このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」2017年2月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧下さい。
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:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
5種類の動物に由来するミオグロビンの配列を比較してつくった系統樹。ヒトのタンパク質との違いが分かるよう色分けされている。同じアミノ酸が使われている箇所はピンク色、異なってはいるが似たアミノ酸が使われている箇所は薄いピンク色、全く異なるアミノ酸が使われている箇所は白色で示している。またヘムは濃い赤色で示している。系統樹の計算は phylogeny.fr のオンラインサーバを使って行った。図示している構造のPDBエントリーはPDB:3rgk、1ymb、1mbo、1lhs、2nrl。
5種類の動物に由来するミオグロビンの配列を比較してつくった系統樹。ヒトのタンパク質との違いが分かるよう色分けされている。同じアミノ酸が使われている箇所はピンク色、異なってはいるが似たアミノ酸が使われている箇所は薄いピンク色、全く異なるアミノ酸が使われている箇所は白色で示している。またヘムは濃い赤色で示している。系統樹の計算は phylogeny.fr のオンラインサーバを使って行った。図示している構造のPDBエントリーは 3rgk1ymb1mbo1lhs2nrl

チャールズ・ダーウィン (Charles Darwin)が進化説を考案した時、細胞内部での働きについてまだ多くのことが分かっていなかった。生物集団は自然選択の下で進化するという彼の画期的な考えは、周囲で目にした動植物の観察に基づくところが大きかった。進化の内部的なしくみは、後になって遺伝情報、親から子への遺伝、変異について詳しいことが解明されてから分かってきたものである。今日では、豊富なデータにふれ、進化の背後にあり基礎となる分子生物学を見て理解することができる。

生命の樹

生物学者が生物を詳しく見始めた当初から、地球上に生息しているあらゆる生物は何か関係していることは明らかだった。多くの共通する特徴を持つウマとウシのように近縁なものもあれば、ヒトデとゾウのようにかなりの違いがある縁遠いものもいる。どれだけ似ているのかを詳しく分析して 生命の樹 ( 系統樹 )というものがつくられた。これは似た生物を同じ枝に集め、似ていない生物は離れた枝に配置して描いた樹形の図である。今日、これら生物の遺伝配列を調べることにより、この図をより定量的に描くことができるようになっている。遺伝配列の違いが蓄積していく速度と生物進化の速度がおおよそ等しいと仮定するなら、その遺伝配列がどれだけ違うかという情報に基づいて系統樹をつくることができる。

グロビンの進化

この種の樹形図をかく上で必要となるのは、研究対象としている全ての生物にとって不可欠なタンパク質である。このタンパク質に対応する遺伝子は対象生物全てが持つことになる。ここに示す系統樹はタンパク質の ミオグロビン (myoglobin)を使い、対象を脊椎動物に限定して描いたものである。見ての通り、我々と最も近縁な[哺乳類 ほにゅうるい]のミオグロビンは我々のものとかなり似ているが、[爬虫類 はちゅうるい]や魚類になると分化からより長い時間が経っており違いはより大きくなっている。タンパク質合成やエネルギー代謝の中心機構のようにより不可欠な生体分子を使い、対象を細菌からヒトまで広げて系統樹をつくることもよく行われている。

グロビンの変異

ダーウィンの進化説は、生物群がさまざまな特徴を持つ個体で構成されていて、その特徴の中にはある特定の環境下において有利となり選択されるものがあるという考えに基づいている。この多様性は、ゲノムが変異し機能がわずかに変化したタンパク質ができることによって生み出される。この種の変異に関する事例はたくさんあり、PDBに登録されたデータの中からも多数挙げることができる。例えば、水生哺乳類が持つミオグロビンは一般的なミオグロビンよりも高密度に詰め込むことができ、より多くの酸素を蓄えて長時間の潜水に役立てることができる。また、1ヶ所の変異によって生み出されるヒト鎌形赤血球 ヘモグロビン (hemoglobin)は病気を引き起こすが、同時にマラリア感染に対する抵抗性を高めてくれる。

進化のしくみ

図上部のUCSCゲノムブラウザが示すとおり、β様ヘモグロビン群の遺伝子はヒトゲノムの染色体11番上にある。分子構造をみると、これらはいずれもよく似ていて小さな変異があるだけということがわかる。しかしこの違いが胚、胎児から大人に至るまでそれぞれの段階に見合った機能を持つような変異を生み出してる。一方図下部に示す4つのグロビンはβ様ヘモグロビンとかなり異なる配列を持ち、それを反映して持っている機能も異なっている。ここに示す構造はPDBエントリー2hhb、1shr、1i3d、1fdh、1a9w、3rgk、1ut0、1oj6の構造で、いずれもヘモグロビンβ鎖と異なる部分が分かるよう色分けされている。
図上部の UCSCゲノムブラウザ が示すとおり、β様ヘモグロビン群の遺伝子はヒトゲノムの染色体11番上にある。分子構造をみると、これらはいずれもよく似ていて小さな変異があるだけということがわかる。しかしこの違いが胚、胎児から大人に至るまでそれぞれの段階に見合った機能を持つような変異を生み出してる。一方図下部に示す4つのグロビンはβ様ヘモグロビンとかなり異なる配列を持ち、それを反映して持っている機能も異なっている。ここに示す構造はPDBエントリー 2hhb1shr1i3d1fdh1a9w3rgk1ut01oj6 の構造で、いずれもヘモグロビンβ鎖と異なる部分が分かるよう色分けされている。

ゲノム配列とタンパク質の構造をよくみたとき、進化のしくみについてもいくつかわかることがある。例えば、あるタンパク質が進化するというのは想像しにくいかもしれない。なぜなら生物が生きるためには常に活性を保っておく必要があるからである。だがゲノムをみると、この問題は多くの場合ゲノム複製を通して解消されていることがわかる。ある遺伝子の複製をつくり、この複製を使えば生物を傷つけることなく自由に進化させることができる。グロビンの場合、これがはるか昔に繰り返し起こっている。我々のゲノムには、数種類のヘモグロビンβ鎖変異体をコードする遺伝子群がある。例えば、[γ ガンマ]-2遺伝子と[ε イプシロン]遺伝子はヘモグロビンとわずかに違った性質を持つ変異体をコードしていて、胎児や胚の時期だけに必要とされる。他のグロビンではより大きな違いがみられる。ヘモグロビンα鎖、ミオグロビン、そして最近発見された機能がまだ分かっていない2つのグロビンなどはいずれも他の遺伝子の複製から進化してできたものである。

昔のグロビンの再現

マンモスのヘモグロビンは、現在のアジアゾウが持つヘモグロビンと比べ4つのアミノ酸(青で示す部分)が変化している。
マンモスのヘモグロビンは、現在のアジアゾウが持つヘモグロビンと比べ4つのアミノ酸(青で示す部分)が変化している。

特別な条件がそろえば、歴史をさかのぼって生命の進化を調べることができる。シベリアで凍った状態にて見つかったマンモスの骨から得られたDNAを使って、この絶滅種に由来するヘモグロビンのα鎖とβ鎖の遺伝子を再構築し、細菌を使ってタンパク質の合成が行われた(PDBエントリー 3vrf )。マンモスのグロビンの進化は現代のゾウが持つグロビンの進化と極めて似ているが、この小さな変化によって低温でより良く機能することが分かった。またこの配列は、アフリカゾウよりもアジアゾウに近縁な種であるとする他の研究結果を支持する内容となっている。

構造をみる

ヘモグロビンβ鎖の配列保存度(PDB:2hhb)

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。
上の画像をクリックすると画像を対話的操作のできるモードに切り替えることができます。

分子生物学者は、 保存度 (conservation)を使って進化的変異をみることがよくある。不可欠な機能を持つタンパク質の領域は、異なる生物をみても非常に似ている。一方、補助的な役割をしている領域はかなり違っていることも珍しくない。ここに示すヘモグロビン(PDBエントリー 2hhb )β鎖は保存度によって色分けしている。計算は オンラインConSurfサーバ を使い、数百種の生物の配列に基づいて行った。ご覧の通り、サブユニット間の接触やヘムが入る場所の整列に関わる領域は保存度が高い(濃い青で示す部分)。一方、タンパク質の外縁部(白で示す部分)はそれほど保存度は高くない。図の下のボタンをクリックし、対話的操作のできる画像に切り替えるとより詳しくみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. RCSB PDBの 配列・構造アライメント (Sequence and Structure Alignment)や PDBjのASH を使ってPDBに登録されているエントリーの配列や構造を比較することができます。例えば、 ヘモグロビンのα鎖とβ鎖 を比較し、どこが似ていてどこが違うのかを確かめてみてください。
  2. RCSB PDBのProtein Feature Viewにはある特定のタンパク質を別の生物で見つけるための便利な機能を備えています。例えば、 ミオグロビンのProtein Feature Viewページ をみて、画像の横にある小さな青い四角を探してみてください。

参考文献

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  3. 2nrl E. R. Schreiter, M. M. Rodriguez, A. Weichsel, W. R. Montfort & J. Bonaventura 2007 S-nitrosylation-induced conformation change in blackfin tuna myoglobin. Journal of Biological Chemistry 282 19773-19780
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2017-02-01 (last edited: 2 weeks ago)2017-02-08
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