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PDB:3csy

タンパク質名

エボラウイルス・糖タンパク質 (EBOV GP) - 抗体 複合体

生物種

エボラウイルス / ヒト

生物学的役割

ウイルスの中には、核酸としてDNAを持つものとRNAを持つものが存在する。一般的に、DNAウイルスは宿主の核内で増殖し、RNAウイルスは宿主の細胞質で増殖する。また、RNAウイルスは一本鎖RNAウイルスと二本鎖RNAウイルスに分類される。さらに一本鎖RNAウイルスは、プラス鎖とマイナス鎖に分けられる(Table I)。プラス鎖は遺伝子が5'末端→3'末端方向にコードされており、マイナス鎖は3'末端→5'末端方向にコードされている。エボラウイルス(EBOV)は、一本鎖のマイナス鎖RNAを持つ、フィロウイルス科のウイルスである。エボラウイルスのゲノムには7つの遺伝子が含まれており、それらから計8つのタンパク質が合成される。4番目の遺伝子のゲノム編集により、膜貫通型糖タンパク質 (GP)と分泌性糖タンパク質(sGP)が作り出される。GPは翻訳後に、前駆タンパク質転換酵素であるフーリンによって開裂され、ジスルフィド結合で繋がれたGP1とGP2の二つのサブユニットを形成する。GP1は宿主の細胞膜の付着に関わり、さらにGP2を介してウイルスと宿主の膜融合が起こる。エボラウイルスは受容体を介するエンドサイトーシスで宿主に侵入し、アクチンと微小管依存的にエンドソームに運ばれると考えられている。さらにGPは、エンドソーム内のカテプシン(細胞内外より取り込まれてくる物質を効率良く分解するための高濃度のプロテアーゼ群)によって処理される。

エボラウイルスのGPはワクチン開発の主なターゲットとなっており、そのGPの結晶構造により、エボラウイルスのGPを介した宿主への感染メカニズムの理解が深まり、将来のワクチン開発にも役に立つことが期待される。

ウイルスの種類 代表的なウイルス
一本鎖DNAウイルス TTウイルス(肝炎)
二本鎖DNAウイルス ヒトアデノウイルス(結膜炎)、HHV1単純ヘルペスウイルス1、HHV2単純ヘルペスウイルス2、HHV3水痘・帯状疱疹ウイルス、HHV5サイトメガロウイルス、HHV8カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、痘瘡ウイルス
二本鎖DNAウイルス(中間体型) B型肝炎ウイルス
一本鎖RNAプラス鎖ウイルス SARSコロナウイルス、MARSコロナウイルス、ノロウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス
一本鎖マイナス鎖RNAウイルス エボラウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ラッサウイルス
一本鎖プラス鎖RNAウイルス(中間体型) HIV、SIV
二本鎖RNAウイルス ロタウイルス

立体構造の特徴

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EBOV-GPの構造: Figure 1にエボラウイルスGPの概略図とGP1/GP2のモノマー構造をそれぞれ示す。今回の報告で得られたエボラウイルスGPの結晶構造には、アミノ酸残基の33〜189番目、214〜278番目、299〜310番目、502〜599番目が含まれている。Figure 1Aに示すように、GP1(赤色)は3量体構造をとり、全体として杯様(chalice)の構造となっている。3つのGP2(緑色)がそれらをとり囲んでいる。GP1とGP2はジスルフィド結合で繋がれている。RBSは3量体構造の中心部に位置していると考えられている。Figure 1Bと1Cに分子レベルで見たGP1とGP2の構造をそれぞれ示す。 GP1は3つのサブドメイン構造から構成されている(Figure 1B)。Baseサブドメイン(33-69, 95-104, 158-167, 176-189残基)は二つのβシートから構成され、GP2の内部融合ループ(internal fusion loop)と疎水性相互作用をしている。Headサブドメイン(70-94, 105-157, 168-175, 214-226残基)はBaseサブドメインと糖鎖キャップサブドメインの間に位置している。糖鎖キャップドメイン(227-310残基)は4つのN結合型糖鎖修飾部位(N228, N238, N257, N268)を持つと考えられている。GP1の3量体形成時でも、糖鎖キャップドメイン間の相互作用は観察されておらず、完全にウイルス表面に露出した構造となっている。 GP2は内部融合ループ領域とαヘリックスから成るHR1/HR2領域から構成されている(Figure 1C)。今回明らかにされた結晶構造中では、HR2領域は観察することができなかった。511-556番目のアミノ酸残基から成る内部融合ループは、βストランドに支えられた疎水性のヘリックス様の融合ペプチド領域(L529, W531, I532, P533, Y534, F535)を持つ。GP2のこれらの疎水性側鎖が、3量体GP1のHeadドメインと相互作用している。HR1領域はゆりかご様(cradle)の構造を形成しており、GP1をとり囲んでいる。

EBOVとKZ52複合体の構造: 今回報告されたエボラウイルスのGPの構造には抗体KZ52が結合している。この抗体は1995年に発生したキクウィト(コンゴ民主共和国)でのアウトブレイクからの生存者由来のものである。Figure 2にエボラウイルスGPと抗体KZ52の複合体構造を示す。KZ52は糖鎖修飾がされていない、杯様構造のGPの根元部分に結合しており、GP1の42-43残基とGP2の505-514残基、549-556残基を認識している。

エボラウイルスの疫学

エボラウイルス(EBOV)は出血熱を引き起こし、致死率は50〜90%である。これまでにザイール、スーダン、コートジボワール、レストン(米国バージニア州)でエボラウイルスが確認されており、ザイール型は特に致死率が高くなっている。2007年ブンディブギョ(ウガンダ共和国)で5つ目の種が確認されている。エボラウイルスに感染すると、ウイルス増殖の制御ができなくなり、多臓器不全が起こった場合、6〜9日で死亡してしまう。高ウイルス血症や免疫不全の状態になると致命的となる。一方で、すばやく免疫系が活性化された場合は、生き残る可能性がある。 エボラウイルスの主な感染源としては、オオコウモリ科のフルーツコウモリがウイルス感染の宿主となる。熱帯雨林で活動しているチンパンジー、ゴリラ、フルーツコウモリ、サル、森林カモシカ、ヤマアラシなどの感染動物の血液、分泌物、臓器、その他体液からヒトへ感染する。さらに、感染患者の血液、分泌液、臓器、その他の体液に直接接触することでヒトからヒトへ感染する。また、医療従事者は、患者を治療した際にエボラウイルスへの感染が疑われた事例もある。感染制御予防策が厳密に実施されていなかったため、患者との密接な接触を介して感染したと考えられている。死者を葬儀する時、患者の体に直接触れたことでエボラウイルスに感染した事例も報告されている。また、インフルエンザウイルスとは異なり、飛沫感染する可能性は非常に低いと考えられている。

症状・診断法

潜伏期間は、感染してから症状が発現するまで通常2〜21日程度である。症状としては、初期症状突発性の熱、筋肉痛、頭痛そして喉の痛みなどが挙げられる。その他の症状としては、下痢、発疹、腎障害および肝機能の症状、嘔吐、出血をきたす場合がある。血液検査値の所見としては、白血球、血小板数、肝酵素上昇がみられる。 マラリア、腸チフスおよび髄膜炎のような他の疾患とエボラを区別するのは難しくなっている。エボラ感染による症状の確認には、抗体捕捉免疫酵素測定法(ELISA)、血清中和試験、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ、電子顕微鏡法、細胞培養によるウイルス分離等の方法がとられている。 霊長類を用いたワクチンの予備試験ではよい結果を示しているが、ヒトのエボラウイルス感染に使うためのワクチンは未だに開発されていない。1994年以降、エボラウイルス感染が増大傾向にあり、ワクチンと治療法の開発が急務となっている。野生動物からヒトへの感染リスク減らすためには、感染したフルーツコウモリや猿との接触を避け、それらの生肉の消費を避けることが重要である。ヒトからヒトへの感染を抑えるためには、感染患者の体液に触れないことが鍵となる。

タンパク質構造データバンク(PDB)

参考文献

原論文

  • Lee, J.E., Fusco, M.L., Hessell, A.J., Oswald, W.B., Burton, D.R., Saphire, E.O. Structure of the Ebola virus glycoprotein bound to an antibody from a human survivor. Nature, (2008) 454:177-182 PubMed: 18615077

その他

著者: 山田 彩華, 黒田 大祐


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