130: リボスイッチ(Riboswitches)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
リボスイッチ(PDB:1u8d)

どうして1つのことをするのに2つ以上の分子を使うのだろうか?私たちの細胞においてタンパク質の合成は何千種類もの調整タンパク質によって制御され、これらが一緒になって働きいつどのタンパク質を作るのかが決められている。 一方、ある場合には細菌自身がタンパク質合成の管理者となって、伝令RNA(messenger RNA)をそれ自身の制御に使い、タンパク質の助けを必要としない方法を見いだしてきた。

自己制御

リボスイッチ(riboswitch)は伝令RNAに直接組み込まれた調節要素である。例えば、右図に示したリボスイッチ(PDBエントリー 1u8d)はプリン塩基(purine base)の濃度を検知し、グアニン(guanine)、ヒポキサンチン(hypoxanthine)、キサンチン(xanthine)と強固に結合する。このリボスイッチはプリンの輸送と代謝を司る酵素をコードしている伝令RNAの一部であるため、プリン塩基が増えるとリボスイッチに結合して、必要のないタンパク質の産生速度が抑えられる。

スイッチの開け閉め

リボスイッチはその機能を遂行するのにいくつかの技を用いる。まず、折りたたまれたリボスイッチがリガンド分子によって安定化される。細胞は、リボスイッチがリガンドの周囲を取り囲むように折りたたまれているかどうかをみればこのリガンドの濃度を検知することができる。次にリボスイッチの一部が伝令RNAの発現制御に使われる。小さな分子が結合していると、このスイッチング配列(ピンク色の部分)が折りたたまれたリボスイッチを固定する。しかしリガンドがなくなると、スイッチング配列はほどける。そしてこのスイッチング配列は典型的なもう1つのリボスイッチの配置構造の一部となり、これが転写やタンパク質合成を制御したり、また場合によってはタンパク質合成の促進や抑制を行ったりする。

どこにでもあるリボスイッチ

リボスイッチと様々なリガンド(左:マグネシウムイオン PDB:2qbz、中央:c-di-GMP PDB:3irw、3iwn、右:グルコサミン6リン酸 PDB:2z75)

多くのリボスイッチが植物、菌類だけでなく細菌でも見つかっている。これらは、プリン、アミノ酸、ビタミン(vitamin)、補因子(cofactor)といったさまざまな種類の分子の濃度を検知する。ここには珍しい例を示す。右図左はマグネシウムイオン濃度を検知するリボスイッチ(PDBエントリー 2qbz)である。右図中央は c-di-GMP(PDBエントリー 3irw3iwn、私たちの細胞内で使われる環状AMPのような二次信号伝達物質となるヌクレオチド分子)を検知するリボスイッチがある。右図右はグルコサミン6リン酸(glucosamine 6-phosphate)の濃度を検知するリボスイッチ(PDBエントリー 2z75)で、自身を切断するリボザイム(ribozyme)となる。

構造を見る

左:グアニン特異的リボスイッチ(PDB:1y27)、右:アデニン特異的リボスイッチ(PDB:1y26)

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リボスイッチはリガンドに対する特異性が非常に高く、強さと選択性においてタンパク質に匹敵する。ここには2つの似たリボスイッチを示す。一方はグアニン特異的(PDBエントリー 1y27)で、もう一方はアデニン特異的(1y26)である。ヌクレオチド配列はほとんど同じで、折りたたまれた形もほぼ同じである。74番残基のヌクレオチドは特異性において重要な残基で、典型的なワトソン-クリック塩基対をリガンドと形成し、アデニンとグアニンを識別する。塩基対形成部分をより詳しく見るには、図の下のボタンをクリックし、対話的操作のできる画像に切り替えてみて欲しい。

理解を深めるためのトピックス

  1. PDBには様々な種類のリボスイッチの構造が登録されています。ここに挙げた以外の例を見つけることができますか。
  2. リボスイッチはRNAで見られるたった4種類の塩基を使ってリガンドを認識しています。Ligand Explorer を使ってどのようにして異なるリガンドを認識しているのかを理解することができます。例えば、ここをクリックするとS-アデノシルメチオニン(S-adenosyl methionine)と結合するリボスイッチの例を見ることができます。

参考文献

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2010年10月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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