄イオンは炭酸イオン(carbonate ion、赤と白)と結合している。タンパク質は鉄イオンと4つの結合を形成するよう完全に配置された一連のアミノ酸を持っており、これによって鉄イオンはこの位置に固定される。トランスフェリンは鉄原子を見つけると、細胞表面にあるトランスフェリン受容体を見つけるまで血液中を流れ続ける。なお右図下に示したのがPDBエントリー 1cx8から得られたトランスフェリンの構造であるが、このエントリーのPDBファイルには細胞外部分の座標しか含まれていないため、残りの部分は模式図で示している。トランスフェリンは受容体を見つけると強く結合し、細胞に小胞を引き入れる。すると細胞がこの小胞の内側を酸性化することにより、トランスフェリンは鉄を解放する。そして受容体と空になったトランスフェリンは細胞の外側へと戻り再利用される。血中の中性pHがきっかけとなって受容体は空のトランスフェリンを解放し、鉄を集める仕事は続けられる。

PDBデータベースを検索すると、ラクトフェリン(lactoferrin)やオボトランスフェリン(ovotransferrin)といったトランスフェリンと似た分子が見つかるだろう。これらの分子はそれぞれ牛乳、卵白に見られる分子で、トランスフェリンと同様に鉄と強く結合する部位を持っている。ところがこれらの主な機能は鉄の供給ではない。これらは細菌から細胞を守る役目をしている。遊離状態の鉄イオンを取り除くことにより、細菌の生命維持に必要なものが不足させ、感染の成長を遅くさせている。

構造をみる

3回対称軸の構造を持つフェリチン穴(PDB:1mfr)

鉄原子をフェリチンに取り込み、またここから取り出す方法についてはまだよく分かっていない部分がある。多くの研究者は24個のサブユニットの間にある小さな穴を通って鉄原子は入ると考えている。このページの最初に4回対称軸の位置に穴があることを示した。ここでは、3回対称軸の位置の1つが真ん中にあることを示す。一旦鉄原子が中にはいると微結晶が形成され、大きすぎて穴を戻って出ることができなくなる。つまり鉄原子を解放するには、複合体全体を解体しなければならなくなる。

ここに各自で構造を見る際のヒントを示す。ここに示した構造(ウシガエルのフェリチン、PDBエントリー 1mfr)は24個の鎖全てを含むが、ヒトやウマのフェリチン関するPDBエントリー (PDBエントリー 1aewなど)には1個のサブユニットしか含まれていない。この場合、生物学的分子(biological molecule)を作って見る必要がある。

フェリチンとトランスフェリン に関するPDBエントリーを検索した結果はこちらで参照できます。

フェリチンとトランスフェリンについてさらに知りたい方へ

以下の参考文献もご参照ください。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2002年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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