198: β-ガラクトシダーゼ(Beta-galactosidase)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)

β-ガラクトシダーゼは、4本の鎖でできたタンパク質で、4つの活性部位を持っている。各鎖は1023個のアミノ酸でできている。反応物/生成物となるアロラクトース(ピンクと白)が2ヶ所の活性部位にみられる。この構造はX線結晶解析によって解かれた高解像度(1.5Å)の構造に基づいている(PDB:1jz8)。
β-ガラクトシダーゼは、4本の鎖でできたタンパク質で、4つの活性部位を持っている。各鎖は1023個のアミノ酸でできている。反応物/生成物となるアロラクトース(ピンクと白)が2ヶ所の活性部位にみられる。この構造はX線結晶解析によって解かれた高解像度(1.5Å)の構造に基づいている。

β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase、ここに示すのはPDBエントリー1jz8の構造)は細菌がもつ巨大な酵素で、いくつかの細かな作業を行う。そのうちの一つが、エネルギーをつくる最初の反応を行う作業である。牛乳に一般的に含まれている糖の一種ラクトース(lactose、乳糖)をブドウ糖(glucose)とガラクトース(galactose)の2つに分解し、解糖系(glycolysis)で利用できるようにする。また、ラクトースを一旦分解して元とは少し違うつなぎ方でつなぎなおしアロラクトース(allolactose)を作る、という似た別の反応も行う。この切断反応は細菌が生きる上で重要だが、多くの科学的発見にとっても中心的な役割を果たしている。

オペロンの発見

ジャコブ(Jacob)とモノー(Monod)は、β-ガラクトシダーゼをつくることに関する一連の有名な研究で、細菌のオペロン(operon)がどのように働くのかについて明らかにした。アロラクトース(allolactose)は単なる無駄な反応副産物ではないことが分かった。ラクトースが豊富にあるとき、細菌はアロラクトースを使ってはそのことを検知し、lac転写抑制因子(lac repressor)のON/OFFを切り替える信号を出していることを彼らは発見した。ラクトースが豊富にあると、β-ガラクトシダーゼはアロラクトースをつくる。これがlac転写抑制因子に結合するとlac転写抑制因子はDNAから外れる。その結果ラクトースを利用するための酵素や輸送体がつくれるようになる。またβ-ガラクトシダーゼは余分なアロラクトースがあるとブドウ糖とガラクトースに分解する反応も行う。だから何も無駄にはならないのだ。

染料と相補性

β-ガラクトシダーゼは遺伝学の研究に欠かせないツールの一つでもあるが、これは酵素に関する2つの発見が基になっている。一つは、ラクトースのガラクトース部分については非常に特異性が強いが、ブドウ糖部分についてはさまざまな別の構造と入れ替えても働くことの発見である。特に、ガラクトース部分を切断すると青くなる染料の発見がツールとしての活用につながっている。もう一つは、酵素を構成するペプチド鎖の最初20残基程度を除去することにより不活性化できること、そしてこの短くなった酵素は失われた部分を含む小さな相補性ペプチドと結合することにより再び活性を取り戻すことの発見である。

細菌工学

この染料と末尾を除去したβ-ガラクトシダーゼを使って、改変を加えた細菌で何が起こっているかが報告された。相補性ペプチドの遺伝子からプラスミドを作り、末尾が除去された不活性型の酵素を持つ細菌に形質移入する。細胞がプラスミドを取り込んでペプチドが作られると、β-ガラクトシダーゼは活性化し、染料を与えると細胞は青色に変わる。そしてこのプラスミド配列の途中に、ある注目している遺伝子を組み込むよう改変が加えられた。もし新たな遺伝子の追加に失敗していたら、プラスミドによって細胞は依然青色に変わるだろう。成功していたら、相補性ペプチドを壊してしまい細胞に色はつかないだろう。

電子顕微鏡で解かれた原子レベルの構造

β-ガラクトシダーゼのクライオ電子顕微鏡マップ(解像度2.2Å、EMDB:[[EMDB:2984]])

β-ガラクトシダーゼはクライオ電子顕微鏡(cryo-electron microscopy、低温電子顕微鏡)も使って調べられている。氷の中で凍らされた分子の画像90,000枚以上を使ってクライオ電子顕微鏡マップは作成された。このデータは原子モデルを提供できるだけの十分な詳細さをもっている。このマップデータはEMデータバンクエントリー[[EMDB:2984]]で、PDBの原子座標はPDBエントリー5a1aでみることができる。

構造をみる

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β-ガラクトシダーゼの構造によって、相補性ペプチドによる機能補完のしくみが明らかになった。ここにPDBエントリー1jz7の構造を示す。活性部位にはガラクトース分子がある(白とピンクの球で示す部分)。小さな相補性ペプチド(緑と赤紫で示す部分)はタンパク質の中にあるトンネルを通り、活性型の4量体酵素を安定化させる。画像の下のボタンを押して、対話的操作のできる画像に切り替えるとより詳しくこの構造をみることができる。

理解を深めるためのトピックス

  1. 切断反応のしくみは、酵素とさまざまな反応中間体との複合体を使って研究されています。PDBエントリー4v44の類似配列タンパク質をSequence Navigatorで検索し、このような構造をみつけてみましょう。
  2. 大きなβ-ガラクトシダーゼ酵素は、似た反応を行うより小さな酵素から進化したのかも知れません。β-ガラクトシダーゼで検索し、そのような酵素を探してみてください。

参考文献

  1. 5a1a A. Bartesaghi, A. Merk, S. Banerjee, D. Matthies, X. Wu, J. L. S. Milne & S. Subramaniam 2015 2.2 A resolution cryo-EM structure of beta-galactosidase in complex with a cell-permeant inhibitor. Science 348 1147-1151 DOI:10.1126/science.aab1576 PMID:25953817
  2. D. H. Juers, B. W. Matthews & R. E. Huber 2012 LacZ beta-galactosidase: structure and function of an enzyme of historical and molecular biological importance. Protein Science 21 1792-1807 DOI:10.1002/pro.2165 PMID:23011886 PMC:PMC3575911
  3. 1jz71jz8 D. H. Juers, T. D. Heightman, A. Vasella, J. D. McCarter, L. Mackenzie, S. G. Withers & B. M. Matthews 2001 A structural view of the action of Escherichia coli (lacZ) beta-galactosidase. Biochemistry 40 14781-14794 DOI:10.1021/bi011727i PMID:11732897

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2016年6月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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