155: ビタミンD受容体(Vitamin D Receptor)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
ビタミンD受容体と9-シス レチノイン酸受容体(RXR)、リガンド結合ドメインはPDB:1dkf、1db1より、DNA結合ドメインはPDB:1ynw、2nllより

ビタミン(vitamin)は細胞が適切な機能を実行するのに欠かせない体外由来の分子であるが、私たちの身体はどこか進化の過程でビタミンを作る能力を失ってしまった。そのため、自身で作り出す代わりに食物や複合ビタミンの錠剤からビタミンを得る必要がある。ビタミンには、眼で光感知器を作るのに使われるビタミンA、化学反応にとって特別な道具を作るのに使われるビタミンB群、コラーゲン(collagen)の構築に欠かせない役割を果たすビタミンCなどがある。ビタミンDはビタミンの中では例外的な存在で、十分な日光さえあれば私たちの細胞内で作り出すことができる。日光に含まれる紫外線が肌に存在するある型のコレステロール(cholesterol)を分解してビタミンDを作り出す。ところがくもりの天気が続く季節になると、何ヶ月も太陽なしで暮らしていくことになるかもしれない。そうなると自身で作る代わりに食物から摂取することでビタミンDを補うことになる。

カルシウムの制御

ビタミンDは身体内におけるカルシウム濃度とリン酸濃度を制御する上で不可欠な役割を担っている。ビタミンDは腎臓から分泌されるホルモンに変換され、身体全体へと移動して行く。主に腸の細胞と骨細胞に影響し、前者ではカルシウムの取り込み制御を、後者では骨格の形成と維持の制御を助ける。

ホルモンの受け入れ

ビタミンDホルモンは対象となる細胞の受容体と結合し、カルシウムの輸送と利用に関する様々な種類のタンパク質の合成を制御している。受容体は2つのドメインで構成されている。一方はホルモンと結合するドメイン、もう一方はDNAと結合するドメインである。そしてこの受容体は似たタンパク質の「9-シス レチノイン酸受容体」(9-cis retinoic acid receptor、RXR)と組になって一緒にDNAと結合し、場合に応じて合成を活性化したり抑制したりする。ここに示す図はクライオ(低温)電子顕微鏡によって得られた構造から作られたものである。4つの原子レベルでの構造がこのモデルの構築に用いられている。リガンド結合ドメインはPDBエントリー 1dkf1db1より、DNA結合ドメインはPDBエントリー 1ynw2nllより得られたものである。なお電子顕微鏡データはEMDataResourceまたはPDBjのEM Navigaterでみることができる。

ホルモンの維持

上:ビタミンDにヒドロキシル基を付加する酵素(PDB:3c6g)、下:ビタミンDからできたホルモンの運搬を助けるビタミンD結合タンパク質(PDB:1j78)

ビタミンDはホルモンとしては不活性であり、活性化するには多少の化学的変更が必要となる。その反応は、ビタミンDにヒドロキシル基(hydroxyl group)を付加する酵素によって行われる。そのような酵素の1つを左図上に示す(PDBエントリー 3c6g)。この酵素は反応を行うのにヘム基(heme group)を使う。ホルモンが作られると、対象となる細胞に運搬する必要があるが、これは簡単ではない。なぜならこのホルモンはそれほど水に溶けやすい分子ではないからである。そこで、左図下に示す特別な「ビタミンD結合タンパク質」(vitamin D binding protein、PDBエントリー 1j78)を個々のホルモン分子に付き添わせて、必要とされる場所へホルモンを運搬している。

構造をみる

ビタミンD由来のホルモンと弱くしか結合できない変異型のビタミンD受容体のホルモン結合ドメイン(PDB:3m7r)

表示方式: 静止画像

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ビタミンが欠乏すると、ビタミンA不足によって起こる夜盲症(night blindness)やビタミンC不足によって起こる壊血病(scurvy)のように、病気を引き起こすことがよくある。また幼い時にビタミンDが欠乏すると、弱い構造の骨が形成されてしまう「くる病」(rickets)を引き起こすことがある。この病の原因として、食物から摂取するにビタミンDがない、あるいはビタミンDホルモンを処理し検知する仕組みに不具合があるなどいくつかの原因が考えられる。PDBエントリー 3m7rには、ホルモンと弱くしか結合できない変異型受容体のホルモン結合ドメインを含んでいる。変異型受容体と天然型受容体を比較するため、上図下のボタンをクリックして対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. ビタミンDに関係する病気を治療するための薬として使う、ビタミンD類似分子の開発が精力的に進められています。PDBにはこのような試験的な分子の構造が多数登録されています。
  2. ビタミンD受容体は、エストロゲン受容体(estrogen receptor)など他のホルモン受容体分子と似ています。PDBjのGASHRASH、RCSBのCompare Structuresなどの構造比較ツールを使って、どれぐらい構造が似ているかを確認してみてください。

参考文献

代表的な構造

1db1: ビタミンD受容体
ビタミンD受容体はビタミンDから作られたホルモンを検知し、カルシウムの管理に関わる遺伝子の発現を制御する。この構造には受容体のホルモン結合ドメインが含まれている。
1ynw: ビタミンD受容体
ビタミンD受容体はビタミンDから作られたホルモンを検知し、カルシウムの管理に関わる遺伝子の発現を制御する。この構造には、受容体のDNA結合ドメインにDNAが結合した構造と、結合相手となるタンパク質RXRのDNA結合ドメインが含まれている。
1j78: ビタミンD結合タンパク質
このタンパク質はビタミンDから生成されたホルモンと結合し、血流を通じてホルモンを運搬する。
3c6g: CYP2R1
この酵素はビタミンDを活性型ホルモンへと変換するのに必要なヒドロキシル基付加反応を行う。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2012年11月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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