145: 伝令RNAのキャップ形成(Messenger RNA Capping)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
伝令RNAにキャップを付加する酵素群。上:リン酸を除去する酵素(青)とRNA鎖にヌクレオチドを転移する酵素(緑) PDB:3kyh、下:メチル化反応を行う酵素 PDB:1ri1

私たちの細胞において、転写(transcription)は単にDNAを読み取って相補的なRNA鎖を作るだけの過程ではない。RNAポリメラーゼ(RNA polymerase)が活動を始めるすぐに、細胞は変化を加え始める。伝令RNA(メッセンジャーRNA、mRNA)の長さがまだ30塩基対程度の時、細胞は最初に加える変更として、末端にグアノシン(guanosine)ヌクレオチドをつなげ、鎖の末端に「キャップ」(cap、ふた)をかぶせる。この「キャップ」にはいくつか一般的ではない点がある。グアニン塩基(guanine base)はメチル化されており、通常単一のリン酸がつながっているところに3つのリン酸がつながっている。またヌクレオチドの向きが通常のヌクレオチド同士の接続とは反対向きになっている。この珍しい構造は核酸を消化する酵素からRNAを保護するとともに、伝令RNAを利用する分子が識別できるようにするための目印ともなっている。その後、細胞は伸長中の伝令RNAに更なる変化を加える。まずポリAポリメラーゼ(Poly(A) polymerase)の働きによってもう一方の端にアデノシン(adenosine)ヌクレオチドの連なりを追加し、次にタンパク質をコードしていない領域を切り出す。

キャップをかぶせる

伝令RNAの末端にある「キャップ」は3つの段階を経て付加され、その各段階の反応はそれぞれ別々の酵素によって行われる。できたばかりの伝令RNAは末端に3つのリン酸があるが、ここからリン酸を1つ除去する反応が最初の段階で行われる。次に、2つ目の酵素が新たにできた2つのリン酸を持つ末端にGMPを付加し、3つのリン酸を持ち通常とは逆方向に配置された珍しい結合を作る。最後に、3つ目の酵素がグアニン塩基をメチル化し、更に認識されやすくする。驚くべきことに、これら3種類の酵素はRNAポリメラーゼが持つ長いリン酸化された尾部につながっており、新たな伝令RNAが作られるとすぐにきっちり正確な場所に修飾を加えることができるよう待機させられている。

キャップをかぶせる動作

ここに3種の酵素全てを示す。上図上に示す複合体は酵母由来の構造(PDBエントリー 3kyh)で、最初の2酵素が含まれている。中央にある2つのサブユニット(青い部分)はリン酸を除去する反応を行い、両側にある2つのサブユニット(緑色の部分)はRNA鎖にヌクレオチドを転移する。私たちの細胞では、1つの長いタンパク質鎖に2つの酵素がくっついたものがこれら2つの反応を行う。また、上図下の酵素(PDBエントリー 1ri1)はメチル化反応を行う。

キャップの除去

左:古い伝令RNAや使い古された伝令RNAを認識してキャップを取り除く酵素複合体「Dcp1/Dcp2」 (PDB:2qkm)、右:エキソソームによって細かく切り刻まれたRNAからキャップを取り除く酵素「ごみ清掃人」(PDB:1st0)

細胞は伝令RNAを使い終えると、再び使えるるようにする必要がある。これには、キャップを除去しRNA消化酵素が作用できるようにすることが必要である。このキャップ除去を行う2つの酵素を上図に示す。上図左は 古い伝令RNAや使い古された伝令RNAを認識してキャップを取り除く酵素複合体「Dcp1/Dcp2」 (PDBエントリー 2qkm)で、RNA鎖の末端からヌクレオチドを分解していく酵素が接触できるようにする。また上図右に示すのは、キャップを取り除く酵素「ごみ清掃人」(PDBエントリー 1st0)である。こちらはエキソソーム(exosome)によって細かく切り刻まれたRNAからキャップを取り除く。

構造をみる

クロレラウイルスのキャップ付加酵素(GTPを伴う開いた型、PDB:1ckm)

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

GMPを付加する酵素はその複雑な反応を行う間に開いたり閉じたりする。そしてその反応は2つの段階を経て行われる。まず、GTP分子を見つけて周囲を取り囲み、酵素自身が持つリジン(lysine)アミノ酸へと付加する。次に、酵素は開いてGTPから取り除かれたピロリン酸(pyrophosphate)を放出し、伝令RNAの末端周辺を取り囲んで、ヌクレオチド転移反応を行う。この2つの段階が終わると、酵素は再び開いてキャップが付加された伝令RNAを放出する。これまでにウイルスが持つタイプの酵素で、いくつかの段階における構造が解かれている(PDBエントリー 1ckm1ckn1cko)。上図下のボタンをクリックすると対話的に操作できる画像に切り替えることができるので、そちらも参照してみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBエントリー 3rtx1p16 の構造は、RNAポリメラーゼ C末端の小さな一部分にキャップを付加する酵素が結合している様子を示しています。
  2. PDBエントリー 1cko のリガンドはキャップ付き伝令RNAの類似物質です。構造を拡大してリガンドのどの部分が付加されたヌクレオチドで、どの部分が元々あった伝令RNAなのかを調べてみてください。

参考文献

代表的な構造

3kyh: 伝令RNAの末端にキャップを付加する酵素
伝令RNAの末端には通常とは異なるヌクレオチドによるキャップが付加されている。この構造には酵素2種類の複合体が含まれており、これがキャップ構築反応のうち最初2段階の反応を行う。
1ri1: 伝令RNAの末端にキャップを付加する酵素
伝令RNAの末端には通常とは異なるヌクレオチドによるキャップが付加されている。この構造にはキャップ構築反応の最終段階を実行する酵素が含まれる。
1cko: 伝令RNAの末端にキャップをする酵素
伝令RNAの末端には通常とは異なるヌクレオチドによるキャップが付加されている。この構造にはキャップ構築反応のうちヌクレオチド付加反応を行う酵素が含まれる。この酵素の活性部位にはキャップがついている伝令RNAの類似物質が結合している。

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2012年1月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

	{
    "header": {
        "minimamHeightScale": 1.0,
        "scalingAnimSec": 0.3
    },
    "src": {
        "spacer": "/share/im/ui_spacer.png",
        "dummy": "/share/im/ui_dummy.png"
    },
    "spacer": "/share/im/ui_spacer.png"
}