124: コンカナバリンAと循環置換(Concanavalin A and Circular Permutation)

著者: David S. Goodsell 翻訳: 工藤 高裕(PDBj)
コンカナバリンA(PDB:1cvn)

進化は素晴らしいいじくり回し屋である。一旦うまく行く計画を見つけると何度も使い回し、それによって多くの変更と改善を行うことがよくある。この現象は身近な生物で簡単に見ることができる。ほとんどの哺乳類は4つの脚を持っているが、これはあらゆる種類の手足、更には水かき、翼にまでも進化してきた。またほとんどの植物は葉で覆われているが、これはとがった針葉から巨大なジャングルの葉状体まで多様な形態へと進化してきた。タンパク質の配列と構造においても、変化を通して生み出された同様の多様性が見られる。タンパク質は個々のアミノ酸がゆっくりと変異することによって進化するが、より大きな断片規模での変化によっても進化する。進化に成功したタンパク質の遺伝子は切り出され、新たな組み合わせの中で再構築される。

環状の理由

循環置換(circular permutation)はタンパク質進化において最も珍しい変化の一つである。循環置換という名前が何に由来するかを理解するため、鎖の両端が互いに接近している折りたたまれたタンパク質を想像してみよう。そして今、この両端が化学的に結合したとしよう。すると端のない環状のタンパク質鎖ができあがる。次に、異なる場所で環状鎖を切断する。こうしてできたタンパク質は、末端の場所が異なることを除けば元と同じ折りたたまれたタンパク質となる。

順序が変わったタンパク質

この現象はまさにコンカナバリンA(concanavalin A)というタンパク質で起こっている。これは炭水化物に結合するタンパク質で、ここに示すのはPDBエントリー 1cvn のタチナタマメ由来のものである。このタンパク質のアミノ酸配列が1970年代に決定された時(この時は遺伝子を見て決定したのではなく、実際にタンパク質のアミノ酸配列を見て決定された)、ソラマメ由来のタンパク質であるファビン(favin)と似た配列を持っていることが分かった。しかし配列の順序が入れ替わっていて、まるでタンパク質鎖が真ん中で切断され2つの半分ずつが交換されたようになっていた。細胞内で更に研究が進められた結果、コンカナバリンAはファビンと似た過程で合成されるが、前駆体に下図の(PDBエントリー 3cna)ような循環置換が加えられることが明らかになった。リボソームで作られた前駆体タンパク質は余分な尾部と環状領域(点線部分)を持っている。この環状領域が切断されて新たな鎖の末端となり、元々の末端はつなぎ合わされて新たな環状領域となって成熟型が作られる。

コンカナバリンA(左:前駆体、右:成熟型)PDB:3cna

遺伝子での順序入れ替え

循環置換がコンカナバリンAで発見されてから、他にも数々の事例が見つかってきた。ところが多くの場合はゲノム中で起きた循環置換で、より面倒な実際のタンパク質を切り貼りして起きたものではない。ゲノムの場合、遺伝子の前部が末端部へと移される遺伝子再編成が起きる。移動部分の大きさは様々で、末端にあるらせん1つだけが動く場合(例:PDBエントリー 1ui91h0r)もあれば、ドメイン全体が入れ替わる場合もある。また次項で述べるように、科学者が人為的に循環置換を起こさせている場合もある。

意図的に入れ替える(Permutation on Purpose)

野生型および循環置換を加えたグルカナーゼ(PDB:2ayh、1ajk、1ajo、1cpm)

表示方式: 静止画像

対話的操作のできるページに切り替えるには図の下のボタンをクリックしてください。読み込みが始まらない時は図をクリックしてみてください。

科学者もまた素晴らしいいじくり屋である。循環置換の過程を発見するとすぐに、自分自身でも試さずにはいられなかった。ここに示すグルカナーゼ(glucanase、PDBエントリー 2ayh1ajk1ajo1cpm)タンパク質は、遺伝子を異なる場所で切断して入れ替えることによりそれぞれ異なった置換が行われている。この図ではそれぞれのタンパク質鎖の一方の端を青、他方の端を赤の色で表示し、その間は虹色で塗り分けている。タンパク質の折りたたみ構造全体がいずれも同じで、末端位置だけが異なることに注目して欲しい。このことは、タンパク質の立体構造を形成する過程は頑丈であり、多少配列が入れ替わろうとも配列によって決まることを示している。

構造をみる

コンカナバリンA(左、PDB:3cna)と落花生のレクチン(右、PDB:2pel)

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循環置換はコンカナバリンA(PDBエントリー 3cna)と別のレクチン(例:落花生のレクチン PDBエントリー 2pel)とのアミノ酸配列比較によって初めて発見された。後になって構造が解かれた時、予想されたように、鎖で循環置換が起こっているにも関わらず非常によく似た立体構造を示した。PDBjのGASHRASHやRCSBのCompare Structuresを使って、今回の記事に登場するPDBエントリーの立体構造比較を行うことができる。これらのツールを使ってみると、循環置換されたタンパク質の処理には少々混乱を来たし、鎖の一部分だけを重ねて比較処理を終えていることが分かるだろう。だが幸いこれらのツールはコンカナバリンAと落花生のレクチンのように似た折りたたみ構造を持つタンパク質の比較では十分機能する。

理解を深めるためのトピックス

  1. 循環置換された他のタンパク質の事例をPDBで見つけることができますか。なお、この探索においてCPDBSISYPHUSが助けになるでしょう。
  2. 循環置換がタンパク質の機能を向上させるのにどのような方法が考えられるでしょうか?

参考文献

この記事はRCSB PDBPDB-101で提供されている「Molecule of the Month」の2010年4月の記事を日本語に訳したものです。転載・引用については利用規約をご覧ください。

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